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赤と青

3枚の銅貨をポーチにしまうときに、パメラさんをチラッと見ると流石にシュンとしていた。

あの時ちゃんと受け取っておけば良かったな…


そんな時お店の扉が開いた。

扉の方を見るとジョンさんのパーティに居た探検者だ。

丸椅子を持って壁際による。



「これを頼む。」

探検者がアイテムボックスから何かを取り出しカウンターに乗せる。


「それ返して欲しいっす。」

パメラさんに言われて木の板を返す。

「『アイデンティファイ』こちらはトカゲの皮で御座いますので、おひとつ50デルでの御買取りとなります。」

カリカリとパメラさんが板に何かを書いている。


「では、これを全て。」

そう言うと探検者の箱がカウンターの上でひっくり返り、ドサドサとトカゲの皮がたくさん降ってきた。

あんなことも出来るんだ、今度練習しよう。


「パメラ。」「はい。」

トーマスさんに言われてパメラさんがトカゲの皮を丁寧に重ねて並べ始めた。

5枚ずつ重ねたものが4個と残りは2枚だ。


「22枚です。」

「トカゲの皮が22枚で1100デルでの御買取りでよろしいでしょうか?」

「結構。」

パメラさんは何やら指で数えている。

これは酷い…


「パメラ。」「は、はい!」

パメラさんが硬貨をトーマスさんに渡し、トーマスさんがそれをカウンターに並べる。


「1100デルで御座います。」

「確かに。」

パメラさんが箱から出す時も、探検者が箱に入れる時も種類ごとに違う箱だった。

全種類だと5枠も使うのか、お金だけでもかさばっちゃうんだなぁ。



「あと、これも頼もう。」

そう言うと今度はなんだか長い物を取り出しカウンターに置く。


「こ、これは!リザードマンの槍で御座います。御めでとう御座います。」

何がめでたいんだろ?


「23層を越えただけだ、大した事では無い。」

今朝は27って言ってたのに、何で23なの?


「リザードマンの槍は500デルでの御買取りとなります。」

「はい。」

メモを書き終えたパメラさんが返事をして、さっきのようにパメラさんからトーマスさんを経由して探検者にお金が渡る。



「すまない、今日はこれもあったな。」

そう言って今度はビー玉を取り出した。

魔玉かな?


【ポイズンビーの魔玉】


てっきりリザードマンの魔玉かと思ったのに違うらしい。

でもハチを倒してたならきっと蜂蜜とか毒針とかが手に入るんじゃないかな?

何でそれは売らないんだろ?


「そちらはリザードマンの魔玉で御座いますか?」

「あぁ、たまたま手に入った。」

階層も嘘ついてたし、それって今日ほんとに拾ったやつでは?


そうか、探検者は見分けがつかないから出す箱間違えたんだ!

教えてあげたほうがいいのかな…


「あ、あの…」

「何かな?」

3人ともこっちを見る。


「何だか素敵な石のようなので近くで、拝見させていただけませんか?」

「まぁ構わんが…」

了承も得たので近づいて探検者さんの持つ魔玉を見ながら考える。


これからどうしよう。

そもそも嘘がバレても私は困らないのに、何で声かけちゃったの…やめとけば良かった。

こうなったら…


「ありがとう御座いました。」

そう言ったあと2人からは見えない方の耳に顔を寄せ耳打ちをする。


「多分この魔玉じゃないと思いますよ。」

探検者さんが顔色を変えた。

「あ、あぁ…満足されたようで何より。」

やっぱり心当たりがあるらしい。


やることもやったので丸椅子に戻る。

パメラさんを見ると顔に手を当てて真っ赤になっていた。

耳まで真っ赤だ、生娘かっ!

そう見えるようなやったとはいえ、そんな反応されると流石に恥ずかしい。

いや、パメラさんは本当に生娘なのかもしれない…



その後の様子を見ていると、探検者さんが魔玉をカウンターに乗せようとして床に落としてしまう。

という演技をした。


そしてカウンターの下で魔玉をすり替える。

私以外の人は発言しないとスキルを発動出来ないみたいだから心配だったけど、小声で上手くやったらしい。

やるじゃん。


探検者さんがコチラを見た。

ニコニコ笑顔を作り答える。

ちゃんとリザードマンの魔玉になっている。


「すまんな、頼む。」

そう言って魔玉をカウンターに乗せた。


「はい、確かにリザードマンの魔玉で御座います。」

パメラさんが奥に走って行ってすぐに戻って来る。

帰りには紙みたいなのとふだみたいなのを持っていた。


「少々お待ち下さいませ。」

そしてその紙にトーマスさんが何やら書き始める。


気になったので近づいて横から覗く。

商会名が書いていて、次が店舗名かな?

