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充実

「私の疑いが晴れたみたいで良かったです。それでは私は失礼しますね。」

そう言って席を立とうとするとジョンに止められる。


「すみませんが、もう少し付き合っていただけませんか?」

「まぁ、少しだけなら…」

本当はすぐに帰りたいが、断りにくい雰囲気だ。


「今日リリィさんにお越しいただいた本当の理由は、私たちに協力してほしいからなのです。」

ジョンが本題を切り出すことにしたらしい。

エドが遠くの仲間に目配せをしたりして、少し警戒を強めたような気がする。



「実はこの魔玉は27層で手に入れたものです。ですが、私たちは今23層を攻略している事になっています。」

それを知ってたから助けてあげたんだよ、てか私に言っちゃっていいの?


「本来ならダンジョンの早期破壊のために現在の進度を他の探検者達と共有するべきなのですが、私はどうしてもこのダンジョンを自分の手で破壊しなければいけないのです。そのため進行度を偽り攻略しています。」

何で自分でやらなきゃいけないのかは知らないが、その為に嘘をつくのは別に悪くないと思う。


「今回は、間違って売らずに済みましたがアレを売っていたら我々の進行度が他の探検者達にバレていたことでしょう。」

嘘の申告をしていたとしても、売る物で嘘がバレてしまうわけだ。


トーマスさんがワザとばらしたりはしないと思うが、他の探検者達に知られる可能性はゼロじゃない。

それなら、なおさら私に話しちゃダメなんじゃないかな。


「今この話をリリィさんにしているのは、この事実を拡散させないためです。リリィさんが私達が他のアイテムを持ってるって話をしてしまった場合、勘ぐる探検者達が居ないとも限りません。」

だから逆に自分たちから言って口止めするって事か。


でも夜になるまでに誰かに話している可能性は考えないのだろうか?

「あの後私が誰かに話したかもしれないとは思わないのですか?」

「大変申し訳ないとは思っているのですが、実は監視をつけさせていただきました。」


監視!?キョロキョロと辺りを見回した後エドを睨んでやった。

「そういう仕事なんですよ、すみませんね。」

「リリィさんは村の方へ向かわれ、探検者や街からやってきた人間との接触は無かったと聞いています。先ほどのお話も疑わしい部分がありませんでしたので、こうしてお話しさせてもらっているというわけです。」


そうか、あの時すぐに口止めしても私が悪い奴だったら大して効果は無い。

それどころか逆に脅しをかける輩も居るかもしれない。

だったら泳がせたて様子を見た方が良いって事か。


「あの、どこまで見てたんですか…?」

エドにジト目で聞いてみる。


「診療所から宿へ戻る所までです。あの宿に他の宿泊客が居ない事は把握しています、診療所に至っては村の人間しか利用しません。こちらにも診療所がありますし、わざわざ村の診療所を利用する探検者は居ないでしょう。」

そうだったのか、通りでゴードンさんが寝たきりになっていたわけだ。


私なんかで回復出来るのだから、街から来た回復職の人やアイテムで簡単に回復できたのかもしれない。

何故ジェシカさんはこちらの治療師に依頼しなかったんだろう?

もしかして治療や回復アイテムってすごく高いのかな…?


「全然気づきませんでした…」

「本当に申し訳ありません。」

ジョンが最初からのほほんとしていたのは、報告を聞いた時点であまり私を疑っていなかったからだろう。

低姿勢だったのは監視していた事への負い目とかがあったのかもしれない。


「いえ、もう過ぎた事です。理由は分かりませんが、それほどヒミツにしたい事なのですね。」

「ご理解いただけて感謝します。」

まぁ、初めから言いふらすつもりなんてない。

ジョンを敵に回したら面倒なことになるのが目に見えている。


「まぁ、そういう理由もあって勝手に警邏をしていたりするんですよね…」

他の探検者達に情報を共有すればもっと早くダンジョンを攻略出来るかもしれないのに、嘘をついてしまっている罪悪感から警邏してるって事ね。


ん?それなら警邏なんかしてないでもっとガンガン潜ればいいんじゃ?

