役目を終えたい令嬢は食いしん坊を従える
遅刻しましたが、短編10ノック企画の1本目!
「キャーーーーッ!!!」
煌びやかな広間で卒業パーティーが行われているさなか、この国の第一王子がありえないことを宣言した次の瞬間――ありえない光景に悲鳴が幾重にも響き渡った。
「パッ君!変なもの食べちゃダメ!ペッしなさい!」
誰よりも早く目の前で起きた光景を認識し、我に返った私は慌てて事態の収拾にかかる。
広間の上座にあたる壇上で、殿下とその側近たちが我がもの顔で盛り上がっているパーティーに水を差し、殿下と私の婚約破棄を告げた。
するとどういうことが、先ほどまで王宮の料理人が腕によりをかけたスイーツを、こっそりもりもり食べていた存在が、急に巨大化して殿下を丸呑みしてしまったのだ。
あれほど、人間は食べちゃダメだと言い聞かせてきたのに、なぜ今になってと頭を抱えたくなる。
つぶらな瞳で私を見つめているソレは、私がもう一度ペッしなさいと強く言えば、渋々、本当に渋々といった様子で丸呑みしたものを吐き出した。
すると、するすると体が小さくなり、すーっと滑るように私のもとへ戻ってくる。
「約束を破ったので、今日のご飯はなし!」
食事抜きの罰に衝撃を受けたのか、つぶらな瞳はそのままで口を大きく広げて固まるパッ君。
その口の中は空虚で、食べたものがどこに行くのか、いまだ謎である。
そんなパッ君の謎空間から生還した殿下は、意識を失ってはいるものの生きているようだ。消化されなくてよかった。
「アリステル嬢!殿下に危害を与えるとは、甚だ許しがたい!」
殿下の側近で護衛も兼ねる脳筋が剣をこちらに向けて叫ぶ。
それによって自我を取り戻した教師たちが動き始めたのだけれど、殿下の周りにいる人たちは気づいていない。
「私もこのようなことが起きるとは、微塵も、これっぽっちも想像していませんでした」
殿下がやらかすだろうとは想定していたが、パッ君までもがやらかすとは本当に思ってもみなかった。
「そのような邪悪なものを従え、殿下を弑そうとしたではないか!」
「邪悪??」
神殿の……将来の神官長と目されている……名前が出てこない誰かさんが指差すのは私ではなくパッ君だった。
ちょっと何を言っているのか理解できない。
つぶらな瞳にパクパクと口を動かす丸っこいパッ君のどこが邪悪だと?
めちゃくちゃ食いしん坊ではあるが、私のあとをスイスイとついて回る可愛い子ですが?
可愛い可愛いうちの子に、喧嘩売ってます??
「神殿の寵児である彼が言うのなら、間違いないでしょう。殿下の寵愛がリコリスにあることを不満に思い、彼女を罵り、暴力を振るい。あまつさえ、婚約を破棄されたことを恨んでの暴挙。君主に仇なす者として、その者を捕らえなさい!」
現宰相のご子息である腐れ縁……もとい、幼馴染みが変なことをわめいている。
私を捕まえろと言われても、会場を警備している衛兵たちは指令系統が違うため、殿下の側近の指示で動くわけにはいかない。
よって、誰も私を捕まえようとしない。
「マーカス、貴方は知っているわよね?殿下と私の婚約は、殿下のお願いという名のわがままによって成されたもので、殿下に相応しいお相手が見つかったら白紙にすると、陛下がお認めになっていることを!」
この婚約自体を言い出したのは、そこに転がっている殿下自身である。
最初にお願いされたときは、私がそれどころではなかったのできっぱりと断った。
それなのに、友達を見捨てるのかと泣きじゃくりながらしがみついてしつこかったのは殿下のほう。これが我が国の第一王子なのかと虚無になってしまうほど、その姿が惨めだったのは記憶に残っている。