その次に注意書きみたいなのがあった。

下の方に商品名と、そのまた下に名前を書く欄だ。

預かり証みたいなやつかもしれない。

どうして買取りしないんだろ?



「お待たせ致しました。内容に問題がないようでしたら、コチラにサインをお願いいたします。」

トーマスさんが預かり証をくるりと回し探検者さんに向ける。


いつの間にかパメラさんがペンとインク瓶を用意していたようで、それを紙の横に添えている。

やっぱりお客さん用なのか、ペンを収めている台がちょっとオシャレだ。

なかなかサインしないので探検者さんを見ると何故かコチラを見ていた。


「貴女にサインを頼みたいのだが、受けていただけないだろうか。」

まさかとは思うけど探検者さんは文字が書けないのかな?

まぁ代筆くらい構わないだろう。


「えぇ、構いませんよ。」

そう言った瞬間2人がギョッとした顔をする。

もちろんトーマスさんとパメラさんの事だ。

2人は何を驚いてるんだろ?


私はこの人がジョンの一味である事を知ってるけど、2人は知らないはずだ。

この人の素性を知らない体なら構わないって言っても構わないでしょ?

でも、お互いに構わん構わん言ってるのはやっぱりちょっと変かもしれない。

マウント合戦かな?


「それで、お名前は何とおっしゃるのですか?」

私が探検者さんに名前を聞くと、今度は2人がポカンとしている。

なんなのこの2人。


すると私がやったように探検者さんが耳打ちして来た。

「貴女のお名前で大丈夫ですよ。さっきのお礼です。」

あ、私にくれるって事だったのか。


またパメラさんが顔を赤くしている。

違う、そういうのじゃない!

私の中の乙女が反応してしまい顔が熱くなる。

恥ずかしい…


「そ、それじゃあ書かせてもらいますね。」

探検者さんが微笑む。

よく見ると爽やかイケメンだ。

違う今は関係ない。

静まれ私の中の乙女よ、静まりたまえ…



ペンを持った時に後悔した。

万年筆が使えたらかっこいいと思い練習したことがあるから大丈夫だろうと考えていたけど、これインク着けるやつじゃん。


ドバッとやったら絶対ダメだ、サインするだけだからちょっとでいいのかな?

瓶にペンを入れて浸すと、なんかすごい吸ってる気がする…

ちょっとしかやってないのにペンから垂れそうだ。

とりあえずビンの口のところで調整してみたけど大丈夫かな?


意を決して書き出す、書き始めたらなんて事はなかった。

サラサラと筆記体で名前を書いて、最後にシャッとやって完成だ。


今の名前を書いたのは初めてだけど中々かっこよく書けた。

「どうぞ。」

紙をトーマスさんの方に押し出した。



何故か3人とも変な顔をしている。

上手に書けたと思ったのに、下手だったのかな?


「えっと、何か?」

探検者さんは何やら考えているようだ。

トーマスさんは困った顔をしている。

そしてパメラさんは急に笑い出した。


「あははは、私より下手っすね!」

さっきまで真面目ぶってたくせに、私には遠慮ないな…

あ、トーマスさんに殴られた。


「すみません、書き直しますね!」

そう言い、紙をクシャクシャにしてポーチに捩じ込む。


「あ、あぁ…そうだな。パメラ預かり書取って来い。」

パメラさんがまた奥へと走っていく。


「まさか、あの文字は…」

探検者さんが何か呟いているが聞こえないふりをする。


きっと日本語を書いても置換されるのに、自力で英語を書いちゃったからみんなには読めなかったんじゃないかと思う。

今度はカタカナで書いてみよう。


新しく渡された紙に改めて名前を書く。

さっきは勢いでフルネーム書いちゃったけど、今度はちゃんと名前だけにする。

また貴族だなんだと騒がれるのも面倒だ。

「どうですか?」

紙を戻すと今度は反応が違った。


探検者さんは感心した様子。

トーマスさんは安心したって顔だ。

パメラさんは拗ねていた。


「こんなのってないっす…」

きっと綺麗な文字に見えるのだろう、ただのカタカナなのに。


「パメラ。」「はい。」

トーマスさんがパメラさんからふだみたいなのを受け取り魔玉と一緒に紙の上に置く。

上の方に穴の開いたあれは金属の板かな?

