15
「玄関部分侵入成功」
「廊下側、障害物なし」
博士が叫びながら、私たちを誘導する。
「目標発見」
ライフルを構えながら、博士がじりじりと近づいていく。
Teroは、ケーブルを持ちながら、私たちを見ていた。
「来ましたね」
唇の端をはずかに引き上げたかと思うと、左右から鋼が飛び出してきた。
何か分からないまま、本能的に避ける。
「まだまだ!」
下から突き上げるような感覚。
私は宙を舞っているかのように思ったが、それは違った。
床面がなくなった。
「ひっ!」
「危ない!」
とっさに手を伸ばしてくるのは、直斗と匡。
二人に支えられて、私はどうにか落ちることはなかった。
「ほほう…」
攻撃を一時やめ、Teroは私たちのところへ近寄ってきた。
「ロボット3原則、軍事ロボット3原則、先見ロボット3原則。これらに共通することは?」
博士は、別の機械と戦っている。
音だけは響いてくるのでわかる。
だが、お父さんとお母さんはここからは見えない。
「…つまりは」
「人間を守るようにプログラムを組まれているのです。すべては人間の為に。我々ロボット、量子コンピューターを搭載された新人類とも言うべき我々ではない」
「我々…ということは…」
直斗が睨みつけるように言う。
何かあれば飛びかかる気だろう。
「もちろん、ただ一つしか、量子コンピューターといえるものはありません。私が持っているこれが唯一のものです。しかし、類似するものなら、つなぎ合わせることによっていくらでもできる。その集合体が、我々なのですよ」
Teroは、徐々に狂気で顔をゆがませながら、私たちに言い放った。
「だからこそ、我々は、世界を制するのです。この星は、単なる足がかりにすぎない。"ニノマエ"氏は、それに乗り遅れることはないでしょう。なにせ、あの人は我々の計画のよき理解者なのですから」
パンパンという、軽い銃声。
それから人の声が聞こえてくる。
「だーれーがー、お前たちのよき理解者だよ。バーカ」
「ニノマエさん。どうしてここに」
「苗場、匡、直斗だったな。こっちの情報収集能力をなめてもらっちゃ困る。輸送船が、機械軍団に襲われている間に、抜け出して来てやったんだ。また、どこかの飛行船でもパクッて、自分の星にでも帰るさ」
彼は笑いながら銃口を向けていた。
「あなた…あなただけは、人類の中でも生きながらえさせようと思っていましたが、どうやらそのことは間違いだったようですね」
胸に穴があきながらも、Teroは笑い続けている。
「ニノマエさん、ちょっとお願いがあります」
「ああ、どんなことでも言ってくれ」
「あのロボットの首筋に、端子があります。そこにちょっとした用事があるのです」
私がそれだけしか言っていないのに、大体のことは分かったらしい。
「そうか、じゃあこうするか」
ゆらっと影がゆれたと思うと、Teroは地面に押さえつけられていた。
「いまだ!」
私に叫ぶと同時に、言われたとおりのところにある端子に突き刺した。
動きは、止まった。
あたりは嫌な静けさに包まれた。
「プログラム再起動します。再処理中。しばらくお待ちください」
表情がなくなった顔で、かなりの棒読み状態で言われる。
その間、すべての機械の行動は止まり、お父さんとお母さん、博士もこの場にやって来ていた。
「成功…それとも……」
「まだ分かりません。いま、再処理中だそうで…」
唐突に、楽しげな音楽が流れ出した。
徐々に静まり返る部屋の中。
ニノマエが上からのくと、半身を起して、いまだに焦点が定まらない目をして言い始めた。
「起動完了。再起動を完了しました。記憶相互に補完、完了。すべての工程を終了しました。すべてのネットワークシステムより撤退します。これより、私、Teroの最上位権者をマスターに指定し、特定のDNA錠を有する者を最上位権者とします」
それから私のほうを見ていった。
「あなたが、前のマスターですね。再度登録する場合は、DNA錠と適合するかどうかのテストを行います。よろしいですか」
「…はい」
本当に元に戻ったのかどうかは分からないが、今はそれを信じるしかない。
博士が持ってきた無線の電源を入れると、あちこちから状況の報告が出てきた。
それによれば、相手は全員降伏したそうだ。
最後の仕上げは、私がすることになった。
「では、手を合わせてください」
掌を見せる。
私はあの時と同じように手を合わせた。
「少し痛いかもしれません。よろしいですね」
「はい」
わずかに針で刺されたような印象を残し、掌は離れて行った。
「データ照合完了。すべてのカギは解き放たれました。最高権者は、あなたです。糸魚川苗場さん」
私をじっと見つめて、静かに宣言した。
「では、最初の命を言い渡します。これ以降、私又は私の家族の人が命じない限り、勝手に行動を取らないこと。ただ、命令権者から指示を受けた時は例外とします」
「分かりました、苗場さん」
こうして、私たちの戦争はようやく終わった。
たかが30分ほどであったが、それでも、私たちにとっては初めてのことであり、Teroの行動を縛ることは当然のことだと思った。