表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/42

34

トーマスさんからお金を受け取った後は、教えてもらったお店に向かって色々とお買い物をした。

買い過ぎた気もするが、ココアさんが全部持ってくれたからちゃんと持って帰れた流石力持ち。

途中でゴブリンの魔石の事を思い出したが、今はこれだけお金があれば十分だしいいよね。


宿屋さんに戻ってフロントの人に聞いてみる。


「すみません、私の部屋って2人で泊まっても大丈夫ですか?」

「あの部屋はベッドがひとつのはずですが、リリィ様がそれでいいのでしたら問題ありません。」

新たに部屋を取らなくて済むのは助かる。


聞いた話によると2階の部屋は1泊20$で、私の部屋は1泊100$らしい。

そこそこ良い部屋だとは思ったが、まさか5倍とは…

2階も一応個室とはいえ、シャワー室もトイレもないんじゃココアさんが可哀想だ。


シャワー室は自分で出来なかったら人を呼ばなきゃいけないから、無くても問題ないかもしれない。

でもトイレは必要だ、多分この世界には女子トイレって概念がないから…


ジェシカさんの宿にいた時からそんな気はしていたけど、村だからかな程度に思っていた。

でも街の宿屋のトイレも男女共用とは思わなかった。

部屋にトイレがなくても男女別のトイレがあればまた話は違ったんだけどね。


まぁそんなわけで、今はお部屋にココアさんをお招きしている。



「今日はここで一緒に寝ますよ。」

「私は床って事か、分かった。」

何でそうなるんだろう?


「このベッドは大きいので2人で寝ても大丈夫です。」

「部屋に入れてくれただけじゃなくて、ベッドも使わせてくれるの!?」

ソファーがあったらそっちで寝てもらう事も出来たが、この部屋にソファーなんか無い。

床に寝られるくらいなら、一緒に寝た方が良いに決まっている。


何故こんな事になっているかと言うと、やっぱりココアさんはお金を持っていなかったのだ。

お金が無いから野宿するって言いただしたので、フロントの人に聞いて一緒に泊まる事にした。


私に付いて来るって言われた時は、面倒を診てあげなきゃいけないのかと思っていた。

しかし何かと自分の事を自分でしたがるので、今度はそっちがめんどくさくなっている。


買い物の時も旅に必要な物とかをココアさんに聞いたりしたのだが、自分は無くても平気だと言って聞かなかった。

これから一緒に旅をするんだからって言って私が買って押し付けたが、この先も色々遠慮するかもしれない。


図々しいよりは良いのかもしれないが、この先ずっとこの調子だと私が困る。

私について来るなら、私と同水準の生活をしてもらわないと。


手始めにこれから来る洗髪屋さんには、ココアさんのことも洗ってもらおう。

一緒のベッドで寝るのだし、まずはそこからだ。


買ってきた物をテーブルの上に広げ2人で整理していると、扉をノックする音が聞こえた。



「はーい、今行きます。」

声を掛けて扉を開けると、女の子が大きな袋を抱えて立っていた。

そろそろ予約した時間だから、てっきり洗髪屋さんかと思ったけど何だろうこの子は?


「ご予約頂いたリリィ様でしょうか、本日担当させていただきますアーシャと申します。お身体を洗わせていただきに参りました。」

「あ、はい。よろしくお願いします。」

やっぱりこの子がそうらしい、ステータスを見るとメイドさんだった。


え、この街って貴族の人住んでるの?

いやいや、どこかのメイドさんだったらこんなアルバイトみたいなことしないだろう。

じゃあフリーのメイドさんって事?


「あの…?」

考えていたせいでアーシャちゃんを通せんぼしたままだった。

「あ、ごめんね。どうぞ入って!」

「失礼致します。」

恭しく礼をして部屋に入って来る。


アーシャちゃんは12歳だ、それなのに所作とか言葉使いがしっかりしていてびっくりしてしまう。

何でこんな街に、こんなしっかりした子がいるんだろう。


そんなことを考えている間にも、アーシャちゃんはシャワー室に入りテキパキと準備を進めている。

上着を脱いで白い布みたいな物を被ったり、ブラシやタオルなどを取り出して棚に並べたりだ。


大きな袋だとは思ったけど色々入ってるんだなぁ。

何となくだけど支給品じゃなくて、自前ので道具のような気がする。

だってある程度部屋にあるのに、わざわざ持って来るのはおかしいよね?


