ホテル?
もうすぐ街だと言われて、馬車から顔を出して見てみると辺り一面草原だった。
やっぱり街も高い壁みたいなものは無くて、木の柵みたいなのもない。
石造りの壁で覆っちゃうと街を広げられないし、何に対しての壁だって話もある。
基本的にモンスターは街まで来ない、って事になってるから壁なんか要らないのだ。
でもその代わりに街の外側の木々は切っちゃって、見晴らしを良くしてるらしい。
こうしておけばすぐに街も広げられるし、何かの接近にもすぐに気づける。
だからこの辺全部平原なのか、すごいなぁ…
街の周りの木を切ったり、岩を退けたりするのは騎士団の仕事だとか。
なんかそう聞くと自衛隊みたいな気がしてきた。
噂をすると騎士団っぽい人達が訓練みたいなのをしていた。
鎧なんかも着けてないし、みんな薄着で汗を流している。
外周を草原にしてるから外で訓練が出来て、街の中に大きな訓練施設を作る必要もないんだって。
街の中に訓練施設があってもいい気はするけど、こうやって外で訓練してくれてたら街の人達も安心出来る気がする。
モンスターが居なかったとしても野生動物は居るだろう、オオカミとかイノシシとかクマとか。
街の外周で訓練を行うのは意外と大事かもしれない。
そこまで考えてやってるのかな?
もちろん入り口に見張りの兵士さんなんか居ないし、検問なんかも無く素通りで街に入った。
街に入るとファンタジーな街並みが広がっていた。
木造だったりレンガ造りだったり様々な建物が並んでいる。
道路も整備されていて道幅も広いし、なんと石畳が敷かれていた。
標識とか街頭みたいのは無いけど、ちゃんと街だ。
最外周は違うらしいけど、街って呼ばれる集落の大通りは大体石畳が敷かれているらしい。
街って言っても建物がたくさんあるだけで大した事無いと思っていたけど、思っていたよりしっかりしている。
しばらく進むとゲイルさんが馬車を止めた。
みんなが荷物を持って馬車から降りだしたので、私もリュックを背負って降りる。
なるほど、ここはきっと宿屋さんだ。
壁に刺さってる感じのちょっとおしゃれな看板には、ベッドの絵が描かれている。
今日はここに泊まるってことだろう。
ゲイルさんも降りてしまったのに馬車が勝手に動き出した、他の人がやってくれてるみたいだ。
映画の中でしか見た事無いけど、バレーパーキングみたいな事かな?
自動車じゃなくて馬車だし、きっと厩舎に行った後は馬の世話とかもしてくれるんだと思う。
チップとか渡したのかな?それとも馬のお世話代とかも宿泊料にふくまれるの?
だとしたらこのお店は高級店に違いない、私のお財布事情で大丈夫だろうか…
街まで連れてきてもらったのは良いけど、私もここに泊まらなきゃダメかな?
みんなは建物の中に入ってしまいそうだ。
「えっと、私は…」
クリスがゲイルさんと何やら話をしてからこちらに来る。
ゲイルさんはそのまま宿の中へ行ってしまった。
「リリィさんの分も部屋を取るので大丈夫ですよ。」
そう言ってクリスも中に入ってしまう。
馬車に乗せてくれただけじゃなくて、宿代も払ってくれるらしい。
他のもっと安そうな宿を探そうと思ったけど、おごってくれるなら話は別だ。
私も後に続いて中に入った。
中に入るとゲイルさんがカウンターで何やら話をしていた。
あ、時計だ!カウンターの後ろに大きなのっぽの古時計が置いてある。
いや、古くは無いのかもしれないけど雰囲気的にそんなやつだ。
数字は1から12まで書いてあるし、私が知ってる時計と同じっぽい。
今までは時間もわからないままだったから、これでやっと時間のある生活が送れる!
村にはなかったけどやっぱり街には時計塔とかがあるのだろうか、朝昼夕にゴーンって鐘が鳴ったりするのかも?
そんな事を考えているとクリスに呼ばれたのでカウンターに向かう。
どうやら宿帳にサインする必要があるらしい、みんなはいつの間にサインしたんだろ?
