初めての魔法
ダンジョンに入ると、中は石造りの建物みたいになっていた。
そしてなんか明るい。
さっきまで薄暗い森の中に居たのもあるが、電気が点いてるみたいに明るかった。
そしてここは縦横10mくらいの四角い部屋だ。
正面には黒い壁サイズの入り口みたいなものがある。
後ろを見ると黒い壁もあった。
入り口から中に入るとかなり広い。
こっちも横幅は10mくらいかな?
大人5人が手を広げて横並びしても問題ないくらいの広さだ。
だから5人パーティなのだろうか、武器とか構えたら邪魔になっちゃうもんね。
天井も高い。
上に行くにつれ暗くなって天井はよく見えない。
幅は良いけど天井ってこんなに高い必要あるのかな?
壁を見ると3mほどの高さに等間隔に光る石がはめ込まれているようだ。
あんなので地面を照らしきれるとは思えないけど…
壁際まで行き石を凝視するがまぶしくない、相当な光量のはずなのに不思議だ。
ある程度ダンジョン内部を調べたところで気づく、ここって危ないのでは?
急いで部屋まで戻り黒い壁に飛び込む。
外だ、よかった。
座ろうとするとバットが引っかかって座れなかった。
ちょっとグエッってなってしまう。
リュックごとバットを降ろす。
リュックから水袋を出してコクコクと飲む。
「ぷはっ」
私はなんて軽率なことをしてしまったんだろう、ダンジョンは危険で危ないんだ。(語彙力)
すぐに戻ってこれたからよかったけど、とにかく危険で危ないんだ。(語彙力)
少しテンパっているかもしれない…落ち着け、落ち着け。
深呼吸をする。
「すぅ~、はぁ~。」
少し落ち着いてきた。
リュックの肩の部分に付いている留め具を外しバットを取る。
水袋を仕舞って背負いなおし、バットを持って立ち上がった。
これで良し。
今度は恐る恐るダンジョンに入る。
そもそも5人が居なくなってすぐに入ったのも危なかった。
何故か近くに居なかったみたいだけど、鉢合わせとか勘弁願いたい。
さっきと同じ四角い部屋だ。
入り口から中を覗くがやはり居ない。
まぁさっきも居なかったしそりゃそうか。
バットを抱えダンジョンを奥に進む。
最初は握っていたが疲れちゃうのでこうしている。
いくつか分かれ道などもあったし結構歩いてきたのだが、モンスターはまったく現れない。
これじゃあただの迷路だ。
暗い洞窟とか、ダンジョン内なのに空がある!?みたいなのよりは楽だと思ったけど、これはこれで大変かも。
通路の先に入り口を見つけて中を覗くとただの四角い部屋だった。
これ以外の入り口は無い、ここで行き止まりらしい。
ここまで左手法で来たから迷う事は無いが、これだけ歩いて何も無しか。
紙やペンなどがあるかわからないが、今度来るときは似たようなものを用意しようと心に決める。
マッピングしないとやってられない。
来た道を戻る途中でついにモンスターが現れた!
ちっちゃい人型だ、きっとゴブリンに違いない。
【ゴブリン】
やっぱりゴブリンだった、そういえばこうやって見えるようになったんだった。
最初の歩く木の枝は何て名前なんだろう?
バットを握り近づいていく、灰色で坊主頭のまぁなんというかゴブリンだ。
イメージしていた気持ち悪い感じと違ってなんだか愛嬌すらある。
ほんとにモンスターなのかな…少し距離を置いてジーっと観察する。
武器も持たずただまっすぐこちらに歩いてくる、走りもしない。
バットの届く距離まで来た、振りかぶらずに槍のようにツンと突き出す。
〈ポンッ〉
ゴブリンが消えて地面に何か残った。
【ゴブリンの石】
ゴブリンの石らしい、拾ってみる。
うん、石だ。
気づかなかったがゴブリンが握っていたのかもしれない、かなり小さな石だ。
壁に向かって投げつける、カツンと跳ね返って足元に転がる。
やっぱり普通の石だ。
いや、ただの石じゃん!
