駅での選択 一、沙汰目(さだめ)駅
駅がテーマのホラーとなると、どうしても定番の話を意識します。
似たり寄ったりにならないよう、オリジナル性を出せていけたらいいなと思っています。
さて、男はどんな選択をとるのでしょう。
仕事帰り、居酒屋で同僚と一杯ひっかけ、ほろ良い気分となった俺は、21時30分頃、同僚と別れた。
俺の名は田中一喜、26歳しがない独身のサラリーマンだ。
某市の新栄町駅から家へ、
一、電車で帰る
二、悪酔いしたので、回復するまで電車に乗るのを遅らす。
三、タクシーで帰る
一、沙汰目駅
俺はどうやら悪酔いをしたらしい、すぐ電車には乗ったが気分が悪い。
幸い22時出発時間とあって、この車両には誰もいなかった。
俺は申し訳ないと思いつつ、長椅子に身体を横たえ、吐き気をおさえる。
すると、今度は睡魔が襲い、ついウトウトしだした。
ようやく吐き気も治まり、半身を起こす。
見れば、いつの間にか前の席に二人、乗客が座っていた。
俺は腕時計を見た。
時刻は22時50分だった。
そろそろ家近くの駅に着くころだ。
俺はぼんやりと、車窓を眺める。
薄暗くてよく見えないが、いつもと違う景色に感じる。
俺は、スマホを取り出し、同僚にラインをする。
「今、帰っている。もうすぐ家」
すぐに返信が返って来た。
「えっ、冗談?」
俺は冗談なんか言っていない。
「何で」
と、返す。
「何でって、今、仕事だぜ」
(!)
俺は衝撃を受けた。
時刻は11時・・・デジタル時計をよく見るとAMになっていた。
しかし、ここは夜だ。
周りは薄暗い。
俺は同僚に経緯を詳細に書いてラインした。
同僚からは、
「とにかく何かあったら連絡をくれ」
と、返事が来た。
俺は気を落ち着かせる為に深呼吸をすると、用心深く車内を見る。
前には、二人の乗客が俯いて座っている。
よく見ると、二人は顔が歪んではっきりしない。
俺は思わず、目を逸らす。
(・・・どうしたものか)
俺は目に手をあて、後ろへのけぞる。
ほどなくして、電車が金切り声をあげて止まる。
そこは無人の駅。
名は沙汰目駅、聞いたことがない駅名だ。
二人の乗客はそこで降りる。
俺も何故かつられてそこへ降りた。
駅名の看板を写メして、
「今、ここにいる」
と、同僚へ送信する。
そうしている内に、二人は足早と去って行った。
外灯が三つほどあったが、内、二つは電灯が消えかかり、チカチカと明滅している。
最悪の雰囲気だが、俺は不思議と恐怖感はなかった。
同僚からの返信がある。
「おい、無断欠勤の挙句、本当に冗談はよせよ。そんな駅ある訳ないだろ。お前の方が知っているくせに」
(そうだ・・・俺は知っている。ここを)
俺は無造作にスマホを放り投げた。
(こんなものはいらない)
みんなの声がする方へ、俺は歩く。
そう俺は、沙汰目村の住人だった。
思い出した。
昔々。
かつて、村を飛びだした。
そして、俺は戻ってきたのだ。
この懐かしい村に・・・。
帰って来た・・・。
ようやく・・・。
身体も・・・。
心も・・・。
俺は闇の中へと消えて行った。
数日経っても、彼は帰らなかった。
彼はいまだ発見されず、行方不明らしい。
彼は今、一体どこにいるのだろうか。
あの時のラインのやりとりは、本当のことだったのだろうか。
有名な都市伝説「きさらぎ駅」をアレンジしてみました。
たぶん、この手の作品は多いかなと思いつつも、外せない話ですよね。
次も良かったら、読んでくださいね。