14
第5章 終結
「分かりました、その作戦、すべて支援しましょう」
「お願いします。それぞれが独自の指令系統を持っている以上、何かあれば、すぐに戦線離脱してください」
博士はそれぞれの艦長や船長にそれだけお願いすると、すべての無線の送受信を拒否するようにした。
「さて、行くわよ!」
船の中の様子を見て、操縦桿を強く握った。
大気圏内へ入る際、右翼に宇宙軍の重武装部隊「ヘルドッグ」が、左翼には対海陸空攻撃用爆撃機部隊「マッドドッグ」がいた。
それぞれの部隊の名前は、通称で正式な名前ではなかったが、非公式の場ではその名前で通っていた。
「ヘル、展開します」
「マッド、これより攻撃目標のせん滅に取り掛かります」
「Regina了解。武運を」
たったそれだけの話だった。
だが、すべてはそれだけで決していた。
外では、左右に航空部隊が展開している。
それを狙うように、地上側から対空ミサイル、宇宙からは戦闘用レーザーが放射されていた。
「バリア、作動」
ブーンという蚊が飛んでいるような音がしたと思うと、レーザーが当たる直前で消えた。
「どんな原理なんですか」
直斗がジグザグ飛行を続けていて、今は水平に飛ばしている博士に聞いた。
「技術面はからっきしダメなの。弘さんなら、分かりますよね」
「さてさて、ここ最近は慣れてましたからな。昔と同じならば、よくわかるのですが」
「それでもいいです」
そう言いながらも、上下から襲いかかってくる砲弾とレーザーは消滅していく。
「レーザーが消える原理…そもそも、レーザーは何でできているか、知っているかい」
左右へゆすぶられる船の中でも、平然と話ができるほど慣れてきている。
「えっと、電子だっけ」
「そう、あの衛星は、自由電子レーザーという方式を取り入れている。もうひとつ、研究途中のメーザー衛星もあるんだけど、それは目に見えないから、気にしなくてもかまわないよ。どちらにせよ、このバリアですべて防げるんだ」
「そのバリアの原理を知りたいんです」
匡がさらに続けて聞く。
「まあまあ、知的好奇心があるのはいいことだけど、せっつくのはよくないよ」
そう言って、のんびりと構えているようだ。
その間にも、陸地と平行に飛びはじめていた。
「さて、レーザーの中には電子がある。電子は巨大な電磁波によって曲げることができる。それと、この音、気付いていると思うけど、バリアを張った時点から始動しているものだ」
「もしかして、電磁波を出しているの」
「正解。もちろん、そのためには、船の外壁や内壁にも、色々な工夫がされているんだけどね」
「そんなこと言ってないで、着陸準備!バリアも切るよ!」
博士が船内無線を使って叫んだ。
「武器使用無制限解除。全能力解放準備完了。緊急脱出装置確認。座標安定。目標捕捉」
すべてを一気に言い切った。
「安定飛行願います。現在、ヘル部隊は奮戦中。マッド部隊は、敵飛行隊と空中戦です。救助隊と称し、海軍航空隊所属の航空軍も反対側にて応戦中の模様」
「了解した」
お母さんの声が、スピーカーを通して聞こえてくる。
博士はその要求にすぐに答える。
ジグザグに飛んでいたのを、ほぼ直線にし、目標地点に向かって一気に突っ込んでいく。
そこは私の家なわけなのだが、こんな状況では言ってられない。
「庭、借りますよ」
それでも博士はひとことだけは言っておく。
「仕方ないでしょう。それぞれ、武装するべきですね」
そう言って、お父さんは席を立った。
「お願いします。光里さん、弘さんは後方援護。私と苗場さん、直斗くん、匡くんで突撃隊を作るわ。陸軍の人たちがいたらもっといいんでしょうけど……」
「援護頼みますか」
「今来たところで、私たちの後塵の掃除ぐらいにしか役に立たないでしょうよ。他のところで忙しいみたいですし」
そう言って、船を安定させて着陸させた。
地上からの砲弾はなくなったが、宇宙からのレーザー攻撃は断続的に続いている。
「飛行間隔は、コンピュータ制御じゃなく、重力に従っての移動になるはず。エンジン自体がついてないから。だから、後2分後に、今攻撃をしている衛星が陰に入る。その後4分後には、第3衛星が攻撃を行うことになるわ。だから、それまでの間が勝負」
博士は、バリアを解除していない船の机の上で、説明をした。
「玄関部分から入り、廊下を走り奥から3つ目のドアを破壊する。すると、Teroがいる部屋にたどり着くわ。残りは、首筋左側にあるUSB端子にメモリを直接差し込むだけ。そうしたら、優先的にプログラムの上書きがおこなわれるはず」
博士が説明をしている間、お父さんとお母さんは、武器の確認をしているようだ。
「ライフルT-545型、拡散式火炎銃R-999型、大型手榴弾ASP-TR型。手入れは隅々まで行き届いていますね」
「陸軍のやつらが手をまわしてくれたのでしょう。使いこなせそうですか」
博士は照準器を確認しているお父さんに聞いた。
「我々はこれらを持ちましょう。しかし、子供たちは正規の訓練を受けていません。そのハンディは命取りにつながるでしょう」
冷静に分析しているのはお母さんだ。
「これを渡して置いたらどうでしょうか。初任兵が使うことになるものです」
博士が机の上に置いたのは、見たことがないタイプの銃だった。
「軽機関銃G-666型。移動時は腰だめ、肩担ぎのどちらかになり、腰だめの場合、短時間ならばその状態でも打つことが可能な銃です。オート機能搭載、実戦で使われたことはほとんどありませんが、それでもないよりましでしょう」
「それぞれ、一丁ずつ配備。子供たちには光里が指導してくれます。それと、弘さんはちょっと話しておきたいことがあるので、すこし来てください」
博士がそれぞれに配分を決めた。
数分後、どうにか使えるようになった銃を肩から下げ、腰のところで構えていた。
「最後に、これをつけてください」
博士とお父さんが持ってきたのは、ベルトについている機械だった。
「この船に設置されているバリアと同等のものを発生することができる装置よ。それをつけときなさい」
コルセットのようなベルトに、背中側に機械が来るような形になっていた。
「壊されたら、死を覚悟しなさい。今回の目標はTeroの暴走を止めること。このプログラムで止められない場合は…」
博士は左手に持ている俵状のものを強く握りしめていた。
「これは使いたくない。使ったら、この星ごと消えさる可能性が強い。だが、Teroを止められない場合は、使わざるを得ない」
そう呟いているのが、私の耳にわずかに聞こえてきた。
「行くわよ!」
お母さんが、一気に扉を開ける。
不意に、爆発音が鳴りやんだ。