プロローグ
『人が信じられないから先に裏切った』
あなたは彼女に耐えられるか
『なんで別れたか?んー、まあちょっと合わなくて~
バイバーイって感じで別れた!』
「いや、端的すぎる笑笑ほんとに悲しんだ??」
『まあ、一応は』
『メンタルえっぐ』
『それでー次何飲む?』
『んーハイボールかな?』
『おっけー』
可哀想に。って視線を向けられるのは嫌いだ。
適当に口から出てくるその言葉が私をもっと可哀想にさせる。
だから可哀想じゃないように生きてきた。
何も考えてないように見せる事が1番可哀想じゃ無さそうでそんな子を誕生させた。
それをずっと演じてきた。
でも自分の利益になるなら全然涙も流してきた。
私はずっとその子を演じてる。
小学生の時母は居なくなった。
仕事詰めなのに毎日学校から帰るとご飯があって仕事が終わると一緒に遊んでくれる。でもある日
『ごめんね、もうすぐ出ていこうと思う』
『え、やだ。やだよー。なんで。』
小学校低学年だった私はものすごく泣いて嫌がった
『ごめんね、居るよごめん』
それからもっと忙しくなってそれどころでは無さそうだった。
母と父は喧嘩が多くて、私は喧嘩の度に泣いていた。
怖くて怖くて泣くことしかできなかった。
ある日
『これ引き出しに隠しておいてくれない?』
新聞紙?
何が入ってるんだろ。
ん?
なんでこれ?
5本くらいの包丁
なんで?
よくわからなかったけど何かまずいことになっているのはわかった。
『うん、わかった!』
よく分からないふりをした。
聞けなかった。
なんでだろう
(もうすぐ出て行こうと思う)
それが頭をよぎった。
父の前ではそれは話せないし、
んーどうしよう。
と、小学六年生の私はなぜかスケッチブックに状況を書いていた。
そして次の月、学校から帰ると青ざめた父がいた。
『あ、、おかえり。あのな、ママが、ママがいなくなった』
ん??
あー。そっかやっぱりそうか。今日だったんだ
『あー、そうなんだ。わかった』
もっと驚くべきだったと思う。
でも予想が当たっただけで私にとってあまり驚きがすくなかった。
しばらくするとおばあちゃんが家にきた。
私の大好きなおばあちゃん。
小さい頃はずっとおばあちゃんといた。
だからうれしかった。
小学生からは毎週末おばあちゃんの家に泊まりに行ってて、とにかく安心したというより会えたことが嬉しかった。
私は悲しいとかそんな感情がすぐには沸かなくて、周りとの温度差を感じた。
お兄ちゃんもたまに来るようになった。
周りの大人たちは私を可哀想だとか大変だとか言っていた。でもそんなこと言っても何も変わらないじゃん。どこにいるのかもわからないのに
まあ予想はついてるけど。
おばあちゃんの家に行く途中に病院が何軒かあって
内科がふたつに眼科、そして精神科。
たぶんそこにいるんだろーなー。
なんかそんな気がしていた。
でも言わなかった。
母が言わないのは多分。
『いつか殺されるかもしれない』
ママはそう言って包丁を隠させたから。
喧嘩の時殴られてる母を見ていたから、それはないよなんて言えなかった。
あーあ。
もう父しかいないから包丁を隠してる場所を教えた。
あいつはおかしくなったのか?
