オタクの聖駅
聖なる駅と書いて、聖駅と呼ぶ。
ついに待ちに待った日がやって来た。
ボクは玄関先で、宅配便さんが来るのを心待ちにしていた。
緑と黄のトラックが止まった瞬間、ボクはトラックへと走り、商品を受け取った。
宅配の兄ちゃんが、苦笑していたけど、そんなのは気にしない。
家の玄関の中に入ると、ボクはお面を脱いだ。
ボクは矢内聖35歳の独身だ。
ちょっとぽっちゃりでぼっちで、世間ではニートのオタクなんて呼ばれているけど気にしない。
だって、家は金持ちだもん。
ボク一人がいくら、お金を使おうと、金持ちのハパはいつも許してくれる。
お前は家の中にいるだけでいいんだってね。
ママは、ボクと目を合わそうともしない。
聖はいい子だからお家にいなさいだって、いつまでも子ども扱いしやがって、目も合わせられないママが偉そうなこと言うなよ。
おっと、いけない、外に出たことがバレたら部屋に閉じ込められてしまう。
ボクは世間一般には引きこもりだけど、コンビニだっていけるし、アキバだって行こうと思ったらいける。
言うなればハイブリットな引きこもりなのさ。
一人の時間が長いと、こう誰かに話しているような妄想さえ、リアルに出来る便利だろ、だから人付き合いなんかいらない、欲しくもない。
そうそう、これだ。これっ!
ボクは自分の城(部屋)に駆け込むと、梱包された箱を力任せに破った。
「じゃ、じゃーん、2D(二次元)ゴーグル!」
ボクは誰もいない部屋でドラえもん風に言ったよ。
もちろん声優は、水田わさびさんだ、ギリ大山世代ではないからね。
これをつけると、たちどころにリアルな人間が、たちまち2Dの萌え萌え、きゃわいいキャラになるんだ。
こいつのいいところは、男も女の子に見えるということ、即ちおじさんだって、萌え萌えきゅいんきゅいんになるってことだ。
今、Vチューバーが流行っているよね。
これさえかければ、皆がVチューバーって訳さ。
360°どこを見渡しても、萌えキャラ達に囲まれる、これって凄くね。
これさえかければ、少しは対人恐怖症も直ると思うんだ。
これかけて外に出るのって恥ずかしい?
はっ、ボクはそんなの気にしないね。
これで世界が変わるなら、ボクは見た目なんか気にしない。
「よしっ、早速試そう」
ボクは階段を降りて、台所に行く。
ゴーグルには萌えーで、きゃわいい二次元ウサギっ娘が、こっちにむかって、指をたて喚き散らしている。
おそらくママだろう。
こいつはすごい、声まで萌え仕様にしてくれるのか、ゴーグルの端には声が選べるようになっている。
ボクは大好きな声優、マコたんに切り替える。
萌えー、怒り狂うボイスサイコー、マコたんサイコー。
しかし、本当に五月蠅いな。
でも、ボクはもうママは怖くない。
近くにあった果物のはっさくを僕は掴むと、ウサギっ娘の顔面めがけて思いっきり投げた。
ウサギっ娘は血を流し倒れた。
すげーリアル、再現度、半端ねー。
ボクは、もう自由だ。
家を飛び出す。
どこを見渡しても、ボクの大好きな世界が広がっている。
ボクはもう何も怖くない。
(そうだ駅へ行こう・・・ここら辺で一番、人が集まるのは駅だ。駅でもっときゅんきゅんしよう)
ボクは、音声と集音ボリュームを最大にあげる。
ひそひそ話も聞こえる。
(えっ、キモイって・・・)
二次元の住民のくせして、許さん。
ボクは耳の長いエルフの娘に生まれてはじめてのパンチをお見舞いする。
「ぐはっ」
エルフはマコたんの声で倒れた。
ちらっとゴーグルをずらすと、オッサンだった。
オッサンなら仕方ない。
ボクは気にしないことにした。
駅に着くと、そこはまさに二次元の聖地だった。
いや、聖駅だ。
夕方の時刻ともあり、大勢の萌えキャラ達が歩いてる。
まさにパラダイス、夢の場所だ。
駅の階段をのぼりホームを目指す。
すると、ついに発見したボクが探し求めていた二次元キャラ。
「萌え萌えきゅんきゅん!愛しの姫さま、世界を制す」のメグたん(cv.マコたん)似の美少女萌え萌えキャラだった。
彼女とすれ違う瞬間、ボクは咄嗟に振り返る。
その時、ボクは足を踏み外して、階段から転げ落ちる。
頭を打ちつけた。
すげー痛い。
死にそうだ。
身体が動かない。
駆けつけて来たのは、メグたんだった。
ゴーグルが壊れて、半分だけオッサンの姿が見えた。
ボクの世界が消えた。
そしてボクも。
もう、気にしない。
聖駅って、ちょっとヒワイ(笑)ですかね。
今回はオタクさんの話です。
だいぶ、振り切って書いていますが、大方のオタクさんは健全ですよ。
次回もよろしくお願いします。




