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馬車にニコル

目を覚ますとまだ真っ暗だった。

流石に何も見えないので、ランタンを点けて準備を始めた。

借りてからあまり使っていなかったが今はとても助かる。

久しぶりに魔女装備をフルセットで装備し、借りていたジェシカさんの服を畳んで机に置いてからランタンを持って部屋を出た。


音がなるべく出ないように廊下や、階段を静かに降りる。

食堂にランタンを置いて行こうとした時、テーブルの上にパンが置いてあるのが見えた。

何やら書置きもあるようだ。


『ゴードンの事を救ってくれて本当にありがとうございます。リリィが来てからエマも元気になりました、宿の掃除も助かりました。これはほんのお礼です、道中気をつけてください。〈ジェシカ〉』

ジェシカさんが書いたらしい。

喋り方はぶっきらぼうだけど文章だと丁寧で、ギャップがちょっと面白い。


そう書かれた紙の上にはパンと小袋が置かれていた。

パンは良いとして、この小袋は何だろう。

持ってみるとジャラジャラと音が鳴った、多分お金だ。

最初は質素な食事だったから貧乏なのかと思ったけど、昨日の夕ご飯も豪勢だったし実はお金持ちなのかな?


ゴードンさんの事があったから節制していたのかもしれない。

確認は後ですることにして、小袋と硬くて大きいパンをリュックに詰めた。

ランタンの火を消し出口へ向かう。



宿屋から外に出ても真っ暗だった。

太陽が昇る気配もないし、曇っているのか星空も月明かりも無い。


流石に速く起きすぎたかもしれないけど、遅刻する方が恥ずかしい。

村の道を完璧に覚えているわけではないが、入り口の方向くらいは分かる。

足元にだけ注意してゆっくり行こう。


火の付いた枝を持ちながら村の入り口を目指す。


ほんとは枝に火なんか点いていない。

落ちていた枝に火を点けようとしたが、何の細工もして無いただの枝に火なんか点かなかった。

ハタキの事を思い出し、枝を持ったまま種火を使ったら枝の先端に火が現れたのだ。

ちょっとズル技だが明かりが無いとまともに歩けないしいいよね。


そろそろ入り口辺りかなと思っていると、こんな時間なのに人の気配がする。

クリスのパーティが集まっているわけではなく、誰かが一人で居るようだ。


目を凝らしてみる。


■■■■■

【ゲイル・スチュアート】〈人族〉

【20歳】

【執事】

■■■■■


人影はまだ見えないが執事さんが居る!


きっとクリスパーティのお付きの人だ。

こっちは火を持ってるし、あっちはもう気付いているだろう。

このままそっちに向かおう。



すぐそばまで来たのに姿が見えない。

目の前に居るはずなのに…


これはやってしまった、きっと隠れてるんだ。

それなのにまっすぐ歩いてきちゃった。

このまま声を掛けたら、何故気づいた!?って事になってしまう。


多分ここにクリス達も来るはずだから、知らないふりしてこの辺に座っておこう。

周りをキョロキョロと確認して、ちょうどいい丸太を発見する。


火を消して丸太をトントン叩く、もちろん家政魔法で綺麗にするためだ。

枝を捨てて丸太に腰を下ろした。


大して入っていないがリュックの重みのせいでバランスが悪い。

リュックを降ろして抱える。


早起きしすぎたせいか少し眠い、リュックを抱えた事によって眠気も倍増だ。

姿は見えないけど執事さんも居るし、ちょっとだけ…


「スゥー、スゥー…」




〈ガタンッ、ガタッガタッ…〉

「ん、んぅ~…?」

身体を起こしキョロキョロしているとクリスが話しかけてくる。

「リリィさん、目が覚めましたか。」

ここは馬車の中かな?


貴族様が街中で乗っているような御洒落な馬車ではなく、荷物を運ぶときに使うであろう幌の馬車だ。

荷物はあまり乗ってないけど、みんなで乗っているとけっこう狭い。

サイズ感的には軽トラくらいだろうか?

そして、よく今まで目を覚まさなかったなって位ガタガタと揺れていた。


「我々を待っている間にゲイルに眠らされたんですよ。」

そっか早起きのせいで眠くなったんじゃなくて、眠らされたのか。

眠らされた!?


「そんな魔法があるんですか!?」

「えぇ、寝付けない時などに必要でしょう?」

必要でしょ?って言われても、そうですねとはならんのよ!

そんな魔法あったら色々悪戯出来そうで危ないじゃん!