促されるままにサインをして、部屋のカギを受け取る。
「この後は自由にくつろいでください、夕方になったら食堂で食事にしましょう。」
自分のカギを見ると401と書いていた。
みんなと一緒に階段を上るがクリス達は3階の部屋らしい。
何で私だけ4階なんだろう?
鍵を開けていざ入室、部屋に着いたらやっぱりお部屋チェックしないとね!
まずベッドが大きい、これがキングサイズってやつか!
更に机とは別にテーブルとソファーまである。
何だかこの部屋広すぎないかな…
そして鏡だ!
ただの机だと思ったけど化粧台だこれ!
鏡を覗くとリリィが映った。
これが私…
金色の瞳で銀髪のセミロング、赤ずきんちゃんみたいな恰好の女の子がそこに居る。
もっと子供っぽいかと思ってたけど、顔立ちがしっかりしていて美人さんだ。
自分で自分に美人って言うのも変だけど、私の知ってるリリィじゃない…
画面越しに見たリリィはもっとアニメっぽい感じだった。
それがリアルな美少女になってる。
これはこれでいい!
周りの人たちがリアルなんだから、私もリアルなのは当たり前か。
こんな感じだったのかぁ…
しばらく自分を見つめ続けてしまった。
そうだ、この部屋には他の扉もあったんだ。
お部屋のチェックを続けよう。
1つ目はクローゼットだった、両開きだからそんな気はしてたけど…
木の棒が横に伸びていてちゃんとハンガーっぽいのもある。
部屋着みたいなものや、スリッパみたいなものは流石になかった。
2つ目はトイレだ、しかもちゃんと便座タイプ!
4階なのにトイレがあって、しかも水洗だなんて…街だけ発展しすぎなのでは?
ジェシカさんの宿は1階にしかなかったし、しゃがんでするタイプで外の肥溜めに直通だったのに…
いや、村では肥料にするとかの理由でワザと肥溜め式だったのかもしれない。
確かにこんな街中に畑なんか作らないだろうし、肥溜めにする理由が無いって事なのかも。
レバーやボタンは無いけど、天井から紐みたいなのが伸びている。
きっとこれで水を流すのかな?試しに引っ張るとちゃんと水が流れた、おぉーすごい!
原理は分からないけど中々のトイレだ。
3つ目はなんとお風呂場だ、部屋の真ん中に木製の浴槽が鎮座していた。
中くらいの桶とか手桶みたいな物、さらには小さな椅子なんかも置いてある。
物干し竿みたいなものに大小のタオルが掛けてあり、壁には大きな姿見まであった。
床には排水溝らしき物があるし、明らかにお風呂だと思うんだけどお湯はどうするんだろう?
ぐるっと部屋を見回してみたけど、シャワーどころか蛇口も無い。
まさか沸かしたお湯をわざわざ持ってくるのだろうか、どこの貴族だよ…
そうか、この世界だと家政魔法があるからお風呂係がいるんだきっと。
私の場合は自分で使えるから勝手にやっても良いのかもしれないけど、お店の人に聞いてみよう。
早速1階へ戻りフロントの人に聞いてみる。
普通は家政魔法を使える人を呼ぶらしいけど、自分で使えるなら勝手に使っても良いとの事。
ちなみにお風呂のスタッフさんは常駐じゃないから事前に言っておかないとダメらしい。
きっとお風呂付の部屋に泊まる人が稀なのだろう。
今呼べば夕方頃には来られるらしいがとりあえず断っておいた。
お部屋はクリスが取ってくれたから良いが、ルームサービスはきっと別料金だろう。
自分で準備できるのにわざわざ呼ぶのも悪いしね。
さて、お部屋チェックも済んだしさっそくお風呂に入っちゃおう。
夕方って言う時間設定はあいまいだけど、まだまだ時間があるはずだ。
猫リュックを机に座らせて、頭を撫でる。
「鍵はかけてるけど、しっかり見張っといてね!」
そう言ってから浴室に向かった。