転職板
「ありがとうございます、使う機会が無いと助かりますけど頂いておきますね。」
「ええ、何かと使えると思いますよ。」
まぁ、くれると言うなら貰っておこう。
しっかりとポーチに仕舞い蓋をする。
「ところで、その魔女さんに会った後はどうしたらいいのですか?」
真偽を確認してほしいと言われても、確認した後どうするんだって話だ。
まさか、私が自己完結して終わりなはずがない。
「そうですね、そのままタビーレムで探検者として活動するというのはどうでしょう。」
「はぃ?」
クリスはまた何を言い出すんだ、私に探検者しろって?
「すみません、説明が足りませんでしたね。今すぐ行くことは出来ませんが、時期を見て改めてタビーレムに向かう予定です。リリィさんには、それまでタビレームに留まっていただけると助かります。」
「あ、そういう事でしたか。確かにタビーレムはダンジョンのある街と聞いていますし、それなら探検者として時間を潰すのも悪くなさそうですね。」
真偽は改めて聞きに来るってことね。
私も魔女のレベルを上げしたいし、ダンジョンに興味もあるから否定する理由は無い。
ただ、ダンジョンに潜って私が死んだりすることを懸念しないのだろうか?
「それは良かったです。私も用事を済ませたら急いで向かいますので、ダンジョン観光楽しんでくださいね。」
「え?あ、はい。楽しみます…?」
楽しむ?ダンジョンは危険が危ない殺伐とした場所のはずでは?
その後は特に大事な話も無く食事を終えた。
クリスがリリィさんと離れるのは辛いとか何度も言っていたが、私が同行したのは利害が一致しただけでしょ。
私に興味があるような事を言われたって、その気になんてならない。
コインをくれるくらいだからほんとに興味があるのかもしれないけど、私には関係ない事だ。
明日も朝が早いらしいので食事の後に皆にお別れの挨拶をして部屋に戻った。
次の日に1階へ降りるとフロントの人に声をかけられる。
話を聞くとクリスから数日分の宿泊費(色々込々)を貰ったって話だった。
確かに昨日まだしばらくこの街を見て回りたいって話はしたけど、クリスが数日分の宿代を払っておいてくれたらしい。
お金持ちパワーが炸裂している。
持つべきものはやっぱりお金持ちだ。
王子様最高ー!
朝食を食べながら今日の流れを決める。
さっき声をかけられたついでに街の事を少し聞いた。
街を十字に大きな道路が通っていて、街の真ん中に役所があるらしい。
道が十字に走っていたら中心は交差点になると思うんだけど…
まぁそんな感じの作りで、この宿屋さんは南西の区画の宿屋さんなんだとか。
各区画の中央道路沿いに宿屋さんが1件ずつあるって話だ。
区画整備がしっかりしてる、この街はきっと新しい街なのかな?
ちゃんと作った集落を街と呼ぶなら、ここに街の形を作ってから人を集めたのかも。
クリスも街は大体こんな感じだって言ってたし、十字の道路が無い集落は人がいっぱいいても街って呼ばないのかも。
となると役所のある集落が街って事?
まぁ役所なら案内みたいな窓口で地図とかもらえるかもしれないし、最初は役所に行ってみよう。
その後はぶらぶらしてお買い物とか出来たらいいな。
よしっ、ご飯を食べたら出発だ!
着替えを済ませ外に行こうと階段を降りたところでひと悶着あった。
カギ預けろ論争の勃発である。
私も以前はビジネスホテルとかに泊まっていたけど、カギを預けた事なんてなかった。
その感覚でそのまま外に行こうとしたら待ったがかかったのだ。
話を聞くと外出中に部屋の掃除とかするし預けてほしいとの事。
こっちとしては、カギを無くさなきゃいいんでしょって感じなんだけど…
まぁ確かに鍵もちょっと大きいし、部屋番号の書いてある木札みたいのもぶら下がってるから嵩張ると言えば嵩張る。
連泊だから別に掃除してくれなくてもいいのにとも思ったけど、掃除してもらえるならしてもらった方がいいか。
そんなこんなで部屋のカギを預けて外に出る。
どっちが北でどっちが南かもわからなかったけど、目的地はすぐにわかった。
ほんとに道路の真ん中に建物があるのだ、どういう事?
