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エレベーターが開かれると、突如敬礼されて出迎えられた。
「お帰りなさいませ、大将殿」
「お帰り…大将殿…?」
博士は気にする風もなく、歩きだした。
さっそうと歩く博士のすぐ後ろを歩く私たちには、まったく理解できなかった。
「博士…あなたはいったい……」
「今でこそ博士として私はいるわ。でも、博士として研究している傍らでは、史上最強の軍師と言われたシルクホース・イワンコフの実の娘として、その実力を発揮したこともあるの。でも、もう何十年も昔の話よ」
私たちはそれを聞いて驚いた。正直に驚きを隠せなかった。
シルクホース4軍作戦部部長は、世界最高峰の惑星国家連合立軍事大学校卒業で、若干28歳で幕僚長付き士官にまで昇格されている。
その武勇伝の数々は、学校の教科書にも登場するほどの有名人であり、中学校普通課程を卒業するころには、大体のことを憶えさせられているほどの人だ。
それほどの人は、過去も未来にもいないだろう。
ただ、シルクホースという名前は、あまりにもありふれている。国勢調査によれば、宇宙で14番目に多い名字となっているほどだ。
だからこそ、そのようなことは考えなかったのだ。
「作戦部部長は、幕僚長付きの士官、正確には大佐扱いになります。しかし、特例として私と父は、大将という階級を与えられたのです。なぜかは、誰にも教えてもらえませんでしたが」
博士は、歩きながらも次々と高級車の隙間を通り抜けていく。
「私は父と違い、宇宙軍に入隊しました。なので私の正確な呼び名は、惑星国家連合宇宙軍大将であり宇宙軍幕僚長付き作戦部部長となります」
長ったらしい役職はあまり好きではない。
博士も好きじゃないらしく、それきりその役職は言わなかった。
かれこれ10分ほど歩いた時、突如として空間が生まれた。
「これが、私たちが乗る戦闘機よ」
博士が指さした先には、ふとましい飛行機があった。
仮説の滑走路が敷設されていて、空母の発艦板の様相を呈していた。
「あの飛行機って…」
「飛ぶんですか?こんな地下駐車場から」
博士は何も言わずに、私たちに向かって滑走路を横断して戦闘機に乗り込むように合図する。
周りには、黄色の服や緑の服、赤の服、青の服などを来た人たちが忙しそうに働いていた。
「この戦闘機は、宇宙でも水中でも飛べるように特別な加工をされているの。だからこうやって飛ぶことができるのよ」
そう言いながら、博士は真っ先に船に乗り込んで、機内を1周した。
「なかなか整備されてるわね」
操縦席に座ると、周囲のスイッチの場所を確認した。
「好きに座ってもらって構わないけど、操縦だけは私がするわよ」
博士はそれだけ言うと、色々とスイッチをいじりだした。
私たちは、補助席を空白にして、3人で後ろの席に並んで座った。
1時間ほどすると、船の中に誰かから連絡が入る。
「大将殿、準備の報告をお願いします」
「準備の報告。現在、すべての処理を完了。発艦許可のみ下りれば、発射可能です」
「了解した。今後、貴船のことは、Reginaと呼んでくれ」
「Regina了解」
博士はヘッドフォンとマイクをいつの間にかつけていた。
「残り30分ほどで出発するけど、フロッピーを持った?」
私は服のポケットをまさぐった。
「あります」
あのフロッピーだった。
ついでにお父さんのパソコンもカバンに入れているのは秘密だ。
25分後、再び無線が鳴った。
「Regina発艦許可が下りた。幸運を祈る」
「Regina、了解」
それから、博士はあちこちの装置を見ていた。
「速度計よし…方向計よし…シートベルトつけた?」
博士は私たちを振り返って確認した。
「あ、はい。つけました」
「よっし…じゃあ、最後の確認ね」
ヘッドマイクを通して、向こう側の人と通信をはかる。
「こちらRegina。最終確認を行う」
「了解した。マイク良好、双方向通信可能、その他もろもろ、よし」
なんか最後は適当だったような気が…
「残り30秒です。発艦準備は?」
「完了。すべて安全確認」
博士は最後に私たちに聞いた。
「忘れものはない?」
「大丈夫です」
フロッピーも、着替えも、パソコンも色々と持ってきた。
必要になるだろう物はすべて持ってきた。
あとは、実際に行くだけだ。