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「秒読み開始…時間同期開始…」
無機質な声で、15から一つずつ時間が減っていく。
「シートベルトしときなさいよ。命の保証はしないよ」
あっさりと博士は宣告をした。
私たちは互いのシートベルトを確認したその直後、突如として巨大な加速を感じた。
それが発艦の瞬間だと理解するのは、意識が起きるのを待たないといけない。
「ほら、起きなさい」
ちょっとしてからさらにひとこと。
「起きなさいって…まったく、これだから子供のおもりは嫌いなのよ」
博士の声がする。
目をゆっくりとあけると、目の前には直人の顔があった。
びっくりして顔をのけぞると何か固いものにぶつかった。
「いったー」
「何が起きた…って、なんだー」
「なんだーっていうのは失礼でしょ。こんなきれいな女の子に対して」
博士はあきれてものも言えないという顔になっている。
その上、どこかへ歩いて行ってしまった。
「……とりあえず、退いてくれる?」
私は匡に話しかける。
匡の腕が私の腹に引っ掛かっていて、シートベルトが外せない状態だった。
「あ、ごめん」
あわてて腕をどかす。
「ふう……」
私はシートベルトをはずして、すぐ横でもたれていた直斗も起こす。
「ほら、起きてよ」
体をゆすると、直斗は何かもごもご言ってから目を開けた。
「……船の中…だよね」
「そうよ。もともと地球があったところに到着したみたいよ」
そう言って、立ち上がると博士のところへ向かった。
直斗と匡は、私が起きた直後に動き出した。
「博士、何してるんですか?」
「ああ、宇宙空間に対して、機械を飛ばすの。その結果をもとにして、あるものを探すの」
「あるもの?」
直斗がボーとした顔をして、博士に聞いてくる。
「ええ、この世界をひっくり返すようなものよ。もともとは学校にあるプールほどの大きさがあったと言われてきたのだけど、実際はそれよりも小さいことがわかったの。だいたい……あのくらいの大きさぐらい」
博士は、窓から見えている50cmぐらいの立方体を指さした。
「あなたが持ってきてくれたフロッピーに入っていたのよ。あなたたちが見たのは、隠されていない表層上の情報。すべては、あの場所に……」
そう言って、持ってきたパソコンを何かいじくっていた。
「あの場所って……」
私が聞くと博士はにこやかに返してくる。
「惑星国家連合立特殊技術研究所中央コンピューター。その中の一画に、そのデータはあった。このフロッピーには、その場所とパスワードが入っていたの。それを解読してたどり着いたところにはまた別のデータが入っていた」
パソコンの画面を私たちに見せたが、何のことか全く分からない。
文字化けしたような画面が、延々と続いている。
「どんな意味なんですか?」
「それはTeroしかわからない。もしくはそのフロッピーの中をもとにして、新しいのをもう一人創り出すか……」
その時、窓をたたく音が聞こえた。
「えっと…どちら様?」
博士は冷静に聞き返した。
相手は真空だ。声は聞こえるわけがない。
それよりも私たちを驚かせたのは、人が宇宙空間にいたことだ。
人間、驚いた時には声が出なくなるというのは本当らしい。
口はパクパクと動いているのだが、声が出てこない。
「ハッチに回って」
博士は指さしながら彼女に指示した。
彼女はうなづいてその方向へ向かった。
「支援よろしく」
私たちに一言言うと、すぐに外へ出るためのハッチへ向かった。