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自殺志望の私

 この手の話は定番中の定番ですが、オブラートに包んでみました。


(生きているのが辛い、そう思い始めたのは、いつからだろう)


 私は、また先輩に叱られた。


「咲さん、あなたは何度言ったら分かるの。これはこうじゃないでしょう、こう!」


 具体的な説明は、相変わらず一切無しのジェスチャーで、先輩は私に接客応対を教える。


(・・・どこが、どう違うか分からん)


 そう思って何がいけなかったかを尋ねると、自分で考えなさいと言われる。

 結局、原因が分からないので、また同じミスを繰り返す。

 ある日、先輩が私にキレた。


「何故、分からないの、あなたは準備が出来てないのよ。それをやるには準備と知識が必要なの。あなた二年目でしょ、そろそろ分かりなさい、もっと考えなさい!」


 と、小言を職場のみんなを前にして、ぐちぐちと言われる。


(個室でやってよ・・・恥ずかしい)


 もう、これはパワハラじゃないですかと、逆ギレする勇気も無いし黙っていたら、先輩は一時間以上も説教を続けた。

 私はさすがに、情けなくて、恥ずかしくて、思わず涙が出た。

 周りがざわつきだす。


「・・・泣けばいいと思って!もういいわ」

 

 と、私は捨て置かれた。

 私は呆然と立ち続けた。

 針の(むしろ)とはこの事、周りの視線が痛くて仕方がない。

 ちょっと憧れていた先輩が、今は憎くて嫌でしょうがない。


 私の名前は、花野咲(はなのさき)、20歳。一二三(ひふみ)銀行に勤めるOLだ。

 高校を卒業し、就職して2年、それなりに一生懸命、仕事をやってきたけど、もう限界だ。


 そんな私に追い打ちをかけた出来事が、昨日起きた。

 高2から付き合っていた彼と別れたのだ。

 原因は仕事の愚痴ばかり言う私に愛想をつかしたそうだ。

 だけど、私は知っている、アイツが浮気をしていた事を、スマホにロックをかけていない

アイツの危機管理の無さには驚くが、それだけ私に気を許していたこともあるのだろう。

 

アイツが寝ている時に、ふいにスマホを手に取ってしまった。

 多少の罪悪感を覚えながらも、ラインを見てしまった。

 そこには女との生々しいやりとりが、見なきゃよかった。

 アイツにそれを問い詰めることもなく、ずっとモヤモヤしたものを抱えていた。

 

 だから、アイツが別れを切り出した時、


「ああ、そうですか」


 と、乾いた目で言ってやった。


 別れるのはいいが、マジでタイミングが悪すぎる。

 曲がりなりにも、アイツを支えに生きてきたのもあったし・・・。


「もう、どうでもいい。死にたいや」


 私は呟いた。


 私は通勤前の行きの駅で思い、帰りの駅でも、ずっと考えていた。

 特急列車が、この駅を通り過ぎるとき、ここから飛び降りたら、


「きゃあああ!!!」


 女性の悲鳴があがった。

 周りが騒然となる。

 隣のホームで私と同じ考えの人がいたらしい。

 電車に飛び込んだようだ。


 電車の飛び込み自殺をすると、身体がバラバラになるらしい、友人の坂下君が怪談話で言っていたのを、ふと、思い出した。


 だから何?死ぬ人間には関係ないだろう。残された人達は、まぁいろいろと大変だろうけど・・・今日はやめとくか、私は駅を後にした。


 朝の駅ホームでは思い留まるも、帰りは心がボロボロの私は今日こそと、心を決める。

 走ってきた電車に飛び込み、後は楽になるだけだ・・・。

 ホームの白線に立ち、飛び込むタイミングをうかがう。

 列車が来た。


(今だ!)


「花野さん」


 後ろで声がした。


「あれっ坂下君」


 かつての同級生、友人の坂下君がいた。


「今から帰り?じゃ、僕と一緒に帰ろうよ」


「・・・うん」


 私はタイミングを見失った。


 次の日の朝が来た。


(やっぱり私は・・・)


 朝の駅のホームに立つ。

 覚悟は決めている。

 列車がホームに滑り込む。


(よし)


「花野さん」


「坂下君・・・」


「出勤、だったら一緒に行こうよ」


「・・・うん」


 私は、また死ねなかった。


(あれっ、坂下君の家って・・・確かこの駅近くじゃなかったよね。就職して近くに引っ越したのかしら?)


 その日、私は珍しく先輩に褒められた。

 今日はやめておこう。


 次の日は、周りから褒められた。

 まぁいいか、いつでも死ねるし。


 また次の日もいい事があった。

 少しずつ前向きになる私。


 それから、私は死にたいと思わなくなった。

 そう思わなくなった日、元カレから電話があった。

 電話の内容は、ヨリを戻して欲しいとのこと、私は虫の良すぎる話だと、彼の浮気をぶちまけた。彼は平謝りで別れたから、もう一度やり直そうと言いだした。断る理由はなかったのでいいよと伝える。

 元カレが彼に戻った。


 話のついでのように彼が言いだす。


「咲、坂下、知ってるよな」


「ええ、この前あったわよ」


「・・・ん?そうか五日前、あいつ死んだって、電車に轢かれて自殺だって」


「・・・・・・」


 私はスマホを持つ手が震えた。

 じゃあ、4日前にあった坂下君は一体・・・。


 この定番の話は、苦手です。

 だいたいの事は時が経てば解決します。

 そういうお話ですね。

 次回もよろしくお願いします。

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