「私は王子妃になりたくないって言ったのに、群がるご令嬢たちが怖いから助けてほしいと泣きついてきたのは殿下の方でしょうが!貴方もあの場にいたのだから、忘れたとは言わせないわよ!」
気づけば女性嫌いをこじらせ、女性恐怖症のようになった殿下。
婚約を承諾するまでくっついて離れないという暴挙に出た殿下の相手が面倒臭すぎて、押し寄せるご令嬢たちの防波堤になることを引き受けたのだ。
婚約に関しては、陛下と父、宰相を交えて話し合い、いくつか条件をつけて結ばれた。
そのうちの一つが、殿下にお相手が見つかったら婚約を白紙撤回することだった。
なので、一々、婚約破棄だと騒がなくても、すんなりと認められるのに。
「……そう言えば……」
「ちょっと、しっかりしてよね。殿下に好きな女性ができたのなら、貴方が宰相閣下にかけあって、彼女の身辺調査をしたり、養女として迎え入れてくれそうな高位貴族を探したりしなければならないのに、一緒に馬鹿やってどうするの!」
私はわけあって領地にいることが多いので、このお目付役がしっかりしてくれないと困るのだ。
私が公務のときにしか王都にいないので、殿下との不仲説や私を引きずり下ろそうとするご令嬢たちがいる。
婚約当初、不仲説を否定したり、私が殿下の婚約者に相応しくないなどの発言するご令嬢を言い負かしたりしていたマーカスだったが、なんでこんな大事なことを忘れてしまったのか。
……頭をぶつけて記憶障害でもでたのかしら?
「マーカス、何言いくるめられているんだ!あの女はリコリスを虐げ、あんなわけのわからないものを殿下に差し向けたのだぞ!」
脳筋がぎゃいぎゃい騒いでいるが、マーカスは私の発言により、過去の諸々を思い出して、現状のおかしさに気づいたようだ。
まぁ、遅すぎるけどね!
「国王陛下のおなぁりぃぃぃ」
そうこうしているうちに、朗々たる美声が国王陛下の到着を告げる。
殿下の側近たちは慌てふためきながらも、上座を明け渡すために殿下を引きずりながら壇上を下りる。
そして、教師たちが三人で抱えてもなお重たそうな重厚な椅子を設置し、広間にいる全員が頭を下げ礼を取ったのを確認してから扉が開かれた。
この間、三十秒にも満たない早業である。
「皆の者、楽にせよ」
姿勢を戻せば、壇上に座る国王陛下と側に控える宰相閣下、神殿の最高位である神官長とそうそうたる顔ぶれが揃っていた。
「そこに転がっている愚息を叩き起こせ」
陛下に付き添っていた侍従が、殿下に声をかける。肩を揺すっても起きる気配がなかく、陛下が遠慮はいらないと言ったものだから、顔に水をかけられるはめに。
「つめたっ!!」
無理矢理起こされた殿下は状況が飲み込めないのか、ポカンとした表情で陛下を見つめていた。
「オリヴァー、お前は自分がした約束も守れないのか?」
陛下のお声は呆れたようではありましたが、怒ってはいないみたい。
「お前がなり振り構わず、情けない姿を皆に見られてまでも通したわがまま。よもや、忘れたとは言うまい」
あぁ、そうでしたね。あの姿を見ていたのは幼馴染みのマーカスだけでなく、第一王子付きの侍女や護衛、登城していた貴族の当主など、多くの目撃者がいたことを思い出した。
人の目がある場所ならやめてくれるかなと安易に考え、しがみつく殿下を引きずりながら移動してしまった私もちょっとだけ悪いかも……。
いや、やっぱり殿下が全部悪いわ。
「父上!?その件は内密にって……」
「今さらのこと。お前が婚約破棄を叫んだのだ、否がおうにも人の口に上がるだろう」
「婚約破棄って……」
なんだか、殿下の様子が変ですね。
と思っていたら、殿下はこちら向き、びしょ濡れのまま駆けてくるではありませんか!
