女性に身長の話をすると痛い目をみる
ここに書いてあることは全て五十年の間、私が見てきた事実であり、彼等が残した真実である。
私は私と彼等の為に、この書を君に託すことにする。
【異世界の心得】
異世界に行ってみたいと、そう思ったことが一度でもあるだろうか。
最強のチートスキルを貰って敵を圧倒、可愛い女の子と幸せな毎日。そんな世界を望んでいるなら、私が行った世界にはあまり惹かれないかもしれない。
中世ヨーロッパの街並み。剣と魔法の世界。そこまでは私が想像する異世界と何の変哲もないファンタジーが広がっていた。違う点はまあそうだな、魔王が少し強いくらいだ。
早速異世界に行く方法から書いていこうと思う。
異世界に行く方法は二つある。
あちらの世界で召喚魔法が発動した場合。
こちらの世界で善人の死亡が確認された場合。
私は後者の方法で異世界に行った。自殺だ。所謂、転生というやつだ。
どうやら善人の基準は大分低いらしい。
異世界に行く方法は以上だ。君達が善人でないなら、召喚されることを待つ方が得策だろう。勿論、異世界に行きたいと願うならばだが。
最後に、少しばかりのアドバイスを授けよう。
『女性に身長の話をすると痛い目をみる』
是非心得てから、異世界に赴いてほしい。
■
――――しぬ……。俺は、俺を地上六〇メートルの垂直落下で終わらせる。遺書は書かなかった。
逃げることは悪いことじゃない。そりゃそうだろう。その『逃げ』はあらゆる選択肢を考慮し、今の自分も未来の自分も助けることが出来る最善の一手だ。
俺はどうだろうか。相談できた。護ってもらえた。親身になってくれる相手もいた。抗えた。足掻けた。藻掻けた。
……希望もあった。
世間一般だと自殺は悪いことらしい。結果として、俺は悪い奴として世界に別れを告げることになったのだろうか。
もっと色々したいこともあったし、未練だってある。でも、もういいやと
どうやら、本当に自殺は良くないらしい。もう地上〇メートル、人生の回想すらロクにさせやしない。
突然、目の前がまばゆい光に包まれた。
地面に激突した瞬間、痛みを感じるか感じないかの刹那。
――――気付いたら、見知らぬ場所に立っていた。
真っ暗な空間、床も壁も天井も無い。ここは何処だ。そもそも、俺は死んだのではないか。幾つもの疑問が湧き出てくる。そして、ここが死後の世界かと結論付けたそのときだった。
「ほう、転生者か。久方振りじゃのう……」
声の方を振り返る。
身丈は小学生くらいだろうか。黒のドレスを身に纏い、怪し気な瞳をこちらに向けていた。
転生者。気になる単語が飛び出してきた。
俺は漫画やアニメを好んで観るが、別にファンタジーを信じているわけじゃない。生まれ変わりや異世界なんて、その代表例だ。
しかし、目の前に俺の理解から遠く離れた存在がいることも事実。物分かりが良いというよりは、変に刺激して危険に自身を投下したくないことの方が強いだろうか。
「あんたは、何者なんだ?」
おそるおそる問いかけると、予想はしつつも有り得ないだろうと捨てていた答えが返ってきた。
「わしはただの女神じゃよ。貴様を異世界に送り届ける役目がある」
俺は女神というと、艶のある美しい髪に、否応にも惹き込まれる瞳、脚が長くスタイル抜群な女性を思い浮かべる。
一方この女神は、ロリ体形にロリババア口調、ゴスロリアーマーとロリの三拍子だ。
「女神って、思ってたより小さいんだな」
空気が変わった。死ぬ間際の恐怖を感じ、頭の中で危険信号がうるさく鳴り響く。その瞬間、額に激痛が走って俺の意識は薄れていった…………。