何も知らないみたいな顔をして聞いてきたから
ちょっとだけ手が震えた。でも何も言わなかった
ただでさえ細くて身長も高い母が30キロ代になるまでご飯が食べれなくなっていたそうだ。
少したってママ側のおばあちゃんが教えてくれた。
背骨は浮き出て肋骨も浮き出て
まるで骸骨に皮をかぶせたみたいだった。と
居なくなってから1ヶ月くらいして
居場所が分かった。
私の想像通りの病院だった。
入院してたっぷりのご飯とたくさんの薬を飲んでいる母は
最後に会った時よりも人間っぽい見た目になっていた。
ごめんね…
私を見るなり涙を頬に伝わせながら母は言った。
うん、大丈夫だよ。
『手伝いにきてくれる人がくるから』
全然大丈夫じゃない。
知らない人が毎日家事をしに来てるよなんて
言えるはずもなく
たわいない話をして帰った。
その人が来たのは母が居なくなって数週間経った頃
学校から帰ってくるとその人は私に笑顔を向けていた。
なんだか幸せそうだった。
『まりちゃんね、これからよろしくお願いします』
それからあんまり覚えてない
気がつけば3ヶ月が経っていた。
その頃父は2日に一回は外に酒を飲みに行っていた。
そしてその他の日は家で浴びるほど酒を飲んでいた。
父が家にいる日は苦痛だった。
毎日なぜか怒られる。
何もしていないのに怒られる。
父がご飯を食べ終えてお皿洗いとキッチンの掃除は毎回していた。
でもある日先にお風呂に入っておいでと
言われ、お風呂に入った。
お風呂からあがると父は激怒していた。
もう忘れていたのだろう
酒のせいだ。
『お前は本当に何もしない』
???
頭の中が分からなくなった。
私の今までは今日1回でなくなったようだ
ああ。ははは
そんなもんか。
それから父がいる日はさらに罵倒が強くなった。
『お前は淫乱女だ』
『お前は何も頑張らない』
『お前は母親と同じだ』
ちょっと分からなかった
でも怖かった。
誰かに相談したところで誰も助けてはくれなかった。
だからリビングで流れている映画を耳だけ集中して聞いていた
それでなんとか辛くないかも。
辛くない、辛くない。
ああ、この映画面白いな…
よくわかんないけど、それしかできなかった。
個体差が大きいから口答えするのは怖かった
殴られるかもしれないから。
みんなは朝起きるとテーブルの上にあったご飯や調味料が全て床に落ちていたことはある?
全部ひっくり返って、お皿は割れてまるで大惨事
でも父は覚えてないのだ。
朝起きると記憶が無いという
毎回だ。
記憶が無いとは本当に羨ましいことだ
私に対する暴言も部屋を荒らしたことも何も覚えていないのだから
この調子だと母に暴力を振るっていたのも覚えてないのだろう
ああ、羨ましい
私もそうなりたい。
何も覚えていないと
ごめんね覚えてないと言えば済む
酒のせいにすれば、酒のせいにすれば…
酒を飲んでみた。
大して美味しくなかった
というか焼けるように痛かった
ウイスキーストレートだった。
私はよく分からなかったから
これを飲めばいいのかもと父が居ない時に飲んでみた
飲んではみたものの美味しくなくて捨てた。
これを飲んでおかしくなってるのか
全然美味しくないのに
なんで飲むんだろ
数ヶ月経って母は退院した
母は県外で仕事をするらしい。
周りはものすごいスピードで進んでいく
私をおいて
行かないでと泣いたけど
母は県外に行った。
そんな頃父と家政婦が結婚したいと言ってきた。
私は嫌だった
大人はなんでこう勝手なんだろう
自分だけ辛いみたいな顔して
幸せになってもいいだろ
お前は幸せなんだから
と訳の分からないことを言ってくる
確かに生きていくのには必要なものは揃っている
でもこの状況を幸せだと言われるのは
違和感。
これは幸せな状況なのか
私には死にたいと思うほど辛いのに
死にたい、死にたい。ああもう死んでしまおうかな
死にたかった
誰も私の気持ちに寄り添うだなんてことは
しなかった。
学校の先生でさえゴシップ扱いで
私から家の状況を聞き出そうとしてきた
みんなにとってこれはゴシップで
可哀想だと思っている自分が好きなのだ
誰も助けてはくれない…
自分しかいない…
ああ。悲しいね
もう消えてしまえばいいのに
母から言われた
『子供が産まれたら浮気しなくなると思った
けど変わらなかった』
ああ、ごめんね
意味がなくて
産まれた意味がなくて
私が産まれても母は辛かったのだ
産んで良かったと
後付けはされたが本心を聞いてしまったあと
そんな言葉はもう私には響いても来なかった
私の心がなくなったのは
空っぽになったのは
その頃からだろう