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3 丸山泰司

主人公以外の視点です。



 僕の名前は丸山まるやま 泰司たいじ

 いつもと変わり映えしない教室で退屈な授業を受けいていたはずなのに、いつの間にか異世界に転移していた。

 その夢のような現実に近くの友達とはしゃぎ合ったのが、もう遠い昔のように感じられる。


 転移の際、よくある俺TUEEEEものではお約束の神様に会うことはなかった。

 そのせいで今のところチートはなし。

 僕らは身ひとつで、この過酷な世界に放り出されている。

 いるなら早く出て来てチートをくれよ神様。


 そんなわけでチュートリアルもなしに転移した僕らは右も左もわからなかったけど、一緒に転移していた小森先生の音頭で僕らは一丸となって街を目指すことになった。

 ……でもそもそも、それがすべての間違いだったんじゃないだろうか。

 あのとき、先生なんか・・・に従わずに仲のいい友達と別行動していたら。

 そうでなくても、先生が決めるんじゃなくて僕らの意思で進む道を決め、違う街にたどり着けていたら、僕らにはもっと別の未来があったんじゃないだろうか。

 今振り返るとそんな風に強く思う。



 皆で和気あいあい、それこそ遠足のように道とは言えないような道を歩いた僕たちは、無事街までたどり着いた。

 しかしそこでは甲冑姿の兵士が待ち構えていて、問答無用で捕らわれてしまった僕らは、これまた問答無用で大きな屋敷に連れていかれてしまった。


 そこで出会ったのは、額から角を生やした大男、剛蓋。

 ……あいつは悪魔だ。


 悪魔は初っ端に、僕ら日本人を歓迎しないとのたまった。

 ろくな街道すら作れない未開の野蛮人のくせに、まったくもって理解できない。

 僕たちがその気になれば、現代日本の知識を駆使してこの世界を変えることだってできるのに。


 そしてさらに驚きなのが、僕らを戦場に送り込むということだ。

 人ひとり斬れない軟弱者はいらないとも言う。

 本当に野蛮人だ。

 しかも女子を無理やり結婚させるとまで言うし。

 もちろん女子は黙っていなかった。

 すると悪魔は、男女平等に鍛えて戦場に送ると言う。


 正気じゃない、と思った。

 女子に戦いなんてできるわけないし、僕ら男子だって戦場なんて嫌だ。


 すると、嫌なら出て行けと悪魔は言った。

 目の前から威圧感満載の悪魔がいなくなり、重圧から解放された僕たちは思い思いに相談する。


 僕は軽くオタク気質で、生まれてこの方喧嘩などしたことがない。

 周りの友達だって同じようなタイプだ。

 僕は彼らにここから逃げようと言った。ここよりはマシだと。剛蓋は信用できないと。

 しかし、彼らは臆病だった。

 外はここより悪いかもしれないと言って、ここに残ると言う。

 僕は焦燥感に駆られたが、ひとりで出ていく勇気はなかった。


 そんな中、三田村くんたちのグループがここから出ていくと言った。

 正直僕も一緒についていきたかったけど、いわゆる陽キャの彼らと軽オタの僕は相容れない。

 ノリが違うからきっとハブられてしまう。

 それはある意味追放系の主人公っぽいのかもしれないが、チートを手に入れられなかったら犬死だ。

 ここから出ていけることに羨ましさを感じつつ、彼らを見送ることしかできなかった。


 しかし、先生は彼らの英断を止めようとした。

 でもキツい言葉を吐き捨てられていた。

 ……そのときは可哀そうと思ったけど、今となってはいい様としか思えない。



 そうして、僕らを戦場に追い立てようとする悪魔による地獄の訓練が始まった。


 まず最初の洗礼、それは悪魔との一対一の立ち合い。

 女子のほとんどが漏らして気絶させられていたが、いざ僕の番がやってきた。

 が、不覚にも僕も漏らしてしまった。

 ……だってしょうがないだろう。

 相手は息するかのように人を殺してるような奴なんだ。

 実際、その殺気はすさまじかった。

 殺気でひるんでろくに動けない体に重い一撃を食らって、意識はフェードアウト。

 強烈な痛みとともに目覚めると、周りには気絶した男子と女子、死屍累々の有様。

 僕以外にも男子の中で漏らす奴がいたのは救いだった。



 それからの訓練も悪魔とその手先によって、僕たちは容赦なく痛めつけられる。

 宣言通り男女平等にだ。

 すると訓練についていけない女子がどんどん出てきた。

 男子でだってギリギリなのだから当然だろう。


 そして、ギブアップした女子が宿舎からいなくなる。

 誰も口にはしないが、きっと悪魔に売られたのだ。

 まあそれでも僕はクラスの女子とはあまり話すことがなかったから、寝取られ感がないのは幸いだった。

 これでもし僕の好きな人、隣のクラスで幼馴染の深山さんが売られていたら、僕は後先考えずに悪魔に斬りかかっていたことだろう。


 そうして結局、残った女子はふたりだけ。

 一ノ瀬さんと間宮さん。

 彼女たちは女なのにタフだった。

 確か剣道部に所属していたんだっけかな。

 全校集会で表彰されてた気がする。


