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その後何とかココアさんの誤解を解くことに成功して寝ることが出来た。

そんなつもりは無かったのだが、これから一緒に旅をするって言ったのに突き放すような言葉だったかもしれない。


しかし、こちらにもこちらの事情がある。

ココアさんは頼りになるが、私は魔女だ。

この秘密を打ち明けられない以上、ずっと一緒に行動する事は出来ない。


これから先ずっとココアさんと行動するのもありかなって思ってたけど、ココアさんにはココアさんの居場所がすでにあるのなら私と行動する事も無いだろう。


私もタビーレムには行くつもりだし、タビーレムで探検者さんを見つけたらそこでお別れすればいい。

あまり冷たい事を言ってまたココアさんがヘラっても困るので、それまではあまり変な事は言わないように気を付けよう。



昨日それなりに遅くまでお話をしたとはいえ、日付をまたぐような事にはならなかったし普通に朝起きる事が出来た。

朝食を食べながら今日の予定の話をする。


騎士団の訓練に参加する話をすると、ココアさんも参加すると言い出した。

飛び入り参加出来るかわからないけど、1人にするのも可哀そうだし一緒に行ってもいいだろう。


約束の時間はそんなに早くないし、部屋に戻ってから新聞を読んでみる事にする。

昨日のうちに買っておいたものだ。

ロビーとかに置いてあって読み放題とかではなく、しっかり買取させられた。


値段を聞いたら小銀貨3枚だった、部屋に付けておけば問題ないとはいえ思ってたよりお高い。

枚数も大して多くないし、別に良い紙を使っている訳でもないのに…

この手の更紙はいろんなところで見るし、紙が高いんじゃなくてやっぱり情報が大事って事?


そうそう紙と言えば、昨日のお買い物でノートとエンピツも買ったのだ。

ノートは表紙と裏表紙が木製で更紙の束みたいなものだった、イメージとしては出席簿かな。

エンピツはこれでもかなり頑張ったであろう、細く削り出した炭みたいなのを板で挟んで糸でぐるぐる巻きにした物だ。


正直どちらもデカすぎる、出席簿と言ったが構造もだけど本当にそれくらいのサイズのノートだ。

エンピツに至っては指に挟めるわけもなく、握って使うような感じ。

まぁ、パメラさんやウェイトレスのお姉さんも使ってたからこういうものなのだろう。


ポーチくらいの小さなノートや細いエンピツが欲しかったけど、書くものを手に入れられただけで良しとする。

上質な紙やペンとインクなんかはそこそこ高かったけど、この更紙のノートや太いエンピツはかなり安かったから私としては満足している。


まぁ筆記用具の話は良いとして、新聞を読んでみる。


どこそこで新たなダンジョンが発見されたとか、どこそこのダンジョンの最新階層更新とか。

新しく道が出来たとか、開拓村の情報とか新聞っぽい事も書いているがダンジョンの情報が多い。

トーマスさんが言ってたように、魔石の価格なんかも載っていた。


モンスターの種類によってかなり価格にばらつきがあって不思議だ。

多少色が違うとはいえ、きっと全部ビー玉みたいな石なんでしょ?

