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01 生き別れた妹





 断罪の刃が下りた時、命が尽きたかもしれないと思った。


 ひょっとしたら死んでしまうかもしれないと思った。


 それでもまだ、私は生きていた。







 目をあけた私は、自分の体の様子を確かめた。


 すると、なぜか自分の体が小さくなっている事に気が付いた。


 一体なぜ?


 自問自答しながら周りを見つめる。


 すると、そこは自分の部屋だった。


 最後に私がいた、冷たい牢屋などではない。


 私のために父と母が買ってくれた物であふれている、あたたかい部屋だ。


 呆然としていると、その部屋に使用人がやってきた。


「お嬢様、ご主人と奥様から大事な話があるそうですよ。すぐにお支度を」


 扉の向こうからかかる声で、私ははっとする。


 そして、部屋の中の状態と、私の体を見て察した。


 ここは、過去の世界だ。


 おそらく私は昔に戻ってきたのだ。


 生き別れた妹が、この屋敷にやってくる、運命の日に。






 この世界には加護を持つ人間がいる。


 加護は、神様が非力な人々に与えてくれた特別な力だ。


 といっても、片手に数えられるくらいしかいないため、加護を持っている人には、めったな事では会えない。


 しかし私はそんな珍しい人間だったらしい。


 私は、幸運にも加護持ちだったのだ。


 それが実際に判明したのは、死んだ時。


 加護を持っている人は、自然と何の力を持っているのか分かるらしいが、私は使った事が無かったので、本当にそんな力があるのか分からなかったのだ。


 でも、本当だった。

 この過去に戻る加護は。


 過去に戻った私の記憶が混乱する事はない。


 私の名前はフィア。

 貴族のお嬢様。

 先ほど部屋に知らせをよこした使用人はシンフォ。

 幼いころから、私の世話を焼いてくれているお兄さんの様な存在。


 母と父の名前も思い浮かんだ。

 この時、社交会の会場で仲良くなっていた猫の名前も。


 私の力は、過去の世界に戻って、やり直す事ができる力。


 それは夢でも幻でもない。

 頬をつねってみたけれど、本当だった。


 なんて強力な加護なのだろう。


 これが現実なら私は、この力を使って今度こそ自分の居場所を守らなくてはならなかった。








「初めまして、お姉さま、どうかよろしくお願いします」


 使用人のシンフォに連れられて玄関へ向かった。

 そこで両親に紹介されて会ったのは一人の少女だ。


 この日、屋敷に生き別れの妹がやってきた。


 一度経験した歴史通りの、妹の服装、妹の様子だ。


 そんな妹となぜ、生き別れる事になったのか。

 それは、不幸な事件が原因とされている。


 妹が生まれた日、病院に人身売買の組織の人間が侵入して、一人の赤子を奪っていったらしい。


 両親は、その赤子が妹だと知った日から、ずっと安否を気にしていた。


 私にも「妹に会わせてあげられなくてごめんね」と何度も謝って、辛そうにしていた。


 だから、両親はやっと一緒に暮らせるようになって嬉しいのだろう。

 早口になって、浮かれた様子で、妹を見つけた時のことを語った。


 妹らしき存在はこちらににっこりとほほ笑みながらしゃべる。


「長い事孤児院暮らしをしていたものだから、マナーがなってないかもしれないけれど、大目に見てね」


 妹は見る人を虜にするような愛らしい笑顔を浮かべながら、お辞儀をする。


 とてもマナーがなっていないようには見えなかった。


 思えば、過去の自分はここで怪しむべきだった。


「ずいぶんと貴族らしいふるまいができるのね」

「ええ、お姉さま達と暮らせるように頑張って勉強したの」


 すると、父と母は感激して、感極まったかの様に涙を浮かべる。

 視線の先で、妹を抱きしめて撫でて褒めていた。


 今すぐこの妹の正体を知らせて、父と母を引きはがしたかったが、それは今ではない。


「お姉さま、これから仲良くしましょうね」

「ええ、こちらこそよろしくね」


 生き別れの妹の名前はユフィ。


 それは未来で、私から全てを奪う人間の名前だ。




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