 それにしてもふたりとも外見は可愛いのに、剣を振る姿は別人だ。

 日本にいたときから物怖じしない印象の間宮さんはともかく、一ノ瀬さんは普段はおしとやかなのに、いざ剣を握ると豹変する。

 悪魔の指示で日本人同士で乱取りすることがあるが、一ノ瀬さんとは正直怖くてやりたくない。

 彼女なら平気で人を殺せそうな感じがするのは、僕だけの秘密だ。



 非力な女子に比べて、僕たち男子は誰も脱落していない。

 僕や周りの友達は運動が苦手なのにもかかわらずだ。

 実際、ギブアップしたくなったことは数えきれない。

 でも僕たち男子は誰ひとり脱落していない。

 それというのも皆が皆、特別優れていたわけじゃない。

 音を上げかけた男子が、悪魔に言われた脅し文句のせいだ。


『役に立たない者はいらん。今すぐ戦場に放り込んでやろうか』


 それからは僕たちは何があろうとも、それこそ石にかじりついてでも必死に食らいついている。


 とはいえ、どうしたって優劣はつくものだ。

 かろうじてついていけている、僕をはじめとした普通の男子。

 どうにかついてはいけているが、余裕はない男子。

 それに比べて、明らかに頭一つ飛びぬけた才能を見せている二人の男子。


 武藤くんと関谷くん。

 武藤くんはサッカー部だったからわかるけど、関谷くんは帰宅部だった。

 なのになぜ。

 もしかして彼だけは神様に出会って、チートをもらっているんじゃないのか。

 そう内心では思っているが、彼とは親しくないので問い詰めることはできないでいる。


 そもそも、彼はクラスでもどこか浮いた存在だった。

 いじめられてはいないけど、誰とも親しくなさそうだし、こちらから話しかければ話しはするが、向こうから話しかけてくることはない。

 空気のような存在、いわゆるぼっちだ。


 そんな彼にこの世界でも元の世界でも、武藤くんはよく話しかけている。

 まあ武藤くんは僕たち男子にはもちろん、数が減って気まずくなった女子にも積極的に話しかけているから不思議ではないか。


 彼ら二人と女子二人を加えた四人が上位陣だ。

 そして、悪魔はなにかとこの四人を優遇している。

 平等に扱うと言ったくせに矛盾している。

 やっぱり悪魔は悪魔だった。



 そうして今日も傷だらけの上に疲れた身体を引きずって宿舎に戻ると、待っているのは夕食だ。

 僕らの前に、先生が異世界人の女中とともに膳を運んでくる。

 ……訓練で痛めつけられている僕らに対し、いなくなった女子同様、早々にギブアップしたくせに呑気に飯炊きなんてやっている先生が妬ましい。


 飯を食べながら外を見ると、日が沈みかけている。

 この未開の世界で、僕らは原始的な暮らしを強いられている。

 日の出とともに活動し、日が沈むとともに就寝する。

 まるで獣になった気分だ。


 異世界人の女中は僕らが食べてる間に帰ってしまうので、後片付けは先生の役目だった。

 最初は僕も手伝っていたが、最近は手伝うことなく身体を休めている。

 だって、運ぶのぐらいひとりでやってもらわないと割に合わないでしょ。

 それなのに……まあ女子二人は同性としての付き合いがあるのだからわかるが、武藤くんや関谷くんが手伝っているのが理解できない。


 それよりも、ひっ迫した問題がある。

 それは性欲の処理。

 僕らは健康な十代男子なのだ。

 厳しい訓練も合わさって、性欲が迸って仕方がない。

 最近は昂り過ぎてうまく寝付けないでいる。


 ……自分で発散しようにも、個室がないということがこれほど辛いことだとは思わなかった。

 外で処理しようにも半ば軟禁されてる僕らにそんな時間はないし、スマホにはお気に入りの画像が保存されているが、スマホは電池がもったいないなくて使えない。

 個室もない、時間もない、おかずもない。

 ないない尽くしだ。


 しかも見目麗しい女たちが一緒の部屋で寝泊まりしているのだから、拷問か何かかと思う。

 そんな中、僕はハッと閃いた。

 そうだ、訓練から脱落したくせにのうのうと過ごしている先生がいるじゃないかと。


 この世界では、先生に需要がないことは明らかだ。

 最近では訓練で疲れ切った女子ふたりはよく寝入っているし、ここは先生をちょっと脅して、パパっと抜いてもらおう。

 おかずがないと自分じゃ出せる気がしないけど、先生みたいな美人だったらきっとすぐだ。

 そうだ、そうしよう。

 もし周りの男子にバレても口裏を合わせればいい。

 そうだ、役立たずなんだからこんな時くらい役に立てばいいんだよ。

 僕らが痛い思いをしているんだから、それくらいはするべきだ。


 それにあの悪魔も売り先がなくて持て余しているようだし、そもそもこの世界は男尊女卑な世界なんだ。

 きっと許される。

 そうと決まれば日が沈み切って皆が寝静まるのが待ち遠しい。

 ハハ、僕って天才かもしれないな!





 茹だった頭でそんなトチ狂ったことを考え頬が緩んでいる丸山泰司は、その締まりのない顔をじいっと観察されていることに終ぞ気づくことはなかった。


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