QED?
「今夜はご足労頂いてありがとうございます。」
探検者じゃなくてジョンが話すのか。
「いえ、こちらこそ時間も場所も指定されなかったので来るのが遅くなってしまってすみません。」
ワザと言ってやる、後でジョンに怒られてしまえ。
「そ、そうでしたか…とりあえず、何かお飲みになりますか?」
ジョンが探検者を見やるが本人はツンとしている。
「それではミルクをおねがいします。」
子供が酒場で注文すると言ったらコレでしょ!
成人が何歳からの世界かわからないけど、成人していたってお酒なんか頼まない。
ジョンがミルクを頼んでくれた。
このままジョンが話を続けるのだろうか、やんごとなき人のはずなのに彼は低姿勢だ。
初めて会った時もそうだったが、弱気というかなんというか…
「この方は勝手に私の名前を盗み見たようですが、改めて自己紹介させてもらいますね。旅の信徒でリリィと申します、お見知りおきください。」
ちっちゃく頭を下げながらそう伝える、勝手に見られた事も強調して言ってやった。
「エドからこれから来る女性がリリィと言う方だとは聞いていましたが、盗み見たとはどういう…」
またジョンが困惑した顔で探検者を見ている、ただの家来のくせに強気だなこいつ。
「まぁ、それは良いのですけど。私を呼んだのはそちらの方なのでは?」
探検者をにらみながら言ってみた。
「私の名前はエドワードです。詳しい話は彼が話すので、私の事は気にしないでください。」
そちらの方呼びがご不満なのか名乗ってきた。
最初から知ってるよ。
ジョンが頬をポリポリとかいている。
見た事のある仕草だ、これは照れとかじゃなくてただの癖かもしれない。
コホンとジョンが咳ばらいをしてから話始める。
「エドが昼間にリリィさんという方に助けていただいたらしいので、私もご挨拶したいと思い同行させてもらったのです。まさか貴女がリリィさんだとは思いもしませんでした。」
それにジョンが私を招待したことになっているし、いったいどんな説明を聞いたんだ?
「ご挨拶ですか…」
「ええ、話しておかなければいけない事がありますので。」
アレは明らかに脅しだった。
話があるから夜に来いと…
確かにあの場では助かったかもしれないけど、私の事を疑っているんだ。
何故魔石に気付いたのか、何故助けたのか。お前は何者だ?と。
そういえばさっきの騎士は何処へ行った?
ジョンと一緒に飲んでいたのではないのだろうか。
自然な感じに酒場全体を見まわしてみる。
騎士は司祭と一緒に違うテーブルに座っていた。
魔導士も一人で別のテーブルでお酒を飲んでいる。
包囲されているような位置取りだ、私の事を監視しているのかもしれない。
「何故ジョンさんが説明をするのですか?」
「ああ、今は訳あって彼と一緒に探検活動を行っています。昨日は警邏と言いましたが、別に自警団とかではなくて私が勝手にやっているだけなんです。」
そう言って、はにかみスマイルをかましてくる。
ジョンはジョンでイケメンだな…
「自主的に警邏するなんて、ジョンさんは立派な方なんですね。」
「ははは、ただの自己満足ですよ。」
このままではいつまで世間話が続くかわからない。
こちらから言っちゃおうかな。
「遠回りはやめましょう。ジョンさん達は私の事を疑っているんですよね?」
少し空気がピリッとする。
「まぁ、そうですね…」
ジョンが真面目な顔になり話始める。
「エドからはアイテムボックスから出した魔玉が違うと指摘を受けたと聞いています。何故魔玉を判別出来たかも気になりますが、その事はこの際いいでしょう。ですが、何故違う魔玉を売らないように教えてくれたのですか?」
魔玉を鑑定出来た事はスルーしてくれるらしい。
何故潜っている階層が違う事を知っているんだ?と聞いているんだ。
ダンジョンの前で話を聞いたと答えるのは簡単だが、そうなるとジョンが何者か知っていることになってしまう。
でもそんな事を言う必要はない、だってエドワードが間違っただけなんだから。
「特に深い意味はありません、リザードマンの魔玉じゃなかったからです。エドさんが魔玉を売る時にリザードマンの魔玉と勘違いして他の魔玉を取り出したので、もしかしたら売らずにとっておきたい魔玉かもしれないと思って教えてあげました。」
言い訳としてはちょっと苦しいかな…
ほっといてもトーマスさんが鑑定して違う魔玉だと気づけたはずだ。
トーマスさんが鑑定する前に止めた理由にはならない。
それを指摘されたら流石に無理か…
「そうですか…では間違えて出した魔玉が何の魔玉かはご存じですか?」
突っ込まれなかった、これは知らないって言っとけばよさそうだ。
「それは分かりません、ただリザードマンの魔玉ではなかったとしか…」
「なるほど…お答えいただいてありがとうございます。」
なんとかなったのかな?