「えっと、準備が終わったのですが…」

しまった、またぼーっと眺めちゃってた。

「ご、ごめんねっ!つい見惚れちゃって…あはは」

それじゃあ本題を切り出させてもらおう。



「急な変更で申し訳ないんだけど、2人分やってほしいって言ったらやってもらえたりするのかな?」

「今まで言われたことがないのでなんとも…」

そりゃそうだ、わざわざ予約して呼んでいるんだから急に変更とか言っても困るよね。


「私も頼んだのが初めてで、どういう流れなのかよくわからなくて…」

「そうなのですね、それではご説明させていただきます。」

アーシャちゃんが説明してくれた。


最初は洗い方の手順とかの説明をしてくれたのだが、私が知りたいのはそういうことじゃない。

本当は話しちゃダメらしいが、無理を言って話を聞き出した。


宿屋さんからの依頼で派遣されると、派遣された人は一回につき20$貰えるらしい。

1泊20$なのを考えるとなかなかお高い。

お客が宿屋に払うのはもっと増えるのだろう、手配してるだけなのに宿屋さんずるいな。


時間制限などは無く、洗い終われば終了なのだそうだ。

つまり時間が掛かっても、一回は一回って事だ。


この後予約があるのかと聞くと、今日は私の予約だけとのこと。

そもそも高い部屋に泊まるような人も少ないだろうし、予約のない日の方が多いのかもしれない。

後ろが詰まってないなら、追加でお金を渡してやってもらえそうだ。



「聞かせてくれてありがとう。それじゃあ追加でお金を払うから2人共やってもらえないかな?」

「でしたら一度宿の方に聞いてきますね。」

せっかく準備したのに、アーシャちゃんが白い布を脱ごうとする。


「待って待って、今から言うのもあれだし終わってからでいいでしょ?」

「うーん、それもそうですね。帰りに伝える事にします。」

宿代が高くなったところで、私の懐は痛まない。

でもお給料の話とか教えてくれたし、アーシャちゃんにはしっかりとチップを弾んであげよう。


「それと洗ってるところを見学させてもらってもいいかな?次からは自分でも出来るようにしたいの。」

「構いませんが、ご自分でとは?」

答えるようにシャワー室の壁に水鉄砲を放つ。


「私も家政魔法が使えるんだけど、せっかくだから一度本業の人に頼んでみようと思って呼ばせてもらったんだよ。」

「そうだったのですね!私程度ではまだまだ未熟かもしれませんが、どうぞご覧になってください!」

嫌がられるかと思ったのに、何故か逆にやる気になってくれた。


荷物の前で唸っているココアさんを呼び、衣服を全て引っぺがす。

「な、なんで服を脱がせるんだ!?私が何かしたか!?」

ココアさんが何か言っているが、これから体を洗うのだから服を脱がせるに決まってるじゃん。


「いいからここに座ってください。今からココアさんの事を丸洗いしてもらうんですよ。」

椅子を見ると椅子の上に座布団のような物が敷かれていた。

直接座ったらお尻が痛いからかな?


「水と手ぬぐいがあれば自分で出来るって!やっ、やめて!いやぁーーーー!!」



………



ココアさんは裸のままベッドに突っ伏していた。

ツヤツヤになった髪の間からはフワフワの耳が顔をのぞかせ、モコモコになった尻尾が力なく垂れている。

うつ伏せのため表情は見えないが、疲労困憊と言ったところか…


「アーシャちゃんすごいね!髪や身体はもちろんだけど、耳とか尻尾も上手に洗えるなんて!」

「ケモ族の友達に練習させて貰ったので、上手に出来るようになったんだと思います。」

その友達ってのは学校の子の事かな。


今度は私も服を脱いで椅子に座った。

ココアさんを洗っている時から、色々質問や世間話をしている。

会話の中で分かった事だが、アーシャちゃんは王都の学校に通っているらしい。


やっぱりこの街は小さい街らしく、学校とか大きな施設は無いみたい。

東にフォルナスという街があって、この街はフォルナス領の街の1つだとか。

そしてそのフォルナスにはフォルナス辺境伯なる貴族様が住んで居るという話だ。

あれ、フォルナスってどこかで聞いた事があるような…どこだっけ?


辺境伯領って事はここも辺境って事になるのかな。

他にも街があってモーリーの村も辺境伯領だとすると、辺境伯の領地ってめちゃめちゃ広いのでは!?

フォルナスとタビーレムの間にあるから結構旅人が通るみたいだけど、その両方とも栄えた街だからこの街にわざわざ施設を作る必要が無いって事みたいだ。


ちなみにタビーレムの街は元々フォルナス領だったけど、今は王様の直轄領になっちゃったらしい。

ただの村だったところにダンジョンが出来ちゃって、手に負えなくなっちゃったのかも。

ただでさえ広いのに、大きなダンジョンが出来ちゃったらそりゃお手上げになるのもうなずける。


と、思っていたらそういう話でもないみたいだ。

大きなダンジョンが出来ると、どこの領でも王様に取り上げられちゃうらしい。

そしてそのダンジョンをクリアした人に丸ごとプレゼントされる仕組みなんだとか。


ダンジョンを破壊したら勲章を貰えるって話は聞いてたけど、大きなダンジョンだと一発で領地付きの貴族になれちゃうのか。

あれ、もしかして順番が逆なのかも?


騎士団とか領主軍でもなかなかクリア出来ないダンジョンに、そういうおいしい話を作って探検者さん達にクリアしてもらおうとしたんだ。

その作戦が成功したせいで小さいダンジョンに探検者さんが行かなくなっちゃって、新たに勲章システムを導入したのかもしれない。


じゃあ勲章でなれるのは準男爵とかかも。

お仕事は給料制のダンジョン探検とか?

