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1 異世界クラス転移

ノクターンで書いている作品の全年齢版です。

不定期ですがこちらでも投稿させていただきます。


 担任教師による現国の授業の最中、突如何もない荒野に放り出された俺こと関谷せきや 健司けんじと2年A組の生徒たち。

 思い当たるのは異世界転移。

 実際に体験してみるとなんとも摩訶不思議な現象だったが、それよりもクラスメイトたちが口々にわめく声がひどく鬱陶しかった。


 それでも一緒に放り出された担任教師のおかげで人里を目指すことになり、運よく徒歩一時間圏内に街も見つかった。

 が、クラスメイト一同40名+教師の移動はどう贔屓目に見ても悪目立ちしていたわけで。

 当然のごとく、街の外に待機していた武装した兵士に捕まり――名目上は保護ではあるが――大きな屋敷に護送されてしまった。


 そうして現在、屋敷併設の板張りの道場にて。

 床に座らされた俺たちの前には、藍色の和服に身を包んだ岩のように厳めしい大男が立っていた。

 しかもその腰には大男にふさわしい大刀を携えているため、よりいっそう物々しさが増している。


 そして異世界に転移したことを確信したのは、男の額に生える角。

 元いた世界では鬼と呼ばれてもおかしくない姿形だ。


 その異世界然とした姿を見て不安を感じたのか、小声でざわつき出すクラスメイトたち。

 いちいち騒ぐんじゃないと思うのは俺の心が狭いからか、はたまた親しい友達がクラスにいないせいか。


 それにしても、次第にクラスメイトたちの声が大きくなりつつある。

 基本的に、学生は一度騒いだら簡単には静かにならない生物だ。

 全校集会とか最たるものだろう。

 そしてなにより鬱陶しいのは集団になると気が大きくなることだが……まあそれは学生に限った話ではないか。


 そうして収拾がつかなくなる前に俺たちの中で唯一の大人が収めようとするが、それよりも先に、機先を制する形で大男が声を張り上げた。


「異世界よりの客人たちよ! まずは名乗ろう、我が名は剛蓋ごうがい! この藤見ふじみの街を治める東郷とうごう様の名代である!」


 剛蓋と名乗った大男。

 そして、藤見という身近では聞き覚えのない地名。


 鈍いクラスメイトたちも、剛蓋には逆らってはいけないと本能でわかるのだろう。

 剛蓋が話し始めたことで静まり返ったため、剛蓋も声のボリュームを数段下げて話を続ける。


「こうして諸君を保護はしたが、よくぞ来た、とは言わん。なにせ諸君らは招かれざる客なのだから」


 招かれざる客という不穏な単語に再びざわめきかけるクラスメイトたちだったが、


「ゆえに諸君には、一月後に戦場いくさばに出てもらおう」


 戦場という、より物騒な単語に度肝を抜かれていた。

 一言でこちらの度肝を抜いた剛蓋だが、俺たちの方、特に女子の方を念入りに眺めて「その前に」と言う。


「諸君らは郷に入れば郷に従うということわざを知っているだろうか? この世界では、古来より戦は男の仕事。なにゆえ非力な女には向かぬものだからな。

 そして保護するにあたって、只で保護するわけにはいかぬ。ゆえに男には戦場に出てもらうのだが、女には家庭に入ってもらおう。無論、こちらがしっかりと責任持って相手をあてがわさせてもらう」


 責任を持つとは言うが、無理やり結婚させられると聞いてクラスメイト、特に女子から抗議の声が続々上がる。


「家庭に入るって結婚のこと!?」

「はあー? そんなの横暴だし」

「ふざけんなし」


 が、剛蓋は抗議の声を無視して、視線を先頭にいた人物に向けた。


「しかし、お前ひとりだけずいぶん歳が違うようだが」


「っ!?」


 目を付けられたのは、我らが担任の小森こもり 萌香もえか先生。

 28歳のアラサーだがおっとりとした美人かつ、学校内では生徒と歳が近くて理解力があると評判の先生だ。

 そんな先生に対し、現代基準なら失礼極まりない言葉だが、相手が帯刀していたら何も言い返せないもので。


「……わたしはこの子たちの教師でして」


「ふむ、教師とな」


 教師という言葉になにやら感慨深げな剛蓋。


「異世界とは摩訶不思議なものよ。この世界では女の仕事は家庭に入り、家庭を守り、子を産んで育てることが大半。……他の職に就くしかない者も中にはいるが、教師はおらぬ。元の世界に良い相手はおらなんだのか?」


「…………はい」


「そうか……。この世界では未婚であると社会的信用が得られんのだ。覚悟しておいてくれ」


 覚悟とはなんの覚悟なのかはまだわからないが、告げられた先生に代わって女子が物言いをつける。


「信用ってなにそれー」

「信用っていうなら先生はK大卒で頭いいし」

「なにより優しいし」

「ってかおっさん失礼だし」


 が、女子連中をまるで相手にしないのが剛蓋クオリティーである。


「諸君に告げておくが、この世界では女は子を産むために生きていると言っても過言ではない。異世界の常識はさっさと捨てねば長生きできんぞ」


 現代日本人からしたら時代錯誤甚だしい価値観だが、剛蓋の言う通りここは異世界だ。

 しかも相手は帯刀しており、武装した兵士だって控えている。

 無理やり言うことを聞かせようと思えば、聞かせられる立場だ。

 それなのにあくまで理知的にこちらを諭すように説明してくれる剛蓋は、個人的には清廉潔白の好人物だと思う。

 しかし、


「うちらの世界じゃ男女は平等だし」

「おっさんの考えは古臭いっていうか化石?」

「ほんとほんと、いい迷惑だし」


 口々にぶう垂れる女子たちには通じないようだ。

 さすがに剛蓋もキレるかと思ったが、


「そうか、ならば戦え」


「「「え?」」」


「貴様ら女も戦えと言ったのだ。貴様らが謳うように、男女平等・・・・に訓練をつけてやろう。それで一月後の戦場にて、敵兵をひとりでも斬れればひとりの武士として扱ってやろう」


