表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/42

チュートリアル無いの!?

「んぅ~…」


優しい日の光と小鳥のさえずりの中で私は目を覚ます。


〈ポヨン…ポヨン…〉


薄目を開けて見ると水色の小さなスライムっぽい何かが、目の前でポヨポヨと跳ねていた。


そのスライムをおもむろに掴み…


「んっ!」


投げた!


小さなスライムは放物線を描き近くの木に命中する。


「ピッ!?」

〈ポンっ!〉


木に当たったスライムはおかしな断末魔を残し煙となって消える。




「ふぁ~」


大きなあくびをしながら伸びをする。


目を擦りながら考える。


自分は何故こんな所で寝ていたんだろう?


思い出せない。


キョロキョロと周りを見渡すと木がたくさん生えている。


一瞬森の中かとも思ったが、すぐそばに道があるようだ。


道の脇にあるちょっとした林といったところか。


その道を歩いていた2人組の女性がこっちを見てクスクスと笑っている。


綺麗な人たちだなぁ…


いや、違うそうじゃ無い!


こんな所で昼寝をした挙句、大あくびをしていたら笑われるのも仕方ない。


少し恥ずかしい気持ちになる、心なし顔が熱くなったようだ。


雑念を振り払うべくブンブンと首を振り2人組の女性をもう一度見る。


1人はお腹を抱えて笑い出している、イタズラが成功した子供のような良い笑顔だ。


もう1人は心配そうな顔でこちらを見ている。


そして、何だあの格好は…


1人は肩パッドを着けていて。


さらには革製の胸当てだろうか、胸部装甲のつもりなのか2人ともそんなものを着けている。


足元までは見えないが、おそらく革のブーツみたいな物を履いているんだろう…多分。


これではまるで…


〈ガサガサ…〉


そんなことを考えていると、近くの茂みから…


枝が伸びて来て…


そのまま歩いてきた。


「………」


何を言ってるかわからないと思うが枝だ、まごう事なき木の枝である。


上は枝が3本に分かれていて、下は2本に分かれている。


頭の無い棒人間ようなフォルムの木の枝だ。


あの枝は伸びたのでは無く、茂みの向こう側から歩いて来たという事だろうか?


意味がわからない…


意味が分からなさすぎて暫くぼーっとしてしまった。


その間にも1m有るか無いかくらいのサイズの枝が、ちょこちょことした足取りでこっちに近づいている気がする。


いや、確実に近づいてきている!


これは何だか不味そうだ…


急いで立ち上がり、もたれていた木の後ろに隠れて様子を伺う。


枝はそのまま一定のペースで木の方へ向かってきた。


おそらくあの枝はこの木に用事があるのだろう…


木に用事って何っ!


そもそも枝が歩いてるわけで、それが向かって来ているわけで…ってどんな状況!?


しばらく眺めていると歩く枝の進路は木では無くこっちに向いている事がわかった。


あー、完全に自分をロックオンしているらしい。


ゆっくりと後退り木の裏側に回るが、歩く枝も木を回り込みついてくる。


そのまま半周回ろうかと言う所で、足に何かがぶつかった。


それは木の棒だった、そしてここはさっきまで自分が木に凭れていた場所だ。


おそらくこれが自分の武器なのだろう。


いや木の棒って…


迷っている暇はない、ちょこちょこと遅い足取りながらも歩く枝は確実に近づいている。


木の棒を拾い構える。


持ってみると意外としっくりくる物で、持ち手の部分はやや細くなっており、グリップエンドも太くなっていて使いやすそうだ。


いや、これバットじゃん!


バットほどスタイリッシュな見た目はしていないが、ほぼほぼバットである。


無骨バットと名付けよう。


無骨バットを両手でしっかり握り締めた。


別に甲子園を目指していた訳では無いけれど、バッティングセンターで振り回した事くらいある。大丈夫なはず。


引き付けて引き付けて…今だっ!


初心者の私でもわかるほどの会心のスイングだ、これが当たったらあんな木の枝如き木っ端微塵に…


〈チッ〉

〈ポンっ!〉


ほとんど感触がなかった、ちゃんと当たったのかすら疑わしい。


嘘でしょ!?


こっちは渾身の振りを決めている、そんな軽い感触では勢いを殺せない。


てかポンって何?


勢いそのままにフラフラと1回転して、結局止まれず転んでしまう。


転んだ状態のまま、歩く枝のいた場所を見ると、何やら煙の塊が漂っていた。


そしてその煙もすぐに晴れ、歩く枝の姿が無くなっている。


居ない!何で!?


