三、ループ
三番目の選択は・・・。
俺は、悪酔いを醒ます為に、駅のベンチで休んでいた。
目を覚ます。
腕時計を見た時刻は23時、終電を逃してしまった。
(仕方ない・・・)
俺は駅のターミナルに出ると、一台のタクシーをおさえ後部座席に乗り込む。
「・・・どちらまで」
陰気な感じのタクシードライバーが、俺に声をかける。
「・・・駅まで」
俺は彼に行く先を告げる。
タクシーに乗り込むと、やはり眠気が襲ってくる。
車の車窓に肩ひじをついて、外を眺めていたら、いつの間にか寝てしまった。
30分くらい経っただろうか、目を覚ました俺は車窓を見る。
時間的にとうに、この町を過ぎてもおかしくない頃なのに、車窓の景色は会社近くの道を走っている。
「ねぇ、運転手さん、もう、結構走っているよね」
俺は尋ねた。
「そうですか、まだ出発したばかりですよ」
(そんなもんか・・・)
俺は別に気に留めず、またウトウトしだした。
しばらくして、また目を開ける。
車窓はさっきと変わらない景色だ。
俺は、まさかと声をかける。
「運転手さん、まさかメーター上げようとして、わざと遠回りしてない?」
「私が、そんな事する訳ないでしょう」
運転手はぶすっと憤慨して言った。
(いや、俺、アンタ知らんし)
「そうですか」
「そうですよ」
車内が沈黙に包まれる。
車は夜の街中を走る。
(やっぱり、おかしい)
「運転手さん、さっきから同じところをぐるぐる回っていない?」
「・・・そう・・・思いますか、おかしいなぁ~」
運転手もようやく違和感を覚えているようだ。
俺は目を凝らし、車が途中で曲がって引き返していないか確認する。
・・・車は駅のある町を抜けたかと思うと、また駅の周辺を走っていた。
(こんな事があるのか・・・)
俺は血の気が引いた。
「・・・運転士さん」
「・・・ええ、戻りましたね」
運転手も気づく。
「違う道を」
「わかりました」
しかし、結果は同じだった。
どんな道を使って抜けようとしても、同じ場所へと繰り返し戻される。
「ループしている」
俺は呟いた。
「ですかね」
運転手は一際、ひくい声で同調した。
俺は腕時計を見る。
信じられなかった時刻は23時40分、それはタクシーに乗り込んだ時間。
時が進んでいない。
すると、さっきまで、無口だった運転手が急に饒舌に喋り出す。
「お客さん、昔このあたりはね、国境でしてね。国同士の戦が絶えなかったそうです。そして或る暑くて寝苦しい夏の夜の日、隣の国の侍が、この村に火を放ち、村人を皆殺しにしたそうです・・・その村の名は確か・・・沙汰目村」
「あ・あ・あ・あ~」
俺は全身の震えが止まらない。
「・・・あなた、もしかして、あの時、運よく一人だけ逃げた村人でしょう」
「・・・・・・」
「私は、ほら、あの時、火を放った侍ですよ」
「・・・いやだ」
「・・・これも何かの縁ですかね。あなたと私、この空蝉の世を彷徨うのも・・・」
「嫌だ!嫌だ!嫌だ!俺は、俺は降りる」
俺は運転手を思いっきり殴りつけると、ドアを無理矢理こじ開け外へ出た。
そこは新栄の駅だった。
(俺は夢でも見ていたのか)
俺の名は田中一喜、26歳しがない独身のサラリーマンだ。
仕事帰りに同僚と酒を酌み交わし21時30分頃、別れた。
某市の新栄町駅から家へ、
一、電車で帰る
二、悪酔いしたので、回復するまで電車に乗るのを遅らす。
三、タクシーで帰る
完
選択の駅は完結です。
次回もよろしくお願いします。
話のネタがでてくるかな?




