既視感
ここまでのお話を読み直してなんか違うなって思ったので、大幅な修正を行っています。
ブックマークとかしてくださってる方は本当にごめんなさい。
タイトルに名前が付いてから改めてお読みくださるとありがたいです。
いつも通りちょこちょこ更新してます。
言われて来てみたものの、看板も何もないただの小屋だ。
ほんとにここで受付出来るんだよね?
まぁ、とりあえず入ってみよう。
小屋に入るとお酒の匂いがする。
内観はトーマスさんのお店のような感じで、カウンターにはジョッキが置いてあった。
カウンターの向こうには、ジョッキでお酒を飲んでたであろう厳ついオジサンが座っている。
えぇー…
「おぅ、なんだ。」
オジサンが話しかけてくる。
「えっと…駅馬車に乗りたくて…」
いやいやいや、普通に怖いんだけど!?
「いつだ?」
「日にちはまだ決めて無くって…」
「ちょっと待ってろ。」
オジサンがそう言って紙をペラペラ捲っている。
ちょっと怖いけど何の紙か気になるので覗いてみると、予約表みたいな物だった。
「あー、んー?よくわかんねぇな…」
「多分これが明日で、こっちが明後日の予約では?」
しまった、口出ししない方が良かったかも…
オジサンが顔を上げてこちらを見る。
「お前解るのか?なかなかやるじゃねぇか!んで、どうなってんだ?」
「あ、はい。明日以降はまだ定員に達してないと思います。」
名前を書くであろう枠がまだスカスカだからきっと大丈夫なはずだ。
「そんじゃあ明日にしておけ、明日は俺が握るからよ。」
「え、まだ街を見て回ってなくて…」
「こんな何もねぇ街の何を見て回るってんだ?」
いやいや、それを決めるのは私なんだけど!?
「おら、名前書きな!」
「でも…」
強引すぎるでしょ!?そりゃ多く乗せた方が稼げるのかもしれないけど!
「俺の馬車には乗れねぇってのか!?」
「いくらかかるかもわかりませんし…」
そ、そうだ…料金がまだわからないから!
別にオジサンが怖いから嫌とかそういう事じゃない…うん。
「ん?多分その辺の壁に書いてんだろ…だがまぁ、俺の馬車ならタダでもいいぞ。」
「え!?」
ただで良いの!?
いやいやいや、怪しい…怪し過ぎる!
「と、とりあえず料金を確認してみますね。」
「おう。」
そう言ってオジサンは窓の外を眺めながらジョッキを傾けた。
確かに壁に貼られた板に行路と日程、それと運賃が書かれている。
ここから出る馬車は毎日一本、お昼頃に出発らしい。
次の村には夕方頃到着みたいだ。メモメモ…
村から村の間は、朝に出発して夕方頃に到着。
最後の村も出発は朝になってるけど、街の到着はお昼頃となっていた。
途中の村は全部で4つだから全5日の行程って事か。メモメモ…
きっと馬車での移動を考慮して等間隔に宿場町みたいのを整備したんだろう。
じゃなきゃ毎日同じ日程で移動できるわけないもんね。
行程を書いてくれてるのはありがたいけど、朝、昼、夕ってザックりすぎでしょ…
そして問題の運賃は200$らしい。
さっき買い物しちゃったばかりだけど、ジェシカさんから結構な額のお礼を貰っているので払えない額じゃない。
そもそも利用者が多い事を考えると、適正もしくはお得なんだろう。メモメモ…
一通りメモしたところで考える。
オジサンはどうしてさっきタダで乗せるなんて言ったんだろう?
私があんまりお金を持ってないように見えたのかな?
それとも私の金銭感覚がおかしいだけで、200$ってのは結構高額なの…?
〈ピィー!ピュー!ピィィィィ!〉
「今日の馬車が出たか。」
オジサンが外を見ながらそんな事を言う。
今の笛の音が出発の合図なのかな?
バスのクラクションとか電車の警笛みたいな物かも。
〈ダンッ!〉
ビクッ!
急な音に驚いてオジサンの方を見ると、ジョッキをカウンターに叩きつけたみたいだ。
「んで、乗るのか?」
ほんとに何なのこの人!一応こっちはお客さんなんですけど!?
「もう、どうしてそんなに急かすんですか!私はそんなに急いでないので、無理して明日の便に乗らなくても良いんですよ?それなのに大きな音出したり睨んだりして、そんな事されて私が明日の馬車に乗ると思います!?」
「あ?別に睨んでねぇよ、生まれ持った顔は変えらんねぇだろ。」
確かに強面だけどそんな事言ってない、態度の話だよ態度!
〈ガチャ〉
「お前が寝坊したせいで今日の馬車に乗れなかったんだぞ、もう少し反省しろ。」
「何言ってやがる、そっちだって道中で女口説いてただろうが!あれでどれだけ遅れた事か。」
「二人ともうるせーよ、いつまでその話してんだ。」
「はぁ、こんなところで1日足止めかよ…うわっ、酒臭っ!」
「くそっ…ついてねぇな…」
開いた扉の方を見ると、入り口から探検者達がゾロゾロと入って来る。
そう探検者だ、ステータスを見るまでもない。
ジロジロと見ていたつもりは無かったが、剣士役だった男と目が合ってしまった。
「あっ、てめぇ…あん時の!」
「あなた方はお酒を飲んでなくても喧しいんですね。」
つい、そんな事を言ってしまう。
「何だとこの野郎っ!」
今にも殴りかかって来るんじゃないかって勢いで近づいて来た。
やばっ、慌てて身を屈める…
うっ…ん?