「注意していれば掛からないはずなので、リリィさんはもう少し警戒した方がいいですね。」

なるほど、執事さんがどうせクリスの間者だろうって思って油断しちゃったって事か。


「次からは気を付けます…」

きっと家政魔法に、主人を安眠させる的な魔法があるんだろう。

私も欲しい…


20歳で執事は若すぎる気がしたけど、お家を守る人じゃなくて家政魔法のスペシャリスト的なジョブなのかな。

そもそも勝手に執事さんをお爺ちゃんってイメージしてるだけで、屋敷とかで働いてる男性はみんな執事って言うのかもしれないけど…よくわかんない。



「夕方までにはサーティの街に着く予定ですが、リリィさんも無理しないでくださいね。」

馬車は時速6kmくらいって聞いた事がある。

休まず進み続けたら1日で100kmくらい移動出来そうだけど流石にそんなわけがない。

1日で着けるとは言うけれど馬も休ませないといけないし、街まではどれくらいの距離なんだろう?


あれ?隣にクリスが居て正面に3人、御者台に2人が座っている。

私が横になっていたせいでこちら側に2人しか居られなかったみたいだ。


「あ、ごめんなさい。私のせいで皆さんのスペースが…」

「あぁ、大丈夫ですよ。元々3人は向こう側でしたし、エドは今御者台に居ますから。」

いやいや、私のせいで御者台に居るって事じゃん。


「でも…」

「リリィさんもあまり皆に気を遣わずに、自分の事に集中してください。ほら皆も体力を使わないように集中しているでしょ?」

言われてみると3人共縮こまって微動だにしない感じだ、私たちの会話に混ざっても来ない。

馬車に乗るのは歩くよりも大変とか聞いた事があるけど、初めての馬車大丈夫かな…




今は最初の休憩タイムだ。

馬を休ませたり、みんなも休んでいる。


そして…結果としては、全然大丈夫じゃなかった。

そもそも横を向いているので酔うし、ガタガタと走るので衝撃のたびにピョンピョン跳ねる始末。

跳ねるたびにお尻が痛いので、ちょくちょく回復魔法をかけていたくらいだ。


救いだったのは、酔いそうになるたびにニコルさんが回復してくれたことだろう。

地獄に仏、馬車にニコルだ。

聖職者は確かに天使様だった。


馬車を降りるときにみんな伸びなどはしていたが、お尻を痛がったり酔って具合が悪そうな感じが全然無い。

解せぬ…


私が恨みがましい目で見ているのに気づいたのだろうか、クリスがこんな事を言う。

「皆馬車での移動に慣れているんですよ、流石にここまで酷くはありませんがよく乗るので。」

との事だ。


確かに偉い人はみんな馬車に乗ってるイメージだけど、こんなに大変とは思わなかった。

クリスすら“酷い”と言うくらいだからこの道はそうとう悪いのだろうけど、それでも平気なのはなんかずるい。



ゲイルさんが馬のお世話をしていたので、お手伝いを願い出たが断られてしまった。

「仕事ですので。」

という事らしい。


そういえば、この馬車は一体どこから出てきたんだ?

あの村に馬車なんてなかったし、トーマスさん達も馬車が来るまで待つみたいな事を言っていた。

それに、あの村ではゲイルさんを見なかったし…


「あの、ゲイルさんはいったい何時あの村に?」

「初めから迎えに行く日付は決まっておりましたので、それに合わせ街を出発しました。」

わざとゆっくり攻略したとか言っていたけど、ゲイルさんが来るタイミングに合わせたのかもしれない。

確かに自前の馬車があったら目立っちゃうもんね、それで街に待機していたって事か。


ゲイルさんが馬のお世話を終わらせみんなで朝食を食べる。

ご飯の用意もゲイルさんがするらしい、じゃあ今までご飯どうしてたの!?


と思ったが、全部酒場で済ませていたのかもしれない。

だってお金持ちだし…


またお手伝いを「仕事ですので。」あ、はい…

私の分まで用意されてしまった。

確かに私はジェシカさんに貰ったパンくらいしか食べ物を持っていないが、なんか申し訳ない…


ちなみに朝食は、保存の効く堅いパンじゃなくてフワフワのパンだ。

さらに、取れたてかの様な新鮮な生野菜やベーコンまで挟まっている。

きっと街を出る前に色々買ってきたのだろう、ゲイルさんすごい。


これだとスープなんかも出てきそうな充実ぶりだが、飲み物はお茶だった。

作れなかったのではなく、馬車移動を考慮したのかも。

あんまりたくさん食べたらそれだけ酔った時のリバースも大変だもんね。


その後も何度かの休憩を挟みつつ、夕方どころかまだ日が高いうちに街に到着してしまった。

思っていたよりも街まで近かったようだ。

日が昇った頃出発したらちょうど夕方ごろ着く位の距離なのかな?


私事ですが書き始めてから一月経ったようです。

飽きっぽい性格なのですが、こうして続けていられるのも読んでくださる皆さんのおかげです。

ありがとうございます。


このまま3か月、半年、1年と書き続けられるようにがんばります。

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