とりあえずそっちに向かって歩き出す。
近づいて見るとなんてことは無い、役所の周りがラウンドアバウトみたいになっていた。
こうしたら確かにこの建物を中心に出来る。
信号機も無いし大きい道の交差点はこういう形が良いのかもしれない。
ただ、わざわざこうするほどの交通量じゃないって所がちょっと寂しいね。
一応左右を確認して、そのまま道路を渡って役所へ向かう。
建物もまぁまぁ大きいけど庭みたいなのも広い、ちょうど一台馬車が止まっていた。
厩舎は無いけど駐車場的な感じなのかな、お兄さんが馬のブラッシングをしている。
駐車場で主人を待ってる運転手さんって感じだ。
扉を開けて中に入ると、広い空間が広がる。
奥の方には色々と窓口がありそうだ。
キョロキョロしていると、入り口そばのカウンターのお姉さんと目が合った。
インフォメーションかな?あのお姉さんに聞いてみよう。
要約するとここは、街役場と職安と各職業組合の複合施設らしい。
確かに役場と職安が同じ建物にあったら便利かもしれない、組合とかは小さな街にわざわざ自前の建物を用意する必要が無いって事かな。
きっと役場に間借りしてるんだろう。
市役所とかでも色々なところをたらい回しにされるのに、そんなにごちゃまぜにして大丈夫なのだろうか?
まぁ外観からもわかるくらい大きい建物だから大丈夫なんだろう。
ちなみに1階が組合の出張所で、2階が職安。3階と4階が役場との事だった。
「周辺地図と街の地図は、壁に貼ってあるから勝手に見てねー。」
説明中もそうだったけど砕けた感じのお姉さんだ。
お役所の受付だともっとお堅い感じかと思ったけど、違うのかな?
きっとこのお姉さんはこの施設の受付なだけで役場の人ってわけじゃないんだな。
そういえばこのお姉さんも商人なのか、受付なのに。
確かに商人ってだけでアイテムボックスが5個使えるから、特になりたいジョブが無い人はみんな商人なのかも。
てか今更だけどみんなはどうやってジョブチェンジしてるんだろ?
才能が開花しても勝手にジョブに付けるわけじゃない。
私は自力で出来ちゃったけど、何かしらの方法で活性化しないとダメなはずだ。
どうせここには職安もあるんだし、その辺も聞いてみよう。
「あ、転職希望だったの?それならあっちに転職板があるからそこで転職できるよ。まだ才能が開花してないようだったら、就きたい職業の組合受付に行ってみてね。」
ほぉ、転職板ってのがあるのか。
しかも組合で才能を開花させてくれる?らしい。
なるほど、役場に組合の出張所がある理由までわかった。
職安とセットだと都合が良いんだ。
ちゃんと理由があったんだね。
言われた場所に行ってみると大きな板がいくつも並んでいた。
それぞれパーテーションで仕切られていて、個人ブースみたい。
ブースに入ると【ジョブボード】っていう大きな板の他に【ステータスボード】なる小さな板もあった。
どちらの板も材質不明の謎物質だ、小さい方には『持ち出し禁止!!』と書かれている。
転職板は大きすぎて持って帰ろうとは思わないだろうけど、小さい方は確かに持って帰れそうだ。
でも、これ持って帰っちゃう人とか居るのかな?
小さいとはいえ食堂のお盆程度のサイズはあるから、持って行こうとしたらすぐばれちゃうでしょ。
とりあえず試してみよう。
どれどれ『板に触れて“ビュー”と唱えます』なるほど?
カタカナだと変な感じだけど“ビュー(view)“って事ね。
「ビュー!」
おぉー、何か出た!
いつも見てるステータスウィンドウみたいなものが板に映し出されている。
ステータスと違って職業ごとのレベルは見る事が出来ないらしい。
助祭だけが白文字で、他は全部灰色になっている。
やっぱり【かっこ】のジョブだけなのかな?
あれ、魔女見習いのジョブが表示されてない…何で?
試しに他のジョブを選択しようとして指を走らせるとウィンドウが消えてしまった。
あれ?壊れた!?
もしかして現在のジョブを確認する事しかできないとか?