 日本の常識が通じず絶句する女子たちだったが、すぐに反論する。


「そ、そんなの女にできるわけないでしょ」

「そうよそうよ」

「そんなの横暴だし」


 男女平等を謳っている日本の社会だが、それでも男女の差による役割分担がそれなりになされている。力仕事は体格に勝る男の役目だとか。

 その点、この世界は剛蓋を見ればわかるように混じりっけなし、完全無欠の男尊女卑の社会である。


「そうか、それが無理ならば無価値に死ね。人ひとり斬れぬ男も同じく価値なしだ」


 どこまでも女に容赦がない。

 そして、男子にはデフォルトで戦場に赴くという選択肢しかない現実に背筋が痺れる。

 俺同様、その事実に気づいて怖気づくクラスメイトたちの顔が実に滑稽だ。


「――とはいっても嫌々従わされるのは諸君らも業腹だろう。これより一刻猶予を与えるゆえ、周りの者とよく相談せよ。我が保護案が気に入らずここから去りたいと言うのならそれもよかろう。即刻どこへなりとも行くがよい」


 そう言って席を外した剛蓋。

 それを合図に、クラスメイトたちは堰を切ったかのように大声で相談し始めた。


 そんな中、俺は誰とも話さず、ひとり頭の中で置かれた状況を整理する。

 この男尊女卑極まる世界は、弱肉強食の世界でもありそうだ。

 たとえここで剛蓋の手の上から逃れたとして、待っているのは辛すぎる現実だろう。

 だというのに、現実を受け入れられない複数のグループ、学内ではスクールカースト上位に属する奴らは決断してしまう。


「行こうぜ、こんなとこにいられっかよ」

「そうそう、俺が現代知識でチート無双してやんよ。見てろよあの野蛮人」

「さすがタクヤ、超かっこいいし」


 ぞろぞろと出ていこうとする男女たち。

 しかしそこへ、大人として責任感を発揮した萌香先生が立ちはだかった。


「待って、三田村くんたち。ここがどんな世界かもまだよくわかっていないのに、そんな軽はずみな行動は――」


「うるせえよ、なんの役にも立たない先生は黙ってろよ」


「っ」


「ナオヤ言いすぎだし。でも実際そうだからフォローできないっていうね、キャハハハ」


 そう言って彼ら――男8人、女6人――は緊張感のかけらもなく、高笑いしながら去っていった。

 俺を含め、残った生徒たちは静まり返っていたが、


「せ、先生気にすることないよ」

「そうそう、あいつら学校でもいつも自分勝手で、ほんと最悪だよ」


 ショックを受けた萌香先生を慰める女子たち。

 しかし異世界が相手ではなにもできそうになく、さらには教え子たちにこき下ろされた先生は打ちひしがれているようで、慰めは効果を発揮していないようだ。


 そうして出ていく奴が出ていって残された時間、思い思いに各自会話に励んでいるのだが、やはり俺は特に誰と話すでもなくじっとしていた。

 いつも通りのぼっちだ。

 しかし、


「お前は逃げないのか、関谷」


 横から話しかけてきたのは、武藤むとう 大地だいち

 サッカー部に所属している足の速い奴で、昔から相手から話しかけられなければ話さない俺に対し、割とよく話しかけてくる奇特なクラスメイトだ。

 俺としては、スクールカースト上位に位置するであろうこいつがあいつらと出ていかなかったことが不思議なのだが。

 それよりも、俺が逃げない理由は簡単だ。


「俺らみたいな平和ボケした日本人が、こんなリアル修羅の世界で生きていけるわけないだろ」


「違いない」


 苦笑する武藤は、ポケットからスマホを取り出した。

 突然異世界に放り出された俺たちだが、身に着けていた制服と所持していた物品は持ち込めている。

 武藤のスマホは俺と同じく、しっかり電源が落とされているようだ。


「肝心のスマホも圏外で役に立たないっていうのに、どうやってチートする気なんだあいつら」


 本当だよ。

 現代日本じゃなんでも答えてくれるggr先生はいないってのに。


「まあ訓練つけてくれるらしいし、一月後までに強くなればいいんだ。正直人を斬れるかどうかはまだわかんねえけど、それでも多少選択肢はできるだろ」


 そんなことを笑って言う武藤。

 実に前向きで好ましい。


 俺はこれからどうなるにせよ、できる限りこいつとは仲良くしていきたいと思った。

全年齢版なので内容はノクターンよりも必然的にマイルドになります。

それに伴いストーリーも変わってくるかと思われます。

お付き合いいただければ幸いです。

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