いやいや、私がゲーム脳の効率厨すぎるだけか。

まだ1階しか行った事無いけど結構疲れたし、ジョン達はもっと大変なのかもしれない。



最初に私と会った時の反応に納得がいった。

村の子だと思って近づいてみたら私が居たんだ。

少女が襲われているって聞いてきたのに、これじゃあ話が違う。


村の人が着ないような服を着て、共通語を話す奴が居たら十中八九街の人間だ。

そのうえ武装までしていたら、そりゃもう探検者でしかない。

村への贖罪として警邏しているのに、少女とはいえ探検者を助ける義理は無いだろう。


だから名前も嘘をついたし、早く私から離れようとしていた。

それなのに私がプルプル震えて同行を願い出たので、ジョンの方が困惑したに違いない。


バットの件もそうだ、探検者ならダンジョンの外だしバット仕舞えよって思われていたんだ。

よくわからないまま仕方なく村まで案内してくれたというわけか。

良い奴じゃん。



「ジョンさんが来てくれたおかげで私は村に戻る事が出来たんです。立派な事ですよ。」

職業が盗賊だったせいで勘違いをしてしまったが、あの時に助かったのは本当だ。


盗賊なのはきっと変身アイテムの副次効果みたいなものだろう。

そもそも人のジョブが見える事の方がおかしいのだろうし、何なら本人も気づいてないのかもしれない。

だって今もジョブが盗賊になっている。


「近いうちに必ずやダンジョンを破壊してみせますので、どうか秘密にしていただきたい。」

「わかりました。私はダンジョン破壊が目的なわけでもありませんし、ジョンさんたちがやってくれるというなら邪魔は致しません。」

ダンジョンがなくなればこの村も平和になるだろうし、さっさと破壊してもらったほうがいいよね。


「今夜はお越しくださいまして、ありがとうございました。」

ジョンの話が終わったようだ。

コップに残っているミルクを飲み干して席を立つ。


「ダンジョン攻略頑張ってください、それではおやすみなさい。」

そう言って私はジェシカさんの宿に戻った。




「エド、みんなを呼んできてくれ。」

エドワードがパーティメンバーを集めて戻ってくる。


「皆はどう思う?」

クリストファーがそう言うと各々が意見を言い始めた。


「酔っ払いに絡まれた時は中々勝気なお嬢さんだと思いましたが、それくらいです。」

「あの家政魔法は中々のものでした、火力もさる事ながら水をあのように飛ばすのは興味深い。」

「怪しい所は無いように感じます。」

3人がそう言った。


「私も同意見です。診療所に赴いたりしていましたし、本当にただの流れの信徒なのではないかと。」

エドがそう付け加える。


「信徒!?でしたらかなり才能がありそうですね、私も負けていられませんね。」

と司祭が言う。


「流れの信徒…か。村の民のためにも、早くダンジョンを消滅させなければな。」




宿屋に戻ってきた私はエマちゃんに気付かれる事なく、ベッドに潜り込む事に成功した。

今更抱き枕にするのもアレなので仰向けに寝る。

天井を見ながら考える。


これ以上関わりたくなかったからあんな感じに誤魔化したけど、今朝話を聞いちゃったと素直に言っても良かったかもしれない。

どうせここのダンジョンが終わったら、帝都か王都か知らないが首都のお城に帰るんだろう。

今ちょっと面識があったところで、すぐに手の届かない人になるのだ。


誤魔化した事によって、逆に変な繋がりが出来てしまったような気がする。

いや、考え過ぎか。

もう終わった事だ、明日は忙しくなりそうだし早く寝ちゃおう。

そして私は目を閉じた。



翌日はとても有意義な1日となった。

まず、朝の目覚めが最高だ。

先に起きたエマちゃんが、私のことを譲って起こしてくれる。


だがそんなことで起きる私では無い、2度寝を決め込んだ。

するとどうだ、エマちゃんが馬乗りになって枕で叩いてくるのだ。

なんだこの可愛い生き物は。


枕がちょっと硬くて痛かったが、こんな起こし方する人本当にいるのか。

「リリィ起きて。」と連呼するのも忘れない。

あぁ…こんな妹が欲しかった。

お姉ちゃんと呼ばせたい。

起きた後に「リリィお姉ちゃんだよ。」と教えると、お姉ちゃんと呼んでくれるようになった。

最高だ…


朝食は硬いパンと塩スープだった。