それぞれの効果が違うのかもしれないけど、使い方の分からない今の私じゃ判断できない。

残念ながら魔石の使い道は新聞には書いていなかった。


もう少しゆっくりしてても大丈夫だけど、ココアさんが飽き始めてしまっている。

初めての参加でもあるし、少し早めに宿を出る事にしよう。

フロントでカギを預ける時に、昨日お客さんが騎士に連れていかれたという話を聞けた。


嘘つきパーティはちゃんと騎士に連行されたらしい。

あの隊長さんはやる気が無さそうだったけど、仕事はしっかりこなしてくれたようで良かった。

そういえばこれから騎士の人達と訓練するんだっけ、何だか嫌な予感がする…



宿屋を出てから北へ向かって歩き出す。

ギルドのオジサンの話だと、今日の訓練は街の北で行うから直接そこに行けって事だった。

街の中央辺りに差し掛かったところで、ちょっとした集団が目に入った。


昨日宿屋さんで見たような鎧を着た人達が、リアカーみたいな物に荷物を載せている。

訓練の準備かな、私達はゆっくりだけど騎士の人達はちゃんと朝早くから働いていたみたいだ。


昨日のうちに中央通りの建物は大体見て回っていたが、アレが騎士団の建物だったのか。

通り沿いなのにお店っぽくないとは思っていたけど、入り口に見張りの人とかも居なかったし気付かなかったな。

お店の旗かと思ったけど、あの壁に刺さってる旗が騎士団のマークなのかもしれない。


旗と言えば、中央通りには旅人が利用するような治療院もある。

ココアさんの居た診療所は街の人用なのだろう。

気付かれにくいようにそっちの診療所に預けたのだろうが、そのせいで逆にギルドに話が漏れてしまったようだ。

私の到着がアイツらより早くて本当に良かった。


そうそう、今日は私もココアさんもパンツスタイルだ。

シャツとジャケット、パンツとブーツ。

この格好だと私も何だか探検者になったような気になる。


ココアさんがそんな感じだったので真似してみただけだけど…

ココアさんはさらに肩パットや胸当て、肘当てや膝当てなんかも付けている。

昨日と同じ格好だ。


街に着いた時訓練中の人達は装備を外していたから、きっとココアさんも途中で外すことを予想して袋も用意してきた。

これでココアさんが脱いでも私が預かっておける。

今はタオルと替えのシャツくらいしか入ってないけど、帰りはココアさんに持ってもらおう。


そんな感じで歩いているとすぐに街の北側に到着した。

騎士団の人は居ないが、他の参加者の人達がチラホラと居るようだ。

探検者ばかりかと思ったけど街の人も結構いるっぽい。


みんな思い思いに準備運動みたいなのをして体をほぐしている。

私達も真似して準備運動をしておいた。

とはいえ私はラジオ体操くらいしかわからないから、かなり適当だけどね…


程なくして騎士の人達が現場に到着した。




「それでは本日の訓練を開始したいと思いますので、皆さん集まってください!」

騎士の1人が声を張り上げてみんなを集める。

街の人が10人くらいと、探検者が20人くらいだろうか。


モーリーに居た探検者達がこの街を経由するから、今は結構多いのかもしれない。

村で見た事のある人もそこそこ居る。

まだ準備をしている人も居るからここには5人しか居ないけど、騎士さん達は全部で10人くらいだ。


「治癒師の方が居ると聞いたのですが、こちらに来てもらえないでしょうか。」

治癒師では無いけどきっと私の事かな?

私が前の方に歩いて行くと、歓声が上がった。


「治癒師が居るのか、今日は思いっきりできるな!」

「よっし!治療院に行かなくてよかった。ここで治してもらえるぞ。」

「マジかぁ、今日はハードになりそうだ…」

「うぉ、可愛いな。お近づきになりてぇ!」

随分と言いたい放題だ、しかもすでにケガしてる人が居るとかありなの?


「本日はえーっと、申し訳ないお名前を教えていただいても?」

私の事を紹介しようとして名前がわからない事に気付いたみたいだ、ドジっ子かな。

「リリィと申します、治癒師では無くて信徒なのですが大丈夫ですか?」

ダメだったら大変だし、小声で伝えてみた。


「こちらのリリィさんが皆さんの治癒をしてくださいます。何かあった際には遠慮せずに治癒をおねがいしましょう。」

私の質問はスルーでそのまま紹介されてしまった、良いのだろうか?


「リリィさん、こちらへどうぞ。」

女性の騎士さんに声をかけられ、設営されたテントに連れてこられた。

オジサンの話ではたしかに楽そうって思ってたけど…

まさかテントまでついてるとは、なんという好待遇!


「こちらの椅子に掛けてお待ちください。」

運動会で使うようなテントの中に、小さなテーブルと椅子まである。

とりあえず椅子に座ったが、騎士さんはどこかへ行ってしまった。

え、何したらいいの?



