厄介ごと
そして今こうなっているって訳だ。
確かにお友達ですって言ったけど、建前だって思うでしょ普通。
それに私たちの仲とか聞く人が聞けば誤解を招きそうだ。
勘弁してほしい。
まぁクリスは仕方ないとしても、エドワードとかも私が全面的に手伝うと思っているのは正直納得がいかない。
皆には言わないって言ってたけど、私の事バラしたんじゃないよね?
クリスの事をジーっと睨む。
「自分の事も話していないのに、リリィさんの事を話したりなんかしませんよ。」
小声でそう言ってくる、信じたいが現状だと鵜呑みにはしないでおこう。
「もうダンジョンを破壊したんですし、目立っちゃってもいいんじゃないですか?」
私も小声で話を続ける。
「最初はそれも考えましたが、ここでバラすと帰りがめんどくさくなります。リリィさんの力で何とかしてもらえれば楽じゃないですか。」
ぶっちゃけすぎだ、私の事を何だと思っているのか。
私は便利屋じゃないぞ!
「はぁ~、ちなみに嘘ついたのがバレたらあの人たちはどうなるんですか?」
「国側としては特に何もしないですかね。」
え、罰みたいなの無いの?
「ですが、この先探検者としては活動していけなくなるでしょう。」
それもそうだ、嘘つき野郎として他の探検者に後ろ指をさされるに違いない。
クリスは本当にただの正義感で奴らを許せないだけらしい。
彼らのその後は所詮他人事か。
「わかりました、上手くいくかは分かりませんけど何とかやってみます。」
まぁなるようになれだ。
これ以上付き合わされるのも面倒だからやってやる。
「ちなみに彼らは色々な格好をしてますけど、全員探検者です。きっとクリスさん達の方が強いので、何かあったらちゃんと助けてくださいね?」
「この距離でもわかるのですか!?流石リリィさんですね。」
またやってしまった。
昨日アイテムを判別した時はかなり近くだったし、いつジョンに気付いたかも詳しく話していない。
無駄に魔女の瞳の力をばらしちゃったけど、めんどくさいしもういいや。
「それでどうなんですか?」
「彼らに何をするかはわかりませんが、リリィさんを守るくらいお安い御用です。この間だってそこの彼が仲裁したでしょ?」
そう言って騎士に目線を送る。
私もそっちを見るとニカッと笑顔で返された。
保険も掛けたので、覚悟を決めて席を立つ。
向こうはかなり盛り上がっているようだ、嘘つき探険者達はお酒を飲んではしゃいでいる。
あんなところに向かうのは嫌だけど、もう行くしかない。
「すみません。ダンジョンを破壊した方達と聞いたのですが、お話を伺ってもよろしいですか?」
「お、何だ嬢ちゃん。俺たちの武勇伝でも聞きたいってか?」
一番装備のごつい人が反応する、この人がリーダーっぽいな。
「ええ、ボスを倒すまでにどんな戦いを繰り広げたのかお聞きしたいです。」
営業スマイルもつけておく、良い感じに酔っているようだし面白い話が聞けそうだ。
この手の話をするのに慣れているのか、それはもうつらつらと嘘を並べてくる。
ジョンのパーティは26階までのアイテムをトーマスさんに販売していたらしいから、26階までの情報は彼らも入手していたのだろう。
でもその先は出鱈目だ。
他の階層の事もクリスに聞いている。
出てくるモンスターが違うし、何よりもポイズンビーって名前が全く出てこない。
クリスが嘘をついていたとしても、ポイズンビーの魔玉は私が見ているのだから間違いない。
まぁ、そもそもクリスが嘘をつく必要もないのだけど。
この人たちが嘘つきであることは間違いが無くなった、後はどうしてやろうか…
「ありがとうございます、素晴らしいお話でした。吟遊詩人などでもやっていけるのではないでしょうか。」
「おいおい、そう褒めるなって。」
リーダーはまんざらでもない顔をしているが、話をするのが上手いと言っただけだぞ嘘つき野郎。
「えぇ。ですからダンジョンを攻略したと嘘をつくのはやめて、吟遊詩人にでもなってください。」
嘘つきパーティの人達に睨まれる。
「あぁん?そいつはどういう事だ嬢ちゃん!!」
リーダーがご立腹だ、何とかなだめる。
「まぁまぁ、落ち着いてください。」
「落ち着けるわけがないだろうが!」
リーダーが立ち上がろうとしたので、この前のように目の前に大きな種火を出す。
「座ってください。」
「嬢ちゃんは魔法使いだったのか…」
魔法使い風の人が動揺しているのがわかる。
目の前に本当に魔法を使う人間が現れたのだ、突っ込まれたら嘘がバレると思ってるのだろう。
リーダーも私の事を魔法使いと決めつけてるみたいだけど、これは家政魔法だ。
神官風の人は何故平気な顔をしてるんだ?