「アリステル!僕を見捨てるのか!!」
痛いくらいに肩を掴まれ、ガクガクと揺さぶる殿下。
見捨てるというか、殿下の方から捨てようとしたのに、何を言っているのやら。
「殿下が婚約破棄したいと仰ったのですよ?」
「僕が言うわけない!アリステルじゃなきゃやだ!」
離さないとでも言うように、ぎゅーぎゅーと抱きしめられて昔を思い出す。
殿下を狙うご令嬢たちから逃げてきた殿下が、私を見つけるやいなや、今のようによく抱きついてきた。
そして、濡れたまま抱きつかれたので、私のドレスまでじわじわと湿り気をおび始め気持ち悪い。
「アリスは僕の婚約者でいることが嫌になったのか?それとも、誰かにいじめられた?」
殿下の必死な顔に、あなたに冤罪をふっかけられましたとは言いづらい。
どうしたものかと陛下に助けを求める視線を向けると、何やら神官長と話し込んでいて、こちらを見てすらいなかった。
どう収拾つけようかと悩んでいたら、再び女性の悲鳴があがる。
とっさにパッ君の姿を探すと、また大きくなっているではないか!
今度は誰を食べたの!?
「この化け物がマーカスをっ!!」
リコリスという女性が、目に涙を浮かべて状況を説明してくれた。
しかし、マーカスの心配をしながらリコリス嬢は、神殿の寵児と呼ばれていた男性にしな垂れかかっている。
いろいろと物申したいことはあるが、まずはこの邪魔な殿下をどうにかしなければ。
「殿下、離してもらえますか?パッ君がマーカスを呑み込んじゃったみたいなので……」
「やだ。マーカスなら大丈夫だよ」
殿下はパッ君の中で意識があり、あの空虚の中を覚えているから大丈夫だと笑っていられるの?
仕方ないので、殿下を引きずるようにパッ君のもとへ行き、マーカスを吐き出すよう言う。
しかし、パッ君は口をもにょもにょと動かすだけで、マーカスを丸呑みしたままだ。
私は近くにいた給仕に、ケーキをたくさん持ってくるようお願いした。
「パッ君、ケーキ食べる?マーカスを吐き出してくれたら、ここにあるケーキをすべて食べていいわ」
給仕が持ってきたケーキは大皿に盛られ、五皿ほど用意してくれた。
パッ君は目をキラキラさせてケーキの山を見つめる。
そして……。
ペッと勢いよくマーカスを吐き出し、ケーキをお皿ごと呑み込む。
パッ君から解放されたマーカスはそのままの勢いで床をゴロゴロと転がり、友人たちが助け起こしていた。
すぐに意識を取り戻したマーカスは、こちらを見て安堵とも傷心ともとれる表情を浮かべる。
「ちっ……」
それなのに、なぜか殿下は舌打ちをした。
やっぱり殿下の様子がおかしい。
「マーカス、今の状況をちゃんと把握できているか?」
宰相の問いに、彼はゆっくりと首を振る。
「……夢を見ているような感じで、よく覚えていません」
マーカスの身に何か起きていて、それが原因で殿下との婚約の経緯も忘れていたの?