手持無沙汰のまま待っていると、訓練の説明みたいのが終わったのか騎士さんが戻って来た。

「リリィさんのサポートをすることになったルイザです、よろしくね。」

「あ、こちらこそよろしくおねがいします。」

何をすればいいかわからなかったから、人を付けてもらえたのはありがたい。


「あの…さっきリーダーみたいな方にも言ったのですが、私は治癒師じゃなくて信徒なのですけど…」

「え、リリィちゃんって聖職者だったの?ローブ姿じゃない無いから分からなかったよ。」

聖職者はローブを着ているものらしい。


モーガンさんは着てなかったけどあれはバレないように普通の格好だっただけで、きっと普段はローブ姿なのかもしれない。

たしかに噓つきパーティも見た目をそれっぽくしていた。


何であんなので騙されるのかと思っていたけど、あんな格好をするのは聖職者っていう共通認識があるんだろう多分。

ジョブが見えちゃう私が変なだけだしね。


「はい、それで治癒師と紹介されてしまったんですけど大丈夫でしょうか?」

「癒しの魔法が使えれば、聖職者でも治癒師でも一緒一緒。気にしなくて大丈夫でしょ。」

雑な気もするけど、一応確認は取れた。


「それと、私は訓練に参加しなくてもいいのでしょうか?」

「あー、それでそんな恰好してたんだね。もしかして訓練するつもりだった?」

治癒師は訓練に参加しなくていいって聞いてたけど、参加しちゃダメとは言われてなかった。

でも普通は参加する事なんか初めから考えないのかな。


「あんまりハードなのは無理かもですけど、体力作りとか出来ればなって思ってました。」

「うーん、そっかぁ…人が来るまで私と一緒に訓練してみる?」

ここに連れてこられた時点で諦めていたが、何かやらせてもらえるっぽい。


最初は丁寧な対応だったのに、二人きりになってからルイザさんはとても気さくな感じだ。

偉い人に見られてないから別に良いって事なのかな?

私としては話しやすいしむしろ良かったかも。


ここを離れるわけにはいかないので、筋トレみたいなことを手伝ってもらった。

私を気遣ってか何度も休憩を挟んでくれるのだが、ルイザさんはその間も自分を追い込んでいる。

きっとそっち側の人なんだ、黙って座ってるより鍛えられて喜んでいるのかもしれない。



その後は特に誰も来る事無く休憩時間となった。

幸いにもケガ人は居ないみたいだけど、みんなヘロヘロになっていたので体力回復をして回る。

ココアさんはまだまだ元気って感じだったけど、やっぱり装備を脱ぎ散らかしていたのでそれも回収しておいた。


用意されていたお水が無くなっちゃったらしいので、足してあげたのだが驚かれてしまった。

治癒師さんは生活魔法が使えないのかもしれない、私ちゃんと信徒って言ったよね?


休憩前は走ったり体力トレーニングみたいな事をしていたけど、休憩後からは組手みたいのをするらしい。

せっかく回収したのに装備が必要になっちゃった、慌ててココアさんの元へ持って行く。


木製の武器や盾が貸し出され、それぞれ好きなものを使って良いようだ。

防具も貸し出してるみたいだけど、きっと街の人用かな。

ココアさんの持ってたような大きな武器は無いけど、ココアさんはどうするんだろ?

力持ちだし棍棒とかを選ぶと思ったけど、無難に剣と盾を持っていた。

意外過ぎる。


最初の方は騎士さん達は監視するみたいだ、今日は多分探検者が多いし同時にいっぱい戦ってると事故とかも心配だもんね。

普段は街の人達に手ほどきしたりするのがメインなんじゃないかなって思う。


しばらくココアさんの戦いを眺める。

もっとガツガツせめて行くのかと思ったのに、かなり控えめな感じだ。

最初だから動きの確認とかをしてるのかな?