嘘つきリーダーが座りなおした。
「落ち着かれましたか?」
「あぁ、だがさっきの発言は聞き捨てならねーぜ。」
聞き捨てならないらしい。
「今ならまだ間に合います、ダンジョン破壊の件は取り下げた方が身のためです。」
「だから俺たちがやったっつってんだろ!」
嘘つきだし言葉も汚いし酒臭いしほんと最悪。
「皆さん随分と装備に力を入れているみたいですね。ですが力も無いのに装備にばかりにお金をかけて、口から出るのは嘘ばかり。あなた達みたいな人がダンジョンを破壊したなんて、子供が聞いても信じられないでしょう。」
嘘つきパーティたちの表情が変わり始める。
「さっきから嘘だ嘘だと嬢ちゃんに何がわかるってんだ。」
「先ほどダンジョンを破壊したパーティの方たちからもお話を聞いてきました。あなた達とは違い本当の魔法使いも本当の神官も居ましたよ、あの方たちがこんな嘘だらけのパーティに先を越されるわけないじゃないですか。」
「「なっ!」」
今度はあからさまに慌て始めた。
「見た目をそれっぽくしたところで、魔法が使えないのでしょ?何故か私の事を魔法使いと勘違いなさっていますが、私は魔法使いじゃありません。これは家政魔法という魔法です。神官の方も使えて当然の魔法なのですが、何故知らないのでしょうね?」
そう言って水鉄砲を神官風の人に放つ。
「くっ…」
「ダンジョンを破壊したパーティの方たちは目立ちたくないという理由でダンジョン破壊を宣言しなかったそうですが、手柄を横取りしようとしている方たちに対して大層ご立腹のようでした。あちらの方たちがこれ以上気を悪くされる前に宣言を取り下げるのが賢明です。大事になれば間違いなくあなたたちは破滅なのですから。」
そう言って嘘つきリーダーの顔を見る。
「ど、どうすりゃいい…」
何かぼそぼそ言っている。
「はい?」
「どうしたら穏便に済むかって聞いてんだよ…」
観念したのかな?
思ったより簡単にいって拍子抜けだ。
私に攻撃を仕掛けてきたところを、騎士さんに助けてもらうような展開を考えていたのに。
「わかっていただけて何よりです。それでは一緒に商店に行きましょう。役所の関係者の方が居るので、そこで誤解だったと言えば大丈夫なはずです。」
嘘つきリーダーと共にトーマスさんのお店に向かった。
トーマスさんには、なんやかんや適当に言い訳を付けて勘違いだったと納得してもらった。
そしてなんと、あの棒立ち探検者も役所に雇われた人だったらしい。
だからさっき2人で相談してたって事なのかな。
私とトーマスさんが話してる間もずっとそばに居て、何してんだって思ってたけど胸にバッジが付いていたのだ。
話を聞くとダンジョンに入る人を確認したり、どこまで進んだかを確認するお仕事をしてたみたい。
それで私のことも覚えてたって事か。
規模の大きなところでは2、3人体制だったり。椅子や机、テントなんかもあるらしい。
例の嬢ちゃんの話も聞けた。
あの日以来見なかったから、ダンジョンから帰って来ない嬢ちゃんが居る。
とか、ダンジョンでやられたのかもしれない。
って、話をトーマスさんとしてたんだってさ。
探検者なら大体この辺にいるはずなのに、私は村の方に居たからわからなかったみたいだ。
ただでさえ探検者なんて身元の不確かな人たちだ。
そんな事も考えなきゃいけないなんて、入り口に立ってるだけだと思ってたけど実は大変な仕事なのかもしれない。
夜から朝は居ないから、その時の事は知らんって言ってたけど。
クリス達は確認させるためにちゃんと昼間に出てきてたのかな。
嘘つきさん達は夜に潜っていたとでも言ったのだろうか、まぁどうでもいいや。
トーマスさん達にお礼を言われ外に出た。