そもそも突っついただけでやっつけられるとか弱すぎる。
転んだだけで消えちゃうのでは?
ツッコミどころが多すぎるがまぁいいや…
せっかくの戦利品だから持って帰りたい。
だけどリュックにはまだパンが入っている、一緒には入れたくない。
小さい物だしとりあえずポーチに入れておこう。
これなら何匹来たって負ける気がしない、ダンジョンって危ないんだよね?
その後もダンジョンを進んでいく。
あ、またゴブリンだ。
そこで思いつく、魔法を使ってみよう!
でも使い方がわからない、ダンジョンに入ってすぐに練習すればよかった。
練習するために先にゴブリンを倒さなきゃ。
そこでまた思いついた、パンチで倒せないかな?
無骨バットはバットみたいなフォルムだけど、この世界ではただの棍棒って扱いだ。
そんな棍棒で突いただけで倒せるのだから素手でも倒せるに違いない。
まぁ倒せなかったら無骨バットがすごい武器って事になるからそれはそれで収穫だ。
よし、やってみよう。
さっきのように待ち構えていると、今回はゴブリンが石を投げてきた。
山なりの石をヒョイと避ける。
その後はさっきのように突っ込んできた、テクテクと歩いて…
手をグーにしてゴブリンの頭部を叩く。
〈ポンッ〉
石が落ちる。
やっぱり倒せた、ゴブリンって相当弱いな。
グニュとかグニャとか感触が無いのも助かる、感触があったらちょっと気持ち悪かったかもしれない。
強い敵だと一発で倒せないかもしれないから、他の敵に素手はやめておこう。
それとやっぱり石は投擲武器だったっぽい。
まぁあんなの当たりっこないし、当たっても大して痛くないと思うけど。
石を投げたのに石が出るのはおかしいとか、そんなことを考えてはいけない。
そもそもポンって消えてるんだからその時点で変なのだ。
石を拾いポーチに入れていると、遠くから話し声が聞こえる。
もしかしたら順路が近いのかもしれない。
てか、みんな早起きだね。
私がここに来てからそんなに経ってないだろうに。
ここで練習をしようと思ったけどやめておこう。
失敗したりしたら迷惑になるかもしれない。
小走りで先ほどの行き止まりの部屋へ向かった。
こっちはハズレの道っぽいし、多分誰も来ないはずだ。
部屋の隅にバットを立てかけリュックも降ろす。
猫の頭をひと撫でしてから部屋の中央まで移動する。
魔法の事を考えてみる。
魔法魔法魔法魔法…
ダメっぽい、うーん…魔法じゃダメなのかな。
スキルスキルスキル…
お!今度は頭の中に色々浮かんできた。
棒の刺さった壺に紫色の液体が入っているイメージ
棒の刺さった壺に水色の液体が入っているイメージ
杖の周りがなんだかバチバチしているイメージ
青色下矢印の中にゲッソリした人のいるイメージ
杖の周りがなんだかキラキラしているイメージ
赤色上矢印の中にムキムキした人のいるイメージ
このイメージがそれぞれのスキルに対応している気がする。
紫の壺は何だか毒々しい感じだから、毒生成のスキルなのかな。
じゃあきっと水色の壺が薬生成かな、とても澄んでいて綺麗だ。
バチバチが攻撃で、キラキラが回復に違いない。
矢印はあからさまに弱化と強化だろう。
試しに毒生成と念じてみるとイメージが紫の壺だけ残った。
次は強化魔法と念じてみる、今度はムキムキのイメージになる。
あれ?さっき魔法ダメだったのに、と考えていると4つのイメージになる。
最後に生成とだけ念じてみる、2つの壺のイメージになった。
これもモノを見るのと同じように慣れが必要なのかもしれない。
スキルのイメージもわかったし試してみよう。
まずは壺からだ。
毒を生成するイメージで、うーん…
ポフンって音が鳴るような感じで壺のイメージが消えてしまった。
無から有は生み出せないのか、某鋼の錬金術師も言っていた等価交換ってやつかな。
一応薬も試してみるがこっちもダメだった。
魔法とか不思議現象があるんだから無から有を作れてもいいのに…
それじゃあ次は攻撃魔法だ。
攻撃魔法をイメージするとバチバチ杖のイメージから他のイメージが生えてくる。
炎の形をした赤色のイメージ
水滴の形をした青色のイメージ
竜巻の形をした白色のイメージ
岩の形をした茶色のイメージ
新たに4つ出てきた。
増えたのは良いんだけど、雷とか光とか闇とかないのかな?