組手だからお互い控えめに戦ってる可能性も…


なんて思っていたら早速誰かが怪我をしたらしい、騎士さんが人を運んでくる。

支給品の装備を付けているし、多分街の人だ。

怪我の具合は状態異常のマークが出ないから、お話を聞きながら回復をする。


今回は打ち身だったみたいで、見た目で判断できない。

治療は出来たと思うけど、ぜひ安静にしてもらいたい。

そう思っていたのに、お礼を言った後すぐにみんなの方に走って行ってしまった。

腫れてるようには見えなかったけど、本当に大丈夫なのかな…



しばらくすると今度は自分で歩いてこっちに向かってくる人が居る。

この人は探検者だ、村に居た時見た気がする。

そして最初に治療費が浮くみたいな事を言ってた人だ…

一応話を聞いてみよう。


「どんな怪我をなさったんですか?」

「ちょっと腕を擦りむいちまって…」

そういって腕を見せてくる。

本命はそれじゃないだろうに、きっとこのケガはわざとやったんだろうかなり軽傷だ。


「腕じゃない怪我は何処です?」

「あ、いや…背中をちょっと…」

何でそんなに言いづらそうにするんだろ、治してほしいんじゃないのかな?


「さっさと見せてください!」

「いや、見なくても回復してくれればいいからっ!」

無理やり装備を引っぺがして上着を脱がせると、シャツが真っ赤になっていた。

「え…?」


観念したのか探検者さんがシャツも脱ぐと、後ろから斬りかかられたような傷跡が付いている。

ところどころまだ瘡蓋になってない所が残っているほどのひどい怪我だ。

布を当てていたであろう後は残っているが今は何もついていない、布が切れたのかも。


「どうしてすぐに治療しなかったんですか!」

「いや、だって治療すると金がかかるだろ…?」

そりゃお金はかかるかもしれないけど、こんな怪我を放っておくなんて考えられない。


「お金が何なんですか、ほっといたらもっと酷くなるかもしれないのに。」

「それは治癒師の言い分だ、こっちはそんなにホイホイ金なんか払ってられないんだよ。」

あれ、そういえば治療費ってどれくらいかかるんだ?


私は治療してお金を貰った事が無い、村の人達から貰ったけどアレは多分気持ちだろう。

今は良いや、とりあえず治してあげなくちゃ。

ブツブツ言いながら探検者さんを治療する。


1度目の回復で血の塊が無くなって、腕の怪我も治った。

2度目で傷跡がかなり薄くなる。

3度目をかけたのだが傷跡を完全に消すことは出来ないみたいだ。


「はい、治りましたよ。替えのシャツとかは持ってますか?」

「いや、着替えは全部宿屋だ。」

変えのシャツは無いのか…


「ちょっと小さいかもしれないですけど、これを使ってください。」

袋から自分のシャツを取り出して手渡す。

「おいおい、そこまでしてもらわなくても…」

受け取らない感じだったので無理やり頭からかぶせた。


「サイズは合わなくても、あんな血まみれのシャツよりは良いでしょ。」

「あぁ、すまん…ありがとな。」

サイズが小さいかもとは言ったが、別に私にピッタリなサイズな訳じゃない。

お店で買った時も全部フリーサイズだったから、ちゃんと男性でも着れるだろう。

実際私が今着てるシャツも結構ダボついている。


「あの、治癒師にお願いするとそんなにお金が掛かるものなんですか?」

着替え中の探検者さんを横目にルイザさんに聞いてみる。

「そうだなぁ私はあれほどの怪我をした事は無いが、さっきの怪我だと銀貨数枚は掛かるんじゃないか?」

スクワットをしながらルイザさんが答えてくれた。


ココアさんの依頼の時は、事情がややこしいからいっぱい貰えたのかと思っていた。

でもそうじゃなかったんだ。

ジェシカさんのお礼も小銀貨数十枚だった、銀貨換算すると同じくらいな気がする。

ゴードンさんの時は苦労したけど、ジェシカさんはどんな病気かわからなかったし仕方ない。

治療するだけでも銀貨単位でお金が掛かるのか…


よく見ると探検者さんの胸当てだけ他の装備と色が違う。

きっと怪我の時に破損して買い替えたのだろう。

装備の値段とかは分からないけど、その上治療費もとなったらきっと大変なはずだ。


クリスのパーティが強すぎただけで、普通の探検者さん達はいっぱい苦労してるんだなぁ…


いつも『ダンジョンと白の魔女』を読んで頂いてありがとうございます。


これからも皆さんに面白いと思ってもらえるようなお話を書けるように頑張っていきますので、応援していただけると嬉しいです。

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