4番ホームの怪
駅怪談の定番ですね。
(よくある怪談だな)
俺は友人の話を聞きつつ、そう思った。
興が乗った友人は、周りを怖がらせる為に、声のトーンを下げ、話を続ける。
「その四番ホームだけど、夜中の一時半・・・忽然と現れるんだ。その電車に乗ると・・・あの世に連れていかれるらしい」
女子が悲鳴をあげる。
(はい、はい)
定番の怪談に、心の中が白けていた。
俺の名前は新藤星々(しんどうきらら)17歳のキラキラネームの高校二年生、趣味は都市伝説。
テレビやYouTube動画のこの類のチェックはかかさない。
最近、俺もYouTubeチャンネルを立ち上げ、仲間と動画を上げている。
でも、所詮素人動画100視聴あればいい方で、一桁台の動画がザラだ。
作った動画は部屋内でよくある対話形式のありふれた怪談やホラー話をしているので、やっぱりちゃんとした動画には敵わない。
俺たちは起死回生、YouTubeでバズる為に、秘策を用意した。
そう、四番ホームの謎に挑む実況動画をするのだ。
友人の話は白けたが、実際にその時間帯に駅に行き、実況動画を撮ればかなり迫力の
ある物が撮れるだろう。
しかもリアルな実況動画、何もなかったとしても、それなりのものが撮れるはずだ。
俺は跳ね上がる視聴件数とチャンネル登録数を期待し胸を膨らませる。
・・・しかし、前日になって、仲間達は怖気づき誰も行かないと言いだした。
なんて、意気地のない奴らだ。
「俺は一人でもやる」
俺の決心は固い。
仲間は口々にやめておけと言った。
その日の夜、24時になると、俺は家をそっと抜け出し、駅へと向かう。
仲間の一人からラインが届く。
「冗談だろ。行ってないよな」
「・・・冗談、何が」
と強気に送り返してやった。
駅近くのコンビニではやる気持ちを抑え、100円コーヒを片手に、カフェスペースでスマホをいじる。
何度もYouTubeのリアル実況動画録画方法を確認する。
その間も友人からラインが届いたが、既読スルーしてやった。
俺の決心は揺るがない。
20分前に駅へ向かう。
深夜の駅は思っていたより、不気味だ。
外灯はあるものの薄暗い。
ロータリーを抜け、駅に着くと、録画を開始した。
「はい、新多辺(しんたなべ、新藤、大多和、田辺の動画仲間の一文字を取っている)の怪奇チャンネルへようこそ、今回は地元の駅で噂される怪談、四番ホームの謎に迫りたいと思います」
(いいぞ、俺、淀みなく言えている)
俺は密かに手ごたえを感じた。
「うちの駅、普段は三番ホームしかありません。しかし!真夜中の一時半になると、忽然と四番ホームが現れるという、まことしやかな噂があります。今回は、それを俺が検証したいと思います」
俺は喋りながら、駅の鉄鎖をくぐる。
「今から、改札を抜けます。ひょっとしたら警報器が備えられていて鳴るかもしれませんが、出来る限り続行していきます」
深夜1時22分、俺は覚悟を決めて、改札をくぐる。
運よく、警報はならなかった。
実況を続けながらも、スマホの灯りを頼りに、渡り階段をのぼる。
普段はのぼり終えると、すぐ2、3番ホームの階段がある。
いつもはその先なんて・・・あった。
俺は全身が凍り付く。
だけど、後には引けない。
「えー、信じられません!四番ホームにつながる階段がありました!勇気を出して行ってみます」
俺は一気に四番ホームへの階段を駆け降りた。
息があがって声がでない。
空気を吸い込み、息を整えた。
「ついに、着きました。四番ホームです。到着する列車に乗るとあの世に行くという・・・」
「こらっ!こんな時間になにしている!」
(やべっ、見つかった)
駅員が恐ろしい形相でこっちを見ている。
「早く、戻れっ!早く!」
駅員が叫ぶ。
俺はスマホを見た、時刻は1時29分、もうすぐだ。
「早く、早くしろっ!」
駅員は狂ったように叫び続けた。
「もうすぐ、四番ホームに列車が・・・」
「オマタセ、イタシマシタ、マモナクトウチャクイタシマス」
駅員は片言になると、俺の首を掴んだ。
その手を離し、逃げようとしたが、駅員に後ろ襟首を掴まれ、ものすごい力で引っ張られた。
「離せ、離せ!」
「オマエイク、イク!」
四番ホームに列車が止まる。
俺は引きずられながら叫ぶ。
「やめろ、ヤメロ!」
「モウ、オソイ」
俺は四番ホームの電車に乗せられタ。
ダガキット、ドウガヲミタ、ナカマガ、キット、タスケテクレル・・・キット。
新藤が撮影した実況動画は公開されていなかった。
後に発見されたスマホには、ラインのやりとりだけで、動画はなかった。
本人が撮影のボタンを押すのを、忘れたのかそれとも・・・。
彼は一体、どこに行ったのか。
よくある怪談の一つですね。
本当にあるなら怖い話です。
駅のホームが増えるって、でも実は自分が増えたのを忘れていたかも(笑)、って、オチもありますね。
次回もよろしくお願いします。