まさに名ばかりの貴族って感じだけど、それでも貴族は貴族だしなりたい人は多いはずだ。


実力のある人なら士爵にはなれるかもしれない。

でも、それだと一代限りだ。

実力があって子供にも爵位を継がせたい人が、勲章集めを頑張るんだねきっと。


って感じの事をアーシャちゃんと話しているうちに、私の身体は綺麗にされていた。



「ありがとう、とっても気持ちよかったよ。」

「いえ、私もとても楽しくお仕事出来ました。ありがとうございます。」

綺麗にしてもらった上に、色々と話も聞けてありがたい。


「あ、またやっちゃった…」

「どうかしたんですか?」

昨日の事を踏まえて先に洗濯しておくべきだった。


「洗ってもらう前に洗濯しておけばよかったなーって思ってね。昨日も先に身体を洗っちゃって、裸のまま洗濯したんだよ。」

「なるほど、そういう事なら私がやりましょうか?お洗濯も練習になるので。」

何て素敵な提案なんだ!


「え、いいの!?それじゃあ、お洗濯も見学したいからちょっと待ってて!」

そう言って部屋へ行く。

さっき買ってきた下着と服に急いで着替え、これもさっき買ったばかりのブラシを持ってシャワー室に戻る。


髪を梳かしながら見学していたのだが…なんか思ってたのと違う…

部屋には木の桶しかないし、洗濯板も洗剤も無いからどんな事をするのかと思ったら。

物干竿に服を干して、水をかけ風を当てるのを繰り返すだけだった。


ほんとにそんなので綺麗になるのか、って思っちゃうくらいそれだけだ。

アーシャちゃんの話ではこれで合ってるらしい。

確かにこれなら洗剤どころか、洗濯板も桶も必要ない。

私はポンポン叩いたりしていたが、叩く必要もないみたいだ。


考えてみれば自分で洗濯したときも、いつの間にかお尻の汚れが取れていた気がする。

村に居た時はよく地面に座っちゃってたからかなり念入りにやっていたけど、家政魔法って思ったよりもすごいやつだったのかもしれない。


私の服はそれぞれ1セットずつしか行わなかったが、ココアさんの服の時は3セット行っていた。

私の服は元々綺麗だったから全然違いがわからない。

しかしココアさんの服は洗濯の後に色が変わっている。

これはすごい!


私よりも乾かすのが早い気がしたのでコツなどを教えてもらって、お洗濯は終了となった。



乾いた服を受け取り、部屋に戻って畳んで置く。

ココアさんはシャワーの後の格好のままずっとベッドの上だ。

寒くは無いけど、流石に風邪引いちゃうんじゃないかな?


そういえば今更だが、きっとココアさんは虎のケモ族じゃないかなと思っている。

髪は黒茶色のウルフボブだ、というかただの癖っ毛なのかもしれない…ケモ族だし。

うつ伏せだから今は見えないが胸は私と同じくらい。

パメラさんが大きかったせいで自信を無くしていたけど、私はこれでも盛っているんだ標準サイズなんだ当然だ!


そしてこの尻尾である。

私は最初猫系かなって思ったのだが、洗ってもらった後の尻尾がモコモコのフサフサだ。

耳もちょっと丸っこい気がするし、虎系のケモ族って事なら力持ちなのもうなずける。

アーシャちゃんがケモ族にはいろんな人が居るって言ってたし、きっと虎も居るだろう。


「えいっ!」

さっきは垂れていたが今はユラユラ揺れていた尻尾を掴む。

「にゃぁああ!?」

やっぱりにゃーなのか。


「ココアさん!いつまでだらけてるんですか、ちゃんと起きて着替えてください。こっちはもうお洗濯まで終わってるんですよ?」

「私だって無理やり脱がされた挙句、あんなにバシャバシャ水をかけられたんだ。だらけたっていいじゃないか…」

そういえば猫は水が嫌いなんだっけ?さっきのはお湯だったけど。

あれ、やっぱり猫なのかな…


「早く着替えないと、1人でご飯食べに行っちゃうんですからね。」

そう言った瞬間、ココアさんがガバっと起き上がり私にしがみついてくる。

「ごはん抜きはヤダ!すぐ着替えるから置いてかないでっ!」

何とも現金な反応である。


寝るのは床でも良いとか言っていたのに、ご飯は大事らしい。

でも実際この世界ではそうなのかもしれない。

一泊20$の宿屋さんなのに、食べ物は一品10$とかするものもたくさんある。

1日2食なのもあるかもしれないが、衣食住の中で食の価値が高いのだろう。


「私はアーシャちゃんを手伝ってくるので、戻るまでのは着替えておいてくださいね。」

「うん、わかった!」

返事は可愛いんだよなぁ…


アーシャちゃんの片づけを手伝うために、私はシャワー室へと向かった。


いつも『ダンジョンと白の魔女』を読んで頂いてありがとうございます。


これからも皆さんに面白いと思ってもらえるようなお話を書けるように頑張っていきますので、応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