13
飛行機の周囲には、不思議と誰もいなかった。
「この上に、3mのコンクリートの壁があるのよ。だからここはこのように安全ということ」
お母さんが笑いながら言う。
「笑い事じゃないぞ、さてそれよりも、弘さんのように連絡を入れておこう」
博士はそう言って、ちょっと離れたところで携帯電話を取り出して連絡を入れた。
その間に、私たちは飛行機の中に入った。
「こちらに向かっている。彼が到着したら、出発だ」
博士はそう言いながら、操縦席に座る。
私たちは前と同じように操縦席の後ろの席で小さくなっている。
ただ、お母さんは武器を取り扱う部屋にいた。
「こちら、光里です。準備よろしいでしょうか」
「操縦席、準備完了。音声もはっきり聞きとれるし、画像も見える。こちらに弘さんが向かっているのが確認できますか」
「こちら光里です。外部モニタ確認終了。乗り込んだことを確認し、報告します」
それを言ったのと同時に、お父さんが補助席に座った。
「操縦席も確認した。これより離陸する。ハッチ全開!最大出力にて離陸!」
直後には、ものすごい重力を体で感じながら、私たちは空にいた。
瞬時に雲を突き抜けるほどの速さで、私たちは飛行し始めた。
「静止衛星軌道、到達。攻撃は受けず」
博士が冷静に言った。
「外部との接続を開始…切断。現在、我々は孤立しています」
お父さんが、博士に言う。
「状況了解」
それから、さらに離れて、干渉ができないよう惑星間の何もない所で、船をいったん止めた。
「艦隊司令部に連絡を入れるべきなのだろうが、すべての通信は傍受されていると考えるのが妥当だろう」
一つの広い部屋に私たちは集まって会議を開いた。
「ところで…」
私は気になっていたことをお父さんたちに聞いた。
「お父さんとお母さんと博士って、どんな間柄なんですか」
「そうだな、そろそろ話してもいいころだろうな」
お父さんが博士とお母さんに目くばせをしてから、話し出した。
「旧陸軍参謀副長官、糸魚川弘。昔は陸軍の操縦官として、戦艦を操っていたこともある。苗場の母さんは、同じ戦艦で、砲術主任をしていた将校だったんだ。ついでに言っておくと、博士も同じ戦艦に乗っていたんだ」
「でも、宇宙軍だったんでしょ」
私はTeroを探しに行ったときに行っていた役職を思い出しながら言っていた。
「ええ、私はもともとから宇宙軍にいたわよ。とある作戦で、あなたのご両親と同じ班に入ることになったの。その作戦では、陸海空宇宙のすべての軍が動員されていたわ」
「あれ以上の作戦は、あれ以来一回もおこなわれなかったな。結局、双方ともに被害が莫大な物になって、その戦争は終了。それから、今になるのよ」
なつかしそうな顔をして、お母さんが私に話しかけてくる。
「その作戦って…」
直斗が、博士たちに聞いてみる。
「ニノマエ領惑星壊滅作戦。昔は、もっと持っていたのだけど、この作戦の結果、一つの惑星を持つことだけを許されて、他には様々な人たちが入植することになったの。そのうちのひとつが、私がいた博物館の惑星よ」
「その作戦で生き残ったのは、わずか1万弱の兵たち。彼らには、レポット・カール勲章が授与されることになった」
「だから、私たちもその勲章を持ってるのよ」
レポット・カール勲章とは国家2級勲章で、軍関係者の中で顕著な功績をのこした者達に対して授与されることになっている勲章だ。
だが、今はその家から遠く離れたところにいる。
勲章の本体はすでに破壊されていると思ったほうがいいと思われた。
「それよりも、Teroをどうやって押さえるかが問題だと思うね」
「破壊することも考えておかないといけなくなる……」
「量子コンピュータとして、ようやく受けた命を、こうやって散らすことになるんだね……」
「……分かった。じゃあ、もうひとつの方法を行ってみよう」
お父さんがそう言って、古い本を取り出した。
「どうにかこれだけひっつかんでこれたんだ」
私たちは、その本を見て驚いた。
ここ最近は、驚きっぱなしだ。
「量子コンピュータではないけど、その基礎になるプログラムルーチンだ。それに従えば、内部暴走による緊急終了システムが導入されていることになっている。マスター命令よりも上位に位置しているから、間違いなく止まるだろう」
それから、ひとつのUSBメモリを机の上に置いた。
「これの中に、そのデータが入っている。強制停止させるためのプログラムであり、データの上書きも同時に行う」
「マスター命令が最上位に入ることになり、それ以降、このような反乱をおこすことはないと思う。ただ問題なのは、このデータをどうやって本人の中に導入するかなんだけど…」
遠くのほうから、避難船が来るのがレーダーで探知できる。
互いの電波は完全に遮断されているため、外観のみで判断するしかない。
「または、新しく量子コンピュータを作るかなんだが、そのためには、莫大な資金が必要になる。そんな金、国かニノマエ氏にしかないだろうさ」
「それほどのお金がかかったとしても、Teroを止めることができないかもしれない」
私は考えた。
一つの結論は出たが、そのことの承認は言えられることはできないと思った。
「あの、私が行きます!」
「危険が大きすぎる、だが…マスターであると認められたのは、一人だけだ」
私を見ながらもお父さんは不安そうな顔をしている。
「俺たちも行きますから、大丈夫です!」
直斗と匡が、すぐ横で立ち上がりながら言った。
「…分かった。簡単な訓練を受けてから、すぐに出発してもらう」
私たちが話している間にも、この宙域には様々な船種が集まっていた。
レーダーを回してみれば、軍艦、商船、個人保有船、国家備蓄船など、さまざまな物がこの宙域に集合していた。
周囲の中で、無線の干渉が最も低い所に当たる。
そのために、Teroの影響を回避したい人たちが、ここに集まってきているのだ。
「連絡、本線周囲にいる前線に通達します。これより、軍部非公式派遣隊を編成し相手に対し、攻撃を加えます。本船は宇宙軍所属Regina号。本船の案に同意のものは、10分以内に、惑星国家連合中央政府惑星絶対座標5号番 X:4890 Y:6214 Z:8221 に来るように」
博士はそれだけ言うと、無線を再び封止した。
「どれだけくるでしょうか」
お父さんが、博士に尋ねる。
「だれかは来ると思いますよ。来なかったとしても、1隻だけでも突入しますが」
あっさりと返される。
10分後、レーダーを観察してみると、かなりの船が集まっていることが分かった。
「貴船に告ぐ。本船は宇宙軍所属のStaragazarだ。臨時司令部として、以下のことを命ずる」
一方的な言葉だが、博士は何を言われるかわからないようだ。
「未知なる敵に対し、すべての兵器をもってして、これを撃滅せよ。生死は問わない。以上だ。そのための支援は全力を持って行う」
「ありがとうございます。他の船に関しては……」
「あなたはどなたでしょうか」
相手側からの質問。
「シルクホースです。そんなことよりも、他の船に関する指揮権に関しては、どちらが持つのでしょうか」
「あなた方が持つことになります。これより、第5大軍区区長の命を以て、シルクホース大将殿を惑星奪還作戦全権作戦実行者に任命します。なお、惑星国家連合全土に戒厳令が布告されていますので、第1種戦時体制の宣言を同時に行われているものとみなすことができます」
「了解しました。それでは、お力をお貸しください」
博士はこれから行う予定の作戦をすべて話した。