殴られるかと思ったが、衝撃が来ない。
恐る恐る目を開けると、オジサンが探検者の腕をつかんでいた。
「おいお前ら、客じゃねぇのか?」
「あぁん?関係ねーだろ、どけやっ!」
〈ドガッ〉
「客なのか客じゃねぇのか、どっちだ?」
オジサンが探検者を引き倒し、組み伏せながらそう言った。
「くそっ、何だよおっさん…放しやがれ!」
よくわかんないけど、オジサン凄いぞ!?
「いやー、兄さんすまねぇ…俺らは客だよ。明日の馬車に乗りたいんだが良いかい?」
リーダーが、降参したように両手を上げながらオジサンに話しかける。
「受付はそっちだ。」
オジサンが顎をしゃくってカウンターの方を指す。
「おいおい、俺たちは客だって言ったろ?もう、そいつの事を放してくれてもいいんじゃねーか?」
「その嬢ちゃんも馬車に乗るんだ、言ってる意味わかるよな?」
「もちろんだとも、その姉ちゃんには指一本触れねぇさ。なっ、もういいだろ?」
オジサンが押さえつけている探検者を睨む。
「何もしねぇ!何もしねぇよ!!」
剣士役の男がそう言うと、オジサンは手を放してカウンターの向こうに戻る。
「何なんだよアイツ、力強すぎるだろ…あー痛てぇ。」
「あのおっさんには逆らうな、おそらく先輩だ。」
リーダーが剣士役の肩に手を置きながらそんな事を言う。
「姉ちゃんも悪かったな、村での事はもう終わった話だ。俺らは最近ついてない事が多くてよ、こいつも気が立ってたんだ許してくれな。」
そう言うと肩を掴んだまま一緒にカウンターの方へ向かってしまった。
オジサンがペンとインクを取り出してカウンターに置く。
「おらよ。」
大人しく一人一人名前を書いているようだ。
〈バタンッ〉
しばらく様子を見ていたが、何事も無く小屋から出て行ってしまった。
「「はぁ~…」」
少し緊張していたせいか、ため息が漏れた。
「え?」
オジサンの方を見ると目が合う。
「おう…なんだよ?変な顔しやがって。」
私は今変な顔らしい、確かにちょっと驚いてはいるかも。
「あの…助けていただいて、ありがとうございます?」
「感謝してるなら馬車に乗れや。」
またそれか、オジサンはどうしても私の事を馬車に乗せたいらしい。
助けてもらっちゃったし、どうせタビーレムには向かうんだ。明日の便でもいいだろう。
「わかりました、明日の馬車に乗る事にします。その紙に名前を書くんですよね?」
カウンターの前に立ち紙を指さす。
「やっとその気になったか、まぁ悪いようにはしねぇよ。」
ペンを持って名前を書こうとすると止められる。
「違う違う、あー…ここだ。ここに名前をかけ。」
言われたところを見ると隣にオジサンの名前が書いてあり、その隣には『係員』と書いてある。
上の方には『乗客』という文字と、探検者達の名前だ。
「えっと…?私って、お客さんですよね?」
「タダで乗せるって言っただろ、それに馬車の中だとさっきのやつらとずっと一緒って事だぞ?」
確かにそうだ。何もしないとは言っていたけど、1日中同じ空間に居るのは嫌かも。
でも馬車の中じゃないって事は、オジサンの隣って事!?
「そんな顔するな、あんまり露骨だと流石に俺も傷つくだろうが。」
顔に出ちゃってたみたいだ。
「手綱を握れとか馬の世話をしろって話じゃねぇ、ちょっと客の相手をしてくれるだけでいい。道中の宿と飯も付けるし、馬車にもタダで乗れる。良い話だと思わねぇか?」
馬車の運賃だけじゃなくて、宿屋さんやご飯までご馳走してくれるらしい。
「うーん…」
お得過ぎて逆に勘繰ってしまう、そんな条件じゃオジサンは大損だろうに…
「あー、もうしょうがねぇ。じゃあ手当も出してやるよ!それでいいんだろ!?」
何がしょうがないんだ、条件が良くなりすぎて逆に怖いよ!
オジサンの頭はどうなってるんだ、バカなの?
「お手当なんか要りませんよ!私が馬車に乗せてもらうのに、その上お金も貰うなんておかしいでしょ!?」
「じゃあ何でそんなに嫌がってんだよ、どうすりゃいいんだ!」
「条件が良すぎるんですよ!何でそこまでするんですか、逆に怪しいから迷っちゃうんです!」
はぁはぁ…オジサンにつられて声を荒げてしまった、疲れる…
「俺はこの通り強面な上に学も無ぇ!馬の世話や手綱さばきには自信があったから御者なんてのをやってみたが、実際は馬の面倒じゃなくて客の面倒を見る仕事じゃねぇか。文字も読め無ぇし、愛想も無ぇ俺に客の相手が出来るかよ!」
そこまで言ったオジサンがジョッキを煽る。
〈ダンッ〉
「ふぅ~…」
ふぅ~…じゃないんだよ!
まぁ文字が読めないとか、愛想が無いのは分かった。
でも、だから何?
オジサンは自分の代わりにお客さんの相手をさせたいんだろうけど、私だってそんなの面倒くさい。
やってほしいなら、そうお願いすればいいのに…あれ?何だか既視感が…
あの時は、私もこんな風だったのだろうか。
「はぁ…分かりました。馬車の運賃と道中のお宿、ご飯代を持ってもらう代わりに、私がお客さんの対応をしたらいいんですね?」
そう言いながら『係員』の欄に名前を書く。
こんな事で人助けになるなら、まぁいいだろう。
正直接客がそんなに重労働とは思わないし、わからない事はオジサンに聞けばいい。
お金にまだ余裕があるとは言え、この先何があるかわからない。
運賃のみならず数日間の生活費も浮く事を考えると、私の方が圧倒的に得をしてるはずだ。