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第2章 地球という遺跡
1階の食堂には、軍の人とお父さん、お母さんが座っていた。
「そこに座りなさい」
お父さんが空いている席を指さして座らせる。
「君たちにも話しておく。どうか、座ってくれ」
匡と直斗も、私のすぐ横に席に座らせてから、お父さんは話し始めた。
「君たち3人には、船を一隻用意した。法律上、君たちが運転することはできないからそのための運転士として一人こちらが用意した」
指パッチンして呼んだのは、博士だった。
「お久しぶりね、皆さん」
「彼女は、私と旧知の仲でね。今回の計画を話すと、すぐに賛同してくれたんだ。運よく、航宙士の資格も持っている」
「お願いね」
ただ、博士のかばんは、それにしては多くの荷物が入っているようだ。
ついでに、研究するつもりらしい……
気にすることではないようなので、そっとしておくべきだろう。
「それで、量子コンピューターって、何なんですか。Teroと言われた女性は…」
直斗が聞いた。
博士は笑顔のまま言った。
「あなたたちもどうにかして中を見たのね。隠していても仕方がないわね。じゃあ、船のところに行く最中に話してあげるわ」
しかし、その前に必要なものがいくつかあるので、それをとってくることになった。
いったん2階へあがると、私たちは一つのかばんの中にいろいろと荷物を入れ始めた。
「えっと、これはいる…これはいらない…」
数分で荷物の準備を整えて、まとまって食堂へ降りた。
「準備できました」
直斗が博士に言うと、一回だけうなづいて博士が言った。
「行くわね」
博士は並み居る兵士を目で威圧しながら私たちの少し前を歩き続けた。
「…Teroというのは、地球という意味の単語よ。どこで使われていたのか、どこから由来する名前なのか。すべては謎なの。分かっているのは、その名前を冠する女性、その人こそが、世界最古の量子コンピューターということ」
「世界最古の量子コンピューター……」
匡が繰り返しつぶやく。
「そう。問題は、そのTeroは地球が謎の粉砕を遂げたときに、同時に消滅したと考えられていること。だから、新しく作るためにはそのもともとの情報が必要なんだけど……」
「それが、このフロッピーにあるということですね」
私はようやく合点がいった。
「そうよ。それに昔からの伝承もある。兵武卿の話は、聞いたことがある?」
「ええ、あまり詳しくではないですが…」
エレベーターの前に着くと、博士は下向きの矢印を押した。
「兵武卿というのは、あなたの祖先がつけたパスワードよ」
私を指さして博士は断言する。
「じゃあ、私が兵武卿に選ばれたっていうこと…?」
「そういうこと。あなたの祖先は、コンピューター技師だったの。それも量子コンピューターの、ね。それで、彼らはその力を悪用されないようにカギをかける必要が出てきた。それが兵武卿という名前よ」
「本名とかは分からないんですか」
私はすぐに聞いてみた。
「残念だけど…でも、いろいろと探しているうちにわかるかもしれないわ。あきらめない心、それが大事なのよ」
なんだか諭されているような気がする……
エレベーターがつくと、すぐに博士は乗り込んだ。
「これからのことをとりあえず説明しておくわね。軍が用意してくれたのは、SVG−339型超光速戦闘機。1機で数兆円といわれている最先端戦闘機よ。おそらく、相手も同じことを考えているからだと思うけど……」
「そういえば、相手ってどんな人なんですか?」
ゆっくりとエレベーターは下向きに動き出す。
「旧陸軍参謀長である一西都。ニノマエコーポレーションのすべてを取り仕切る社長でもあり、個人の資産は世界最高。個人所有として惑星を一つ、施設軍隊、小惑星を数百。その他複数の隠し資産があるとうわさされているわ」
「そんな人を相手にしないといけないんですね……」
私たちは絶句した。
だが、博士はなぜか笑顔を変えようとはしなかった。