歩く枝を探すべくキョロキョロと周りを見渡す。


〈パチパチパチパチ〉


遠くから手を叩いている音がする。


さっきの心配顔のお姉さんが拍手をしていたようだ、笑顔のお姉さんはサムズアップしている。


どうやら一部始終を見られていたらしい、さっきよりも明確に顔が熱くなるのを感じる。


ペコペコと頭を下げると、2人は軽く手を振りながら去って行った。


「ふぅ~」


大きく息を吐き呼吸を整える。


動悸が激しい。


歩く枝との戦闘のせいだろうか、それとも見られていた恥ずかしさのせいだろうか。


あの枝が危険なものかどうかわからなかったが、2人の反応を見るとおそらく殴って正解だったのだろう。


そして、倒すと煙になって消えると。


あのポンっていう音は、モンスター?が倒されて煙になる時の音って事か。


すごくゲームっぽい…


あの女性たちの服装や、枝が歩いていたり、それが死体も残さず消えてしまう事など。


ゲームだとしたら辻褄が合う。


チュートリアルも無く、いきなりこんな所からスタートした事には驚いたが、これからチュートリアルが始まるのかもしれない。


今はとりあえずもう少し現状を把握しておこう。


ゲームならメニュー画面でステータスやスキル、アイテムなんかを見る事が出来るはずだ。


そんな事を考えながら念じてみる。


「………」


違ったらしい…


ステータスの確認に専用の場所や道具が必要なタイプか?


意外と古風なタイプのゲームなのかもしれない。


見られないなら仕方ない、持ち物の確認でもしよう。


カバンのような物を持っていただろうか?


腰回りを触ってみるとポーチのような物が、背中に手を回すとリュックのような物を背負っている。


リュックを下ろそうとした時に気付いたが、転んだままの姿勢で座っていたようだ。


足を左右に開き折りたたみペタンとお尻を付けたスタイル、正座を崩したような所謂いわゆる女の子座りである。


自分の足は見えない、素材不明の布で隠れていた。


白のスカートか、まぁ無難な感じだ。


布をちょこっと捲ってみると、やはり革の靴だった。


しかし登山靴の様な革のブーツではなく、リボンのあしらわれたローファーの様な革靴だ。


森の中を散策するには合っていないような気がする。


上着は赤のポンチョだ。


フードも付いていた、赤ずきんちゃんみたい。


あれ、フードに何か変なものが?


首を捻り確認すると、ネコミミが付いていた。


んー…まぁ、ゲームだしそんなもんか。


実際の自分がこんなポンチョを着ていたら嘲笑ちょうしょうや冷笑されたかもしれないが、ゲームの中でなら良いだろう。


一応頭にも手を当ててみたが耳は付いていないようで安心した。


髪の色はなんと銀色だ!


染めたのでは無く、地毛っぽい。


ゴワゴワとしていないどころか、むしろサラサラである。


流石ゲーム!


耳、顔、胸と順に触れてみる。


手に付けていたミトンに可愛らしいポンポンが見えたが、とりあえずスルーする。


耳はまぁ普通だろう多分、ミトンのせいで質感はわからないが普通の形だ。


もはや顔の一部と化していたはずのメガネはかけていなかった、耳に触れた時に気づいていたけどね。


裸眼でこの視力、素晴らしい。


そして胸だが、大き過ぎず小さ過ぎない程よいサイズだ。


これ盛ってますわ…


私はもっと慎ましやかなお胸様であったはずだ。


毎回新しくゲームを始める時は自キャラの外見にこだわって、数時間かけて制作していた事を思い出す。


おそらくかなりの美女に仕上がっているはずだ。


キャラクリしたであろう過去の自分よグッジョブ!!


しかし、その時の記憶がないのは何故だ…?


そもそもこんなリアルなゲームなら、自分の体をトレースするのでは無いだろうか。


体の大きさや重さが変わっても不具合は無いのだろうか?


そもそも本当にゲームなのか…


少し不安になりつつも、持ち物の確認を再開する。


降ろしたリュックの蓋には耳が付いていて、猫の顔っぽい絵も描いていた。


寝ていた時に潰してしまったのか、多少不細工になってしまっている。


軽くポンポンと叩いてから伸ばしてやると、かなりファンシーな猫のリュックだ。


「可愛過ぎかっ!」


!?


〈ゴホッゴホッ〉


思わず咽せてしまった。


声高っ!こんな声だったの!?


そういえば目を覚ましてからちゃんと言葉を発したのは初めてだった、まさかの少女だったのね。


「あ、あぁ〜」

「もしもしカメよ~カメさんよ~♪」

「こぎつねコンコンやまのなか~♪」


か、可愛すぎる…


猫のリュック

リボンの付いた靴

ポンポンの付いたミトン

ネコミミの付いたポンチョ


なるほど、少女のコスチュームという事なら納得である。


これはまさにプロの犯行…


私は何て恐ろしい子を生み出してしまったんだ…




それじゃ中身の確認しますか。


猫リュックはとても軽く、中に何かが入っている感じがしない。


一応中を覗いてみるが、やはり何も入ってないようだ。


ただのファッションらしい。


それじゃあ次はポーチか。


これも革製で結構しっかりとしいる。


流石にチャックでは無く、蓋をボタンで止めるタイプだ。


ボタンをと外し中を見る。


空っぽだった。


このポーチもファッションなのか…


意味も分からずここで寝ていて、持ち物は無骨バットのみ。


「え、これからどうしたら良いの…」


つい、そんな言葉を漏らしてしまった。


ここまで目を通してくださいまして、ありがとうございます。


以前からなろうに興味はあったのですが、ついに登録して投稿までしてしまいました。


この作品に出会ったのも何かのご縁という事で、引き続きご愛読くだされば幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