簗川(やながわ)駅
これにて完結です。
小雨煙るある日、私は水郷そして郷愁誘う水の町簗川を訪れた。
あれっ、簗川ってこの漢字であっていたっけ?
私は、駅の看板を見て、小首を傾げたが、まぁ些細なことだろうと歩きだす。
駅の改札を抜け、階段を降りると、寂れた佇まいの川下りの案内場があった。
本来なら、ぶらりと名物の鰻のせいろ蒸しでも食べようかと思ったが、ふいに川下りをしたくなった。
私はふらりと案内場に入った。
中年のおばさんが笑顔で接客してくれた。
だが、その表情は、どこかもの悲しく感じられた。
川下りのコースの描かれた観光マップを貰い、乗船の手続きを済ませる。
ほどなくして迎えのハイエースが案内場の前に止まる。
「いってらっしゃいませ」
女性は慇懃に頭を下げる。
私は軽く会釈すると、車に乗り込んだ。
若い法被を着た船頭の運転で、川下りの乗船場に向かう。
「お客様はどちらから、来られたんですか」
若い船頭が私に尋ねる。
「うん・・・ちょっと、遠いところから・・・」
私は、歯切れ悪く答えた。
「・・・そうですか・・・」
船頭もそう答えたまま、互いに無言となり川下りの乗船場へと着く。
「いらっしゃいませ」
駅で手続きをしていたので、乗船はスムーズだった。
係の人に案内され、私はどんこ舟と呼ばれる川下りの舟に乗り込む。
意外にも客は私一人だった。
中年の船頭が頭をさげて言った。
「お客様、今日は貸し切りですよ」
「そう・・・ですか」
川には白い霧がたちこめ、今だに小雨がぱらついている。
なるほど、誰も来ない訳だ、私は自嘲し笑った。
「では、出発します」
私はレインコートを渡されたが、この小雨だ、着るほどもない。
霧雨煙る中、舟はゆっくりと進む。
周りが霧で霞んでよく見えないが、なあにこれくらいが、私の今の気持ちには丁度良い。
狭い橋、低い橋をくぐる度、船頭は注意かけをしてくる。
そんなのは分かっている。
くもで網という漁師の仕掛け網のレプリカを過ぎると、可愛らしい待ちぼうけの石像があった。
「これは待ちぼうけの像です。本来の歌の歌詞に出てくるのは、農夫なんですが、この石像・・・可愛らしいでしょ。赤ちゃんか子どもかといった様子です」
(農夫・・・そうか、そうだな)
船頭は歌い始めた。
待ちぼうけ 待ちぼうけ ある日せっせと野良かせぎ そこへ兎がとんででて
ころりころげた 木の根っこ
舟は低い橋、城西橋を抜けた。
およそ1時間とちょっとで、船旅は終わる。
舟は片道、観光地で私は降ろされた。
「ありがとうございます・・・また来てください」
船頭が頭を下げる。
(そうだな・・・気が向いたら)
私はこくりと頷いた。
しかし、急に鰻も観光する気も失せたので、私は帰りも、この会社のシャトルバスに乗って駅へ戻った。
私は駅へ戻った。
すると、セピア色の世界が急に色づき始めた。
案内所がおしゃれで小奇麗な建物へ変わっている。
私は歩きだし、階段を昇る。
駅の看板を見た。
柳川駅。
私は薄っすら笑った。
「・・・私も帰らなければなるまい・・・」
すいません。
14~19部、消し方が分かりませんでした(笑)。
これは、このままでということですかね。
脱線して申し訳ありませんでした。
これにて、ホラー語り、完結でございます。