もうちょっと粘ってイメージする、氷とか毒とか無とか…
やっぱりダメみたいだ。
なんとなくイメージ力のせいじゃなくて、初級だからな気がする。だって結構粘ったもん。
まぁ4つだけでも十分だ、やってみよう。
失敗しても大丈夫なように最初は風のイメージで…
竜巻のイメージ1つになった、そのままイメージを続ける。
壺の時とは違い今度はイメージがスーっと消えた。
出来たかも!
イメージするのに集中して目を閉じていたらしい、目を開けてみる。
目の前に50cmほどの風の球が浮いている。
んー、大きな螺旋丸?そもそもアレって風の力なのかな?違う気がする。
これってどうやって使うんだろ?
触ったら危ないのかな?
少し後ろに下がる、風の球はその場に留まっていた。
無骨バットを持ってきて球の中に刺し入れてみる。
「壊れたらごめんね!」
だが何ともない。
恐る恐る手も入れてみるが、やっぱり何ともなかった。
失敗じゃないよね?飛んだりしないのかな?
と思った瞬間すごい勢いで壁に飛んで行った。
〈パーンッ〉
破裂音が部屋に響き渡る。
耳がキーンとする、でも出来た。
そうか、風を作る事だけ考えてたからあそこに浮いてたのか。
ちゃんと飛ぶイメージもしなきゃダメだったんだ。
よし、他のもやっちゃおう。
今度は炎をイメージする、すぐに炎のイメージが出来る。
スーっと消えて目の前に50cmくらいの火の玉が出来た。
さっきのようにバットを入れても大丈夫だった。
もちろん手も試す、燃えない。
壁に飛ばす。
〈ボォオー〉
ボォオという音とともに火の玉が消える。
よし次だ!
水はそのまま水の球だった。もちろん濡れない。
壁に当たった時にベチャって音がしたが水は残らなかった。
岩は丸い石じゃなくて泥団子みたいだった。これも触れなかった。
壁に当たる時ドゴッっと結構痛そうな音だったけど土や砂みたいなものは残らなかった。
その後は空中に留まらせずそのまま飛ばす練習もしてみる。
4つともうまくできた。
そこで足がふらつく。
ありゃ?ちょっと疲れちゃったのかな?休憩にしよう。
リュックのところに向かい歩きだそうとしたら転んでしまった。
立とうとしてもなかなか立てない。
もしかして魔法使いすぎちゃったのかも。
なんとか隅までたどり着き壁を背にして座る。
しばらく休もう。
【リリィ・S・ホワイト】〈人族〉
【14歳】
【魔女見習いLv1】
魔女の外套、魔女の服、魔女の靴、魔女の手袋、魔女の鞄、革の小袋、木の棍棒
◆魔女見習い
・能力ボーナス〈器用小上昇〉〈知力小上昇〉〈精神小上昇〉
・スキル〈初級毒生成〉〈初級薬生成〉〈初級攻撃魔法〉〈初級弱化魔法〉〈初級回復魔法〉〈初級強化魔法〉