そんなはずがない、お姉さんはこれで転職できると言っていた。
じゃあ何で?
落ち着いて周りを見ると『板から手が離れますとやり直しとなります、手は常に触れさせてください』と書いていた。
ビックリした、ほんとに壊しちゃったのかと思ったよ…
ちゃんと説明を全部読んでから試せばよかった。
仕様説明みたいなのがまだ書いていたので残りも確認しておく。
『ジョブボードを表示した状態でなりたい職業をイメージしながら“セレクト”と唱えると転職する事が出来ます』
『終了したい場合はそのまま手を放してください』
『※転職の際に気分が悪くなる場合がございます、あらかじめご承知おきください』
もうないよね?よしっ!
なるほどイメージしてセレクトか、勝手にタップすると思っちゃってた。
イメージで操作できるのはステータスと同じだから簡単だ。
転職で気分が悪くなるってのは、ジョブボーナスの影響かな?
転職板だとボーナスとかスキルの確認も出来なさそうだし普通は分からないんだ。
ステータス見れるのってやっぱりすごいんだなぁ。
気を取り直して板に触れる。
「ビュー!」
とりあえず探検者をイメージして…
「セレクト!」
探索者が白文字になった、出来たっぽい。
手を放すとウィンドウが消えて、確かに少し脱力感がある。
ステータスを確認すると、助祭から[かっこ]が外れていた。
外しておく理由が無いのですぐに助祭を活性化する。
ジョブボードで転職しちゃうと元々就いていた職業が外れちゃうのか。
皆が1つの職業にしか就けないのはこれの影響かな?
なるほど、これじゃあステータスウィンドウの劣化版だ。
試しに使ってみたけど、もう2度と使わなくて良いなこれ。
何か少し疲れた気がする、実際転職のせいで疲れたのかもしれないけど…
まぁもう済んだことだし忘れよう。
まだこっちの小さい板も試したい。
こっちも説明があるようだ。
『板に触れ“ビュー”と唱えると現在の状態を確認する事が出来ます』
これだけっぽい?
よしっ!
「ビュー!」
試してみると今度は板にステータスが表示される。
■■■■■
【リリィ】〈人族〉
【14歳】
【探検者】
■■■■■
へぇ~、こんな感じなんだ。
この板は【名前】【年齢】【職業】程度しか見れないっぽい。
他の人のステータスを見る時とだいたい同じか。
ちゃんと探検者になってるし、転職は一応成功かな?
手を離すと板の表示が消える、これも触ってる間だけらしい。
必要ない気もするけど、こっちは転職確認のために使うって事ね。
やる事もやったしブースから外に出る。
【リリィ・S・ホワイト】〈人族〉
【14歳】
【探Lv2】[魔女見Lv2][戦Lv2][拳Lv1][魔Lv2][助Lv1][商Lv1][アLv1]
魔女の外套、魔女の服、魔女の靴、革の小袋
◆魔女見習い
・能力〈器用C〉〈知力C〉〈精神C〉
・スキル〈毒生成〉〈薬生成〉〈攻撃魔〉〈弱化魔〉〈回復魔〉〈強化魔〉
◆探検者
・能力〈筋力D〉〈体力D〉〈素早さD〉
・スキル〈探検地図〉〈探検移動〉〈探検脱出〉〈探検箱〉
◆戦士
・能力〈筋力E〉〈体力E〉〈素早さE〉
・スキル〈強撃〉〈耐える〉〈走る〉
◆拳闘士
・能力〈筋力D〉〈体力D〉〈素早さD〉
・スキル〈強撃〉〈耐える〉〈走る〉
◆魔法使い
・能力〈知力D〉〈知力E〉
・スキル〈攻撃魔〉〈家政魔〉
◆助祭
・能力〈精神D〉〈精神E〉
・スキル〈回復魔〉〈家政魔〉
◆商人
・能力〈筋力E〉〈体力E〉〈素早さE〉〈器用E〉〈知力E〉〈精神E〉
・スキル〈商人の箱〉
◆アイテム商人
・能力〈筋力E〉〈体力D〉〈素早さE〉〈器用E〉〈知力E〉〈精神E〉
・スキル〈商人の箱〉〈アイテム鑑定〉