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2 過酷な訓練


 戦に向けて訓練を受ける俺たちだが、訓練は過酷だった。

 某軍曹によるブートキャンプのように口汚く罵られることこそないが、キツい筋トレに実戦さながらの打ち合い。

 それこそ現代なら100パー虐待認定で、P〇Aが黙っていないだろう。

 しかし、ここは異世界。

 当然のごとくP〇Aなんてものはなく、異世界には異世界のルールがある。


 剛蓋が事前に宣言していた通り、俺たちは男女平等に打ちのめされた。


 まず最初に小手調べとばかりに、木剣を手にした剛蓋との一対一の立ち合いから訓練は始まった。

 防具を着こんでいるとはいえ、目と鼻の先で対峙する大男。

 そのヤ〇ザも裸足で逃げ出しそうなあまりの気迫に、漏らす奴が続出。

 ほとんどの女子が漏らし、男子の中でも漏らす奴が出た。

 そして防具越しとはいえ、容赦なく木剣で腹部を打ちのめされて悶絶or気絶するのが、漏れなく全員が通った通過儀礼だった。


 それからも、剛蓋や配下の兵に情け容赦なくぼこられる毎日。

 いや、情け容赦ないは言いすぎか。

 命懸けの戦に駆り出されるのだから、この厳しい訓練は逆に有情だろう。

 どれだけ痛くても、再起不能になるような怪我は負わされていないわけだし。



 そうして半月が経過した現在。

 俺たちが寝泊まりしている宿舎には、暗い雰囲気がどんより漂っていた。

 辛い訓練や敷地外へ出ることを禁止されていることが大きな理由ではない。


 今日も訓練を終え、手拭いで生傷の絶えない身体を拭いた俺たち15人・・・は、剛蓋に用意してもらった寝巻用の和服に着替えると、誰もが無言で用意された飯を黙々と食らう。