「いえ、こうやって私を問いただすほどの魔玉だったのですか?拝見させていただいた時確かに綺麗な色でしたし、よっぽど大事な魔玉だったみたいですね。」
「ええ、あれを今売るわけにはいかなかったので本当に助かりました。こんな形でお呼び立てしてしまい申し訳ありませんでした。」
エドは納得していないようだが、ジョンは満足したみたいだ。
「私はてっきり何でリザードマンの魔玉がわかったのか聞かれるのかと思っていたのですが、よろしければそちらもお教えしましょうか?」
エドが納得していないようなのでダメ押しをしておこう。
「何か特別なスキルをお持ちなのでしたら、むやみに人には教えない方がいいと思いますが…」
「え!?そんなスキルがあるんですか?」
逆に聞き返してしまった。
ジョブ以外でもスキルが手に入るのならそれって結構すごい事なのでは?
「あ、えっと…スキルでないのでしたらぜひお聞きしたいですね。」
エドが変な顔をしている。あー、ジョンはきっと何か変なスキル持ってるんだ。
「では、この魔玉を見てください。」
こんなこともあろうかとゴブリンの魔玉をポーチに入れて持って来ていたのだ。
「これは私が1階層で拾ったゴブリンの魔玉です。」
「ゴブリンの魔玉ですか。」
手の平に乗せて2人に見せる。
「何か気づきませんか?」
「どこかおかしいですか?」
この魔玉というビー玉みたいな丸い石は、実は色が付いているのだ。
私もダンジョンで拾ったときはこれしか見た事が無かったから気にしなかったのだが、他の魔玉を見て魔玉は種類によって色が違うという事に気付いた。
2人は何故わからないのだろう?
「あれ?灰色に見えません?」
「そういわれれば灰色ですが、それが何か?」
「え?灰色ですか?」
ジョンは灰色に見えたがそれがどうしたって感じか、エドは驚いている。
「はい、ジョンさんは分かるみたいで安心しました。」
「灰色だと何なのです?」
「ただの黒い石に見えます。」
やっぱりエドは分からないみたいだ。
「エド何を言ってるんだい、どう見ても灰色じゃないか。」
「私にはわからないようです。」
何でエドが色を判別出来ないかはわからないが、ジョンがわかってよかった。
「色がわかれば、ある程度何のモンスターの魔玉か判別出来ると思いませんか?」
「ゴブリンは灰色のモンスターだったのか。」
「他にも灰色のモンスターは居ますが、リリィさんがゴブリンの魔玉とおっしゃっているのでそういう事なのでしょう。」
ジョンはダンジョンに潜っているのに、1階に居るゴブリンを見た事が無いのだろうか?
「私はリザードマンと言うモンスターを見た事はありませんが、売却していた皮が緑色だったので緑色の魔玉なんじゃないかと思っていたんです。そしたら違う色の魔玉を取り出していたので、近くで見せていただきました。」
「なるほど、そういう事なのですね。」
「確かに皮を先に売却しましたね、よく見ていらっしゃる。」
今度はエドにも好感触だ。
「エド、魔玉を出してくれ。」
ジョンがそう言うと、エドがアイテムボックスからポイズンビーの魔玉を取り出しジョンに渡す。
「やはり私には黒色に見えます。」
「確かに色が違うな。」
ジョンが魔玉を見てそんな事を言った。
昼間も見たやつだ、これは黒と紫色のマーブル模様のビー玉だ。
ポイズンビーだからきっと蜂のモンスターなのだろう。
大きな鉢が羽音をブンブンさせながら襲ってきたらすごく怖そうだ。
「これではっきりした、我々の勘違いのようだ。」
「はい、リリィさんは白のようです。」
やっと納得してくれたみたいだ、白とか言い方がかなり気に入らないがまぁいいだろう。
これで帰れる。