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小さなボーイさん

「暇になって来た…」

鼻歌交じりに浴槽にお湯を注ぎ始めたのはついさっき。

もう結構な量手から水を出しているけど、なかなか湯舟がいっぱいにならない。

お風呂を沸かしてた時ってこんなに時間かかってたっけ?


あの頃はボタンを押すだけでお湯張り出来たし、待ってる間は他の事をしていた気がする。

今は自分の手から水が出てるからこのまま待ってなきゃいけない。

しかもお風呂場に来るときに服を全部脱いじゃったから、すっぽんぽんだし…


「へくちっ!」

うぅ…早くお湯たまって…



ちょっと計画性が無くて風邪を引いちゃうところだったけど、終わってみれば身体はポカポカだ。

良いお湯でござんした。


今は化粧台の前に座り髪をとかしている。

備え付けの櫛は木製だけど、こっちにも黄楊みたいな木があるのかな?


きっとここはそこそこのお宿だから備え付けの櫛とかあるけど、他の宿屋にはないかもしれない。

自前の櫛も用意ないとなぁ。


むふふっ、元から可愛いのにお風呂効果で益々可愛くなってしまった。



しばらくぼけーっとした後、日の高さを確認するために窓辺へ行く。

外を見ると中庭が見えた、宿屋ってのは何処でもこうなのかな?


厩舎の隣に馬車が並んでいる。

他の馬車の人達は何処から来たんだろう。


あの村の最寄りの街がここってだけで、やっぱり他にも街がいっぱいあるんだろうなぁ。

この街もちゃんと見てないのに、他の街の事を考えるのはまだ早いか。

よし、まだ時間もあるしジェシカさんにもらった小袋を確認しよう。



あっ、村を出るときにもらったパンが丸々残っている。

今朝はゲイルさんがご飯を作ってくれたから食べていなかったのだ。


元々カチカチだし乾パンだと思えば、缶に入っていなくてもまだまだ大丈夫なのかな?

この先食べる物に困るかもしれないし、とりあえずこのまま取っておくことにする。


小袋を開けて机にばら撒くと、中からくしゃくしゃの紙が出てきたので広げてみる。


『ウチからの礼だけじゃなくて、爺さんや婆さんからの分も入ってます。』

そういう事か、診療所の人達のお礼も入っていたんだ。

どおりで袋が重いと思った。


しかも中身は全部小銀貨だ。

きっとジェシカさんが両替してくれたんだろう。

銀貨や銅貨は見た目カッコいいけど、大きすぎてアイテムボックスが無いと使いにくいもんね。

私の事を信徒と思っていたから配慮してくれたのかもしれない。


机の上の小銀貨を適当に掴みポーチに入れるふりをしながらカエル君に食べてもらう。

よしよし、アイテムボックスのサイズを変えれば自然な感じに出来そうだ。


探検者ならアイテムボックスから直接お金を出せるけど、今の私は旅の信徒だしアイテムボックスを使えるのはおかしい。

これならポーチからお金を出してる風に見せれるから怪しまれないはずだ。

村では特にお金を使うような事も無かったけど、これからはちゃんとポーチも付けておこう。


空になった小袋にパンツを仕舞いリュックの底に敷き、その上にパンをのっけてリュックを閉める。

折角作ってもらったけど、今着てる一張羅の下着に比べて着心地がいまいちなのだ。

ポンポンしたら衣類がきれいになる事に気付いたし、この下着はしばらくパンの座布団になってもらう事にする。


風呂敷的な布とか、他にも用途別の袋とかも必要だ。

やっぱり明日は街でお買い物かな。

どの程度のお値段かわからないけど、安物なら色々買えるだろう。



やる事もやったので、少し早いが食堂に向かうことにしよう。

猫の頭をナデナデしてお留守番をおねがいする。

まぁ、ただのリュックだけど…


クリス達と別れたら一人になっちゃうし、この子は心のよりどころだ。

だんだん愛着も湧いてきたし、仲良くやっていこうね?

猫リュックに別れを告げて部屋を後にする。



1階に降りて食堂に入る。


ジェシカさんの宿はでっかいテーブルひとつだったが、ここは酒場の時みたいに丸テーブルがいくつも並んでいた。

クリスや他の誰かが居ないかキョロキョロしていると、男の子が話しかけてくる。


「お姉さん、席を探してるのかい?」

ここの宿の子だろうか、いっちょ前に蝶ネクタイをしている。

ボーイさんかな?


