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俳句すんなバズーカ44

 おどろおどろしい音楽とともに近づく鮫の背びれはおろか両側に添えられた小さな瞳の光さえ波間から見え隠れてしまい撮影をやり直す羽目になったB級映画スタジオ午後2時20分……甘いムードが編集を施すまでもなくフィルムが湯立っておぼろげに変わってしまう。柔らかい光を注いだときにだけ成長をみせるよく飼いならされたサボテンが、窓辺に3本並んで空模様と明日の天気を互いに占い合っていた。秋の空が加速して占いを3つ全部当ててみせ、加速して冬になってもはやアルコールの美味しい季節だ。酒はいつ飲んでもうまい。熱かろうが冷たかろうが関係はない。それが酒ということが重要であって、決して甘くないということが何よりも重要なのだった。僕は指先から侵入していくる寒さ冷たさで意識が朦朧としていた。水玉模様のキノコがポンプ式に胞子をまき散らしているイメージだった。三拍子で回転して踊っている。僕の何でもないときにする鼻歌や口笛には三拍子の曲が多かったから、ステップのたびに僕の足から胞子が飛び出して周りには迷惑だったかもしれない。反省することでもないか。反省すると生きてらんないから酒を飲んでしまった。酒を飲む口実に反省を実行しているのかもしれない。アルコールが回るほどに不毛な話題から話題へ飛び移っていく足取りを加速させていく。小説だととにかく、歩いているときの足の描写を好んで読み漁っているのは、フェティシズムをはっきりとフェティシズムと言うような人は何だか話が通じなさそうで、対峙してみると余計に怖い気がしていた。怯えているのはとても楽で、怯えさせるのはそう楽じゃないという話だ。


 窓ガラス越しに、ロビーの時計が午後の2時半を示している。僕は映画俳優でも監督でもカメラマンでもなく、たった今買い出しを任されて気づいたらあれから10分が経過していてコーヒーもパンも買えていないどころかスタジオの玄関口を出たすぐの踊り場で茫然と立ち尽くしていただけの男だった。何も買わずに戻らずに事をやり過ごしてしまう準備なら、この状況に立たされた瞬間に決まりきっていた。こういうときに僕は、案外焦らない。これは強がりというのだが、のんびりしている風にみせようと普段以上に足取りを緩めて、どこか知らないところを目指して散歩に出かけてしまうのだった。脳内wiki哲学者がそのページとともに視界にひょっこり現れた。180度パペットの口みたくパクパクして、

「我々に知らないものなどない。我々が知らないものだと思って調べごとをするとき、どうして目的地も分からずに出発ができるのだろうか。どんな知識も、我々がそれを知らないわけはないのだ! 初めから備わっているのだ! パクパクパクパク。」

 そういうわけだった。僕は知らないけれど本当は知っている場所へ向かう……なわけあるか。たとえ領域の中身が充満していなかろうと、その領域をなぞりつつ中身を満たしていくくらい人間には朝飯前なんだって、古代の哲学者に悪態ついてしまうくらいには、仕事を飛んでしまい暇だったんだ。果たしてあれは仕事だったのだろうか。金を貰うからプロだとか、そんな発想だから日々寂しい思いをしているのかもしれない。

 3人の中学生が自転車をこいで目の前を通り過ぎて、元気そうだ。膨らんだバックを背負って、それぞれ知らないバンドのキーホルダーが揺れている。ここで3人とも頑張れよとか、3人の後ろ姿を眩しく思うのは、あまりにも年寄りくさい。僕は一応まだ若いのだ。だからとても意識的に頭の中で彼らに悪態ついて、歳はそう離れてないからなという敵対心を持つことで、その余剰エネルギーでなんとか歩く気力を取り戻しながらも、追いついてきた焦燥感によって足取りが楽しくもない三拍子になってしまう。今からでもコーヒーとパンを買って戻るのか。それはないだろう。哲学者のパペットが口をパクパク。頭の中で群生している。向日葵畑よりも奇妙な光景だ。とにかく解決方法は酒を飲むことにあった。だがここで単に酒を飲むのは人間として罪悪感の方が勝ってしまう。だから人は反省をする。反省すると生きてらんないから酒を飲む。つまり反省とは酒を飲むためにある自分への言い訳でしかないのだった。酒飲まない奴は酒飲まないからっていい気になるなよ。アルコールの目を通してみれば、たいてい飲んでない奴の方が重症なんだから。

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