プロローグ
完結したので順次アップします。→3月中目途
R15は念のため。。
物語の始まりは、いつも突然だ。
時には月の輝く夜に、あるいは白昼堂々と。
その場所も時間も様々に、ある者にとっては終わりであることが、またある者にとっての始まりだったりする。
物語の始まりと終わりはいつだって突然で、そして――――時には無慈悲である。
◆
柔らかい肌に刃が突き立てられると、皮膚が裂けて血が流れ出す。
逃げ惑う影は、暗い室内から月明かりの下に出ると、部屋の隅に膝を折った。
……痛い、苦しい。
逃げ場を失い、恐怖に揺れる視界は、自らの荒い息から発する熱気で曇る。
ふと、背後から感じる人の気配におそるおそる振り返った先には、刀を持ったまま嗤う男の姿があった。
床には血痕が点々と続いており、座り込んだ場所には血溜まりが出来ている。
同時に、指先から白い輝きが消えていく。
……駄目だ。まだ、まだ自分は、使命を果たしていない。
男の背後に駆け寄った黒い獣が鳴くと、鳴き声が鼓膜の奥で響き、淡い光が空気の震えを伴って身体を包みこんだ。
男が速足で迫った先に、振り下ろした刀は空を斬る。
……ああ、まだ大丈夫。
……もう少しだけ、時間はある。
……だから探しに行こう。
……代わりに役目を果たしてくれる者を。
……祈りを託せる、その相手を。
黒い獣の声が止み、光がその場から消え去った時、白い獣の姿もまた、その場から消え去った。