 膳に乗せられた食事内容は、白米に味噌汁に肉か魚の主菜、色とりどりの副菜。

 毎日きつくしごかれはしても、働いていない俺たちは只飯食らいだ。

 とはいえ、身体が資本であるし、飢え細らせるのは向こうも本意ではないのだろう。

 おかわりだってできた。


 それにしても、異世界でもほとんど日本食と変わらなかったのは有難かった。

 脂っこいものはなかったが、味噌と醤油がある。

 日本人にとってのソウルフードであり、食は命の活力源。

 慣れない海外生活で辛いのは、合わない食事と通じない言語というが、その点だけ見ればこの異世界転移は恵まれているといえた。

 書きはどうだかわからないが言葉は通じるし、飯だって現代人としてはちょっと油分が足りない気がするが、うまい部類に入る。


 それでも空気が重いのは、今ここにいる人数のせいだ。

 転移時点で40人いたクラスメイトだが、初めに抜けた14人(内訳は男8に女6)を除いた26人(内訳は男12に女14)が訓練開始時にはいた。


 しかしそこから訓練を受ける現在、男子が変わらぬ12人に対し、女子は2人しか残っていない。


 一ノいちのせ ひかり間宮まみや 花凜かりん

 元いた世界ではおしとやかながらどこか抜けてる星に、さばさばした姉御肌な花凜。

 幼少期からの付き合いらしく二人はいつも一緒、親友の間柄だ。


 そんな二人の共通点は、剣道部に所属していたことと、星の実家が剣道道場を営んでいるらしく、二人とも全国レベルの腕前だったこと。

 つまりは、戦うための下地があらかじめあったのだ。


 しかし、その他の女子は訓練についてこれなかった。

 たしかに下地のある星と花凜だが、自身も厳しい訓練についていくのが精いっぱいで、他の女子の面倒を見る余裕などはなく。

 歯が抜けるように、ひとりふたりとギブアップする女子。

 そしてギブアップしたが最後、その日を境に宿舎から姿を消していく。


 ギブアップした女子連中の行き先は、俺たちには明かされていないが……残された面々は口にこそ出さないが察してしまった。


 ちなみに早々にギブアップした萌香先生。

 先生はおっとりとした見た目通り、運動音痴だったのだ。

 が、どんなに外見が綺麗でも、この世界では社会的信用のない未婚の女に引き取り手はないらしく、宿舎でおさんどんなんかをしている。

 元の世界を基準に考えれば相手を選べる立場であり、高嶺の花だったであろう先生。

 しかしこの世界では……うん、まあ、未来は暗そうだ。


 そんなわけで宿舎に残る15人のうち、ひとりは先生ということになる。

 つまり男と女の比率は12:2。

 男女比がずいぶん偏っているが、それも当然だろう。


 思いつかないようなら、男と女が文明の利器に頼らない戦争をしたらどっちが勝つか考えてみればいい。

 中には男に勝る女がいるかもしれないが、その数は圧倒的に少ないのは目に見えている。

 男と女では、身体のつくりが根本的に違うのだから当然だ。

 99パーセント男が勝つだろう。


 そもそも女にはどうしたってハンデがつきまとう。

 月のものはあるし、妊娠だってある。

 どうしたって満足に戦えなくなるときは訪れるだろう。


 それを二人はどう考えているのか。

 下世話にも多少は気になったが、聞く気はない。

 たいして親しくないし、なるつもりもないから当然だな。



 まあそんなわけで、宿舎内は暗い雰囲気が漂っているのだが、正直俺はそれほど引きずっていない。

 だって女子はまだマシな方だろう?

 望んだ相手ではないにしても、家庭に逃げることができるのだ。

 俺たち男の場合は逃げ道がなく、今のところ戦場に赴くしか生き残る道がないのだから。


 それにいなくなった奴らだって、最初に剛蓋が言っていたことが真実なら、責任もって相手を見繕ってもらえるのだ。

 俺の中では有象無象のクラスメイトよりは、剛蓋の方が信頼度が高い。


 なにせ男尊女卑の世界――あくまでこの狭い範囲で確認された限りという注釈はつくが――とはいえ、剛蓋やその配下たちの萌香先生や残った女二人、あとは宿舎に通う女中への対応から見る限り、極端に女を見下しているわけでなく、あくまで家庭に入るのが女の最適な役割と捉えている印象だからだ。

 そこに悪意や侮蔑の意図は感じられない。


 勘違いしてはいけないのは、この世界での異物は俺たちの方で、俺たちには世界を変える力はないということ。

 だからこそ気づいたことがある。

 女性の社会参画は、長い年月をかけて培われた先人の血と汗と涙の結晶ということ。

 そして、その恩恵に生まれてから当たり前のように浸っていた俺たちは、それがどれだけ大変なことなのかに気づけていなかったのだということを。




 雰囲気どん底のまま飯が食い終わると、男子連中が思い思いに行動し始める。

 横になったり、ぼそぼそと談笑したり様々だ。

 そんな中、食器を片すのはおさんどんとして置かれている先生の役目だった。

 女子二人と一部の男子が手伝うが、日に日に手伝う男子の数が減っている。

 それもそのはずで、先生は辛い訓練をギブアップした身であるため訓練には参加しておらず、打ちのめされていないのだから。


 かくいう俺はというと、武藤に引きずられる形で手伝っていた。

 武藤は男子連中はもちろんのこと、女子にも先生にも紳士的に振る舞っているザ・ヒーローだ。

 この一団の要といっても過言ではないだろう。


 その点、俺は武藤に請われれば動くが、基本的には誰に対してもさほど興味はない。

 とりあえず今は、武藤と先生に恩を売るつもりで動いてるくらいか。

 食器を片すのを手伝うくらいたいした労力でもないしな。

 それで信頼を買えるなら安いものだろう。


 さて、食器も片し終えると途端に暇になる。

 食後といえば風呂に入りたくなるのは日本人だからか。

 しかし、この世界にも風呂はあるようだが、俺たちは入れていない。

 この世界は電気やガスがないうえに、ファンタジー世界にありがちな便利な魔法具もないようなのだ。

 ということは、それだけ労力が必要になるということ。

 いまだ只飯食らいの俺たちが使わしてもらえないのも納得できる。

 まあ女三人は釈然としないようだが。



 食後の習慣として、竹でできた歯ブラシのようなものと塩を使って歯を磨くと、あとは寝るしかなくなる。

 電気がないので日が沈むと光源がなくなるし、蝋燭も只ではないため風呂同様に俺たちは使えない。


 そして寝る場所だが、個室なんてものはなく、そう広くもない部屋に雑魚寝だ。

 しかも男女平等・・・・なので、先生と女子二人も一緒にだ。

 男と一緒の空間で夜を明かすことにクラスメイトとはいえ初めのうちは警戒していた三人だが、最近では慣れない生活によるストレスと訓練による疲労とで警戒も薄れてきていたように感じられる。


 だからなのか、はたまたそれを意図的に狙っていたのか。

 どちらにせよ、その夜、初めての問題が起こった。


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