ますます理解できない状況に、パーティーの参加者たちからも困惑の声が聞こえる。
「では、オリヴァーに問う。お前はそこな小娘に懸想し、アリステルにあらぬ罪をきせ、婚約破棄を訴えたのは覚えているか?」
国王陛下が厳しい目つきで殿下に問いかける。
そして、殿下は驚いた表情をし、真偽を問うためか私を見つめた。
「もしかして、覚えておられないのですか?」
「……覚えてない。本当に、僕がアリス以外の女性を側に?」
世話をする侍女も年配のベテラン勢で固められているため、殿下の側に寄れる若い女性は私くらいしかいない。
だからなおさら信じられないのだろう。
「えぇ。今日は、リコリス嬢とともにご入場されました」
私が真実を述べると、殿下はたいそう衝撃を受けたのか、自分の体を抱きしめながら膝をついた。
「ですので、殿下が真に愛する女性と出会ったのだとばかり……」
しかし、殿下の様子を見れば、明らかに違うとわかった。
ようやく婚約者という立場から解放されると、歓喜していただけに落胆も大きい。
少しだけ、ほんの少しだけほっとしたのは気のせいなはず。
「では、その小娘を捕らえよ」
「こ、国王陛下!!わたしは本当にアリステル様に酷い仕打ちをされて……」
陛下の許しもなく、直接お声をかける無礼に、皆が顔を顰めた。
「では、その酷い仕打ちとやらはどういったことだったのだ?」
リコリス嬢は涙を浮かべながら、私にされた仕打ちとやらを訴えた。
最初は暴言を言われ、しだいに頬を打たれたり、暴力を振るわれた。最近では身の危険を感じるようになったので、殿下に相談したと。
リコリス嬢が訴えれば訴えるほど、場の空気が白けていく。
「話にならんな。アリステルはまず学園に通っていなければ、行事のとき以外はある地方で忙しくしている」
そう。陛下の言う通り、私は貴族が通う学園に入学していない。
今日は、殿下が卒業されるということで、卒業パーティーに婚約者として参加したのだ。
「うそ……」
リコリス嬢は、私の姿を学園で見たことないと思わなかったのでしょうか?
私は王子妃になる教育も待ってもらっているので、領地の屋敷で家庭教師から学ぶくらいしかできていない。
「陛下、発言をお許しください!」
リコリス嬢を庇うように、神殿の寵児が前に出る。
陛下が発言を許せば、私を慕う令嬢たちを使えば、領地にいても嫌がらせはできると言い出した。
これには、神官長も呆れた表情を隠さなかった。
「ダレン神官、その小娘が殿下に『呪い』をかけていたことに気づかなかったのか?それとも、お主が真っ先に呪いにかかったのか?」
「の、呪いですか?まさか!私はいたって正常です」
呪いという、もはや忘れ去られたと言ってもいいものが出てくるとは思ってもみなかった。
神官長が言うには、殿下もマーカスも、リコリス嬢に呪われていたそうだ。
それを解呪したのがパッ君なんだとか。
パッ君にそんな特技があったなんて知らなかった。
「しかも、精霊様を邪悪なものと言ったそうだな。神官としての資質も疑わざるを得んな」
「……精霊さま!?」
神殿の寵児と呼ばれていたダレン神官が驚く。
神官長はパッ君を精霊様と呼びます。
記録では昔から存在を認識されていたそうで、『虚』の精霊と呼ばれているらしい。
◆ ◆ ◆
五年前、この国を大きな嵐が襲った。それは、『ドラゴンが通った』と喩えられるほど大きな嵐。
私の領地を始め、複数の領地が甚大な被害をこうむった。
丸二日暴風雨が続き、ようやく嵐が去ると、領主である父や嫡男の兄はすぐに領地の被害を調べるために屋敷を飛び出していく。
私も、母と一緒に屋敷周りの被害を調べていた。
母のこだわりの庭は、どこからか飛んできた木の枝や家の屋根、服といったもので無惨な姿になっていて、私は悲しくなる。
それらを片付けていると、草花の間に動くものが見えた。
掻き分けて動いた正体を確かめたら、見たことのない生き物がいた。
体がまん丸で、目も大きくつぶらで、とても可愛いい!