スープと言ったが出汁も具も何も無い、塩味のお湯だ。

それでもパンを浸して食べる事によって、硬いパンも随分と食べやすくなった。



朝食を済ませると洗濯が開始される。

ジェシカさんやエマちゃんの服はもちろん、全ての部屋から布団を運びシーツも全部洗う。


その時に私が手からお湯を出したり、火種ピストルで温度調整をしたりしたら大層喜ばれた。

途中からは感覚を掴んで最初から適温のお湯を出せたのだが、火の玉が飛ぶのが面白いらしくエマちゃんにせがまれて何度もやってしまったのは仕方ないだろう。



その次はお掃除だ。

ジェシカさんに渡されたハタキのようなもので、パタパタやっていると私の手と繋がったハタキにも家政魔法が効くらしい。


布団や服をフワフワにするだけでなく、物を清潔にする効果もあったみたいで部屋中とても綺麗になった。

全ての部屋の水拭きを終えた頃には、お昼になっていたら。



少しの休憩をした後、ジェシカさんが診療所に行くと言うので着いて行く。

エマちゃんはお留守番だ。

出かける前にみんなの服もパタパタやって綺麗にする。



診療所に着くと昨日の話が噂になっていて、他の患者さん達にお祈りを頼まれた。

ゴードンさん程の重篤者は居らず、腰痛のおじいちゃんだったり足の悪いおばあちゃんだったのでほとんど回復一発で治せてしまった。

ちなみにそれらは〘関節痛〙っていう状態異常だ。


今考えればゴードンさんの〘衰弱〙ってホントに衰弱していただけで、私の回復魔法はあまり意味なかったんじゃないかと思う。

〔毒〕が無くなった時点で徐々に回復していただけで、ほとんど無駄うちだったんじゃないだろうか…

じゃないと〘衰弱〙にあんなに回復魔法を連発してやっと治ったのに〘関節痛〙が一発で治るのが納得いかなすぎる。


診療所とは言うものの、おじいちゃんやおばあちゃんたちの寄り合い場みたいなものらしい。

やはり村の診療所ってのはそういうものになるみたいだ。

家主の先生やゴードンさんにも挨拶をして、宿に戻った。



宿に戻ると、エマちゃんが1人で1階の掃除をしていたのか全身真っ黒になっていた。

今こそ昨日やれなかったお風呂作戦を実行するべきだ!


これだけシーツや布団を干していれば目隠しは完璧だろう。

ジェシカさんに了承を得てから、エマちゃんに洗濯桶の中に入ってもらう。


服を全部脱いで貰い、私が上からがシャワーにしたお湯をかける。

ジェシカさんも手伝いエマちゃんの丸洗いだ。


私が髪を洗い、ジェシカさんが体を洗う。

エマちゃんがみるみる綺麗になって私もジェシカさんも驚いた。

家政魔法は人にも効くらしい。


エマちゃんのシャワーが終わると、ジェシカさんが自分もやりたいと言い始めた。

断る理由もないので、シャワーをかける。

ジェシカさんは自分で身体を洗っていたが、背中だけは届かないので髪の後で私がやってあげた。

ジェシカさんも満足してくれたようだ。


着替えを済ませた後にジェシカさんが、リリィはどうするんだいと言ってきた。

ちょっと困ってしまう。

身体を洗いたいのは山々だが、私は着替えを持っていない。


するとジェシカさんが母屋から何かを持ってきた。

その手には着替えを持っている。

服は自分のだと言っていたが、下着は作ってくれたらしい。

しかも上下2セットだ。


ここ数日着た切り雀なのがバレていたんだろう。

ありがたくいただいて、シャワーも手伝ってもらった。

人に背中を擦ってもらうのは中々気持ちがいいものだ。



みんながさっぱりした後にまた掃除をするのもどうかとなり、1階の掃除は中止となった。

私が布団をバットで叩き、ジェシカさんが布団を運ぶ。

その後をシーツを持ったエマちゃんが続く。


こんな感じで全ての部屋のお掃除が完了する。

残りの洗濯物も済ませポンポンと手で乾かす。

全てが終わる頃にはいい時間になっていた。


ご飯を作り、夕食を食べ、お喋りをして、部屋に戻る。

今日もエマちゃんと一緒だ。

エマちゃんに「お姉ちゃん大好き」と言わせて抱きしめる。

今日のエマちゃんはツルスベだ、グリグリ頬擦りする。

そのままエマちゃんを抱き枕にして眠りについた。



今日は充実した1日だったなぁ…


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