さらに自分のアイテムボックスから何かキラキラした小瓶を取り出した。


その小瓶を紙の上にある板にふりかける。

ふりかけられた紙と板がキラキラと光って…

〈ポンっ〉「んぎゃっ!」


真剣に見ていたせいで変な声が出ちゃった。

チラッと見るとパメラさんがクスクスと笑っている。

くそぉ…


更にトーマスさんはアイテムボックスからバインダーみたいなのを取り出した。

そのままバインダーに預かり証を挟んでアイテムボックスに仕舞う。

あれ?ただの紙なのにアイテムボックスに入るの…?


そんな事を考えていたら、今度は宝石箱みたいな物まで取り出している。

宝石箱に魔玉を入れてそのままアイテムボックスに仕舞ってしまった。

え?1個のアイテムで1枠使うんじゃないの??


「よし完了だ、リザードマンの魔玉は確かに預かったぜ。」

最後にキラキラの小瓶を仕舞いながらトーマスさんがそう言った。

どゆこと!?あのバインダーも宝石箱も味〇素みたいな小瓶もすごいんだけど!?


「魔玉ってのは俺らの管轄じゃない、でも探検者からしたら探検箱を1枠使っちまうから邪魔だろ?そこで買取れない代わりに預かるんだ。金がほしくなった時にこれを持って迷宮協会を訪ねれば、その時のレートで現金化が出来る。タビーレムみたいな大きなダンジョンがある街には迷宮協会の施設があるからそこで交換してくれ。」

迷宮協会?ギルドってのがそういう組織だと思ってたけどゲームとは違うのかな?


「ちなみに預かっておける期間は10年まで、それを超えたらこっちの紙を燃やすから引き換えできなくなる。今すぐ現金化したい場合はどの魔玉でも一律100デル。まぁそんなことがあの紙に書いてあったわけだ。」

そう言いながらさっきの金属板を手渡してくれる。

「ありがとうございます。」


【リザードマンの魔玉引換券】


おぉー、ただの金属の板だったのにアイテムになってる!

さっきの〇の素の効果かな?すごい!普通の物をアイテムに出来るなんて!!

ん?でもこれって…


「そのタグが引換券だ、そのタグを持って行ってサインすれば現金化出来る。タグだけ持って行ってもサインしないと金がもらえなくないから、タグだけあげたり貰ったりしても金に出来ないからな。」

ほぉー、だから私にサインさせたのか。

「はい、わかりました。でもこれだとアイテムが違うアイテムになっただけで、結局1枠使っちゃうんじゃないんですか?」


「あー、そうか。探検者ってのは大体持ってるんだけどな、嬢ちゃんは探検者って感じじゃないわな…パメラ。」

「はいっす。」

そう言うとパメラさんがキーホルダーみたいな物を取り出した。


【ホルダー】


いや、まぁそうでしょうね…革っぽいバンドの付いたカラビナだ。


「こいつを使うとタグをまとめておけるんだ。あぁ、ちょうどそちらの方が持ってるようにな。」

言われて振り向くと、探検者がチャラチャラと音のするホルダーを持っていた。

ホルダーには金属板が2枚ぶら下がっている。

そして私が見ている前でそのままアイテムボックスに仕舞って見せた。

「なるほどぉ…」


「一応これは売り物でな、100デルだが嬢ちゃん買うかい?」

さっき初めてお金を手に入れたばかりなのに100デルなんて持ってるわけないだろ!

それに今はタグも1個しかないし別に必要ない。

「いえ、今は持ち合わせが無いので…」


「サインさせてしまったのは私なので、ホルダーもプレゼントしますよ。」

そう言いながら探検者さんがカウンターに銀貨を一枚置く。

「え、あの…」

断ろうと思っていると手に持っていたタグをトーマスさんに奪われてしまった。


「こうすると開くから穴に通すんだ。」

カシャンカシャンとカラビナの部分を開閉させてみながらトーマスさんが説明してくれる。

「ほらよっ」

タグに元々空いていた穴にカラビナを付けて手渡された。

「あ、ありがとうございます。」


トーマスさんに返事をした後、今度は探検者さんに向き直る。

「ありがとうございます、こんな物まで頂いてしまって…」

ホルダーの付いたタグを胸元辺りで両手で持って見せる。


探検者さんはニコリと微笑んでから私の手を両手で握り耳元に顔を寄せこう囁いた。

「先ほどは助かりました。貴女とは改めてお話をする必要があると思うので、今夜またお会いしてくださいますよね。リリィさん?」

そう言うと探検者さんは私から離れる。


「では、失礼。」

手を振りながら探検者さんが扉から外へ出る。

探検者が店から出た後、私は膝から崩れ落ちペタンと座り込んだ。

おそらくパメラさんはまた顔を真っ赤にしていることだろう、しかし私の顔はきっと真っ青に違いない。


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