「あなたも嵐に巻き込まれちゃったの?お腹空いている?」
その生き物を保護し、餌を与え、パッ君と名前を付けた。
しばらくして、パッ君を王都に連れていったとき、ある神官から『虚』の精霊様だと教えてもらったのだ。
『虚』の精霊は大きな天災が起きたときに現れるらしく、その天災で発生した倒木や落石、土砂崩れなどを食べて、それで得た力を大地へ循環させているそうだ。
「つまり、あの嵐で出た廃棄物をパッ君に食べさせれば、土地が回復する可能性があると?」
その神官は、私の問いに是と答える。
私は急いで領地に戻り、パッ君の力を試してみることにした。
再利用ができない木材や水浸しになって駄目になった食糧など、あらゆるものをパッ君に与える。
すると、溜まっていた水は引き、川の流れも穏やかになり、復興作業がやりやすくなった。
それだけに留まらず、田畑も手をかけるとすぐに種蒔きできる状態になり、作物の生長も良好と、嬉しい報告が相次いだ。
国からの支援もあるにはあったが、被害にあった領地は国土の四分の一にもなったので、すべてに行き渡っていない状態だった。
私はとにかくパッ君を連れて領地を回り、土地の回復に全力をつくす。
そんなさなかに殿下に呼び出され、渋々行ってみれば婚約してくれと泣きつかれたのだ。
殿下の婚約者をやりながら、我が領地だけでなく、被害にあった領地すべてにパッ君の力を使い、さらには同じく嵐の被害にあった隣国にも足を運んだりもした。
今はどの領地もだいぶ回復し、残る問題は仮住まいの領民たちの家だ。
森の木々も嵐の被害にあっているので、家を建てるのに必要な木材が不足し、倒壊した家屋の木材を再利用して作った家に住んでいる領民がいる。
森の再生にも力を注いだが、農地とは違ってすぐに回復とはいかなった。
最近になってようやく、森が本来の姿を取り戻し、被害にあっていない地域や国からの木材輸送も含めて、再建できそうだと父が言っていた。
おそらくだが、仮住まいに使った木材などをパッ君に食べてもらえば、土地は完全に回復するだろうと。
◆ ◆ ◆
「虚の精霊様は不要なものを食べて、世界に循環させると言われています。つまり、殿下と宰相閣下のご子息にかかっていた呪いも食べてくださったのでしょう」
神官長の発言に、私はパッ君を見やる。
パッ君はどこか誇らしげな顔しているのがまた可愛い。
「お前が助けてくれたのか……」
パッ君に食べられたせいか、殿下は助けられたと言いつつも複雑そうだ。
「パッ君、ありがとう」
私が殿下の代わりにお礼を言うと、パッ君は大きく口を開けて応える。
これは……、お礼は食べ物にしろってことね。
殿下にお願いすれば、パッ君のご褒美に何か美味しいものをくれるかしら?
パッ君に気を取られていると、
「アリステル……まだ僕の婚約者でいてくれる?」
「殿下にちゃんとしたお相手が見つかるまではやりますよ?」
「……僕のことは嫌い?」
殿下は今にも泣き出しそうで、私はつい、彼の頭を撫でた。
どうやら、私は殿下のこの表情に弱いらしい。
「好き、ですよ?」
恋愛感情としての好きとは違うかもしれないけど、殿下のことを好きだという気持ちはある。
「アリス!ありがとう!」
久しぶりに見る、屈託のないその笑顔に、私もつられて笑みを浮かべる。
結局、婚約者の役目を終えることはできなかったけど、この日から私たちの関係は少しずつ変わっていくのだった。
でも、このすぐ抱きつく癖はやめさせないと!
後日――。
リコリス嬢が殿下にかけた呪いが『呪いをかけた者を好きになる』ということが判明して、殿下は荒れに荒れた。
呪いのおぞましさからか、パッ君を捕まえて叫ぶ。
「お前、あの女を食え!」
パッ君は呪いの解呪のために、元神官のダレンと元護衛の……脳筋をもぐもぐしたあとだった。
二人は危機管理ができていなかったとして、役職を外され、実家に戻されることが決まっている。
リコリス嬢の処分は、珍しい呪いの使い手ということもあり、どうするかもめている状況らしい。
パッ君は『あの女』がリコリス嬢だと理解しているようで、殿下を見つめて口をもにょもにょ動かし不快を表す。
パッ君が食べるのを拒否するなんて初めてのことだ。
つまり、リコリス嬢の呪いの力は不要なものではないのか、もしくは不味いか。
それなのに、殿下はしつこくパッ君に迫り、ついには……。
「パッ君、ペッしなさい!!」