「あら、お兄さん。エスコートしてくださるの?」

私も調子に乗ってそんな事を言ってみる。


「奥の窓際の席がお勧めだよ、着いて来てっ!」

お嬢様っぽく喋っても合わせてはくれないらしい、元気いっぱいって感じで案内してくれた。


窓際の席はすべて2人掛けの丸テーブルだ、私が1人だったからここにしたのかも。

座る時には椅子まで引いてくれる、この子中々やるな!


私が席に着くと、テーブルに置いてあった木の板を開いて見せてくれた。

某ファミレスとかにありそうなやつだ。

内側に紙が貼っている訳では無く、直接板に色々と書いてある。



ここでやっとお金の価値がわかった。

料理名の横に$のマークが書いているからだ。


名前だけじゃどんな料理かわからないけど、ドリンクメニューの辺りを見るとミルクがあった。

ミルクの横には5$と書いている。

今はまだクリス達を待っているだけだし、これでいいか。


「それじゃあミルクをお願い出来ますか?」

「ミルクだね、わかった!」

そう言って男の子は奥へ駆けて行く。お代は後払いなのだろうか?


ヨタヨタとした足取りで、さっきの少年が木の板に乗ったコップを持ってくる。

木の板って言ったけどまぁお盆だ。

お盆の上に木のコップが乗っている。


ジョッキと言ってもいいくらいの大きなコップだ。

村の酒場ではマグカップみたいな入れ物だったけど、普通のコップだとこのサイズなのかな。

ジェシカさんの宿もコップはこのサイズだった。

もしかしたら、あの時はクリスがそういう注文を付けてたのかもしれない。


少年がテーブルの上にカップを置いた。

「こちらミルクになります!」

「ありがとうございます、お代はどうしたらいいですか?」


「あ、忘れてた!ほんとは先に書かなきゃダメだったのに…」

言うが早いか、男の子はエプロン型のポーチから紙を取り出して何やら書いている。

伝票みたいな物だろうか、使っているのは鉛筆かな?

明日の買い物の時に鉛筆やノートも買う事にしよう。


「ここは泊りのお客さんしか利用しないから、お代はそっちに付けるんだよ。」

へぇ、そうなのか。

確かに宿帳に名前は書いたけど、後払いってのは珍しい気がする。

踏み倒されたりしないのだろうか。


「それじゃごゆっくり。」

そう言い少年が帰ろうとしたところで呼び止める。

「私のお部屋とか聞かなくて良いの?」

宿泊代に付けるって言ったくせに、どこの部屋の人か聞かないのはおかしい。


「お姉さん4階のお客さんでしょ?」

「え、そうだけど…どうしてわかったの?」

「お姉さんの服がとっても上等そうだし、さっき4階に泊まるお客さんが来たってみんなが騒いでたから。」

4階に泊まると騒がれるのか…やっぱりお高いお部屋なのかも。


「それに、お姉さんは良い匂いだから。」

「ぶほっ、ごほごほ…ど、どういう事かな?」

ショタにお姉さん良い匂いと言われてしまった、純真なふりしてやり手か!?


「んー、ここは宿屋だからお客さんは旅の途中だったりしてみんな大抵臭いんだよ。でもお姉さんは臭くないから、頻繁に水浴びする人なんだろうなって思って。」

そういうことか、お姉さん勘違いしちゃうところだったよ…ふぅ。


「それじゃ今度こそ戻るね。」

「あ、ボーイさんちょっとまって。」

少年を呼び止めて銅貨を握らせる。


「あの…これは?」

「接客してくれたお礼だよ、チップって言ったら分かるかな?」

今度は銅貨と私の顔を何度か見て、そして笑顔になった。


「あ、ありがとーっ!」

さっきよりも勢いよくお辞儀をして、また奥の方へ駆けて行く。


「兄ちゃん!俺チップもらった!!」

よほど嬉しかったのか、食堂にまで聞こえる声で叫んでいる。

まぁ、喜んでもらえたならよかった。


格好はボーイさんみたいだったけどやっぱりまだまだ子供だ、私の目には10歳と出ていた。

でも、あの歳でもう働いているなんて偉いなぁ。

あの子もゆくゆくは立派なホテルマンになるのかな。


まぁ、この量のミルクなら夕食まで余裕で足りるだろう。

むしろ飲みきれるだろうか…


お話とは関係ないのですけど、今日歯医者さんで歯を抜きました。

ドリルのキュイーンとかチュイーンって音は別に怖くなかったんですけど、歯を抜く時のメキメキとかメキョメキョって感じの音がめちゃめちゃ怖かったです。

この気持ちわかる方居るかな?ドリルなんかよりよっぽど怖いよねアレ。

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