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Obscuratus  作者: 山本 馨
生い立ち
3/8

♯3 クライマックス

2021/9/24 軽微な修正

レイガルド王国はウルク公爵領。その中の、ある貴族が統治している街。その街は王都から伸びる街道のすぐ脇に存在し、川が付近を流れているために様々な地方の商品が集い、さらに税が他の都市より安いために商人や冒険者、そして何よりも民衆からはかなり好評であった。その街は治めている貴族の名前からあやかって、クロードの街と名付けられた。


クロードの街の大通りに面している鍛冶屋のひとつであるノース工房の一人娘、アビゲイル=ノースはその日、ふと目を覚ました。夜明けにはまだ早い時間であったために、もう一眠りしようとして、


ヒュッ!


窓の外を何かが高速で移動するのが目に入った。


「何、今の……?」


しかし、窓の外を見ても何も異変が無かったために気のせいだと思い、そのまま寝ようとした。だが、一度覚めてしまったがために中々寝付けないでいた。すると――


ヒュッ!


再び視界を何かが横切った。


「見間違い……じゃ、なかった?」


今度は何か分かった。人だ。人が屋根の上を駆けている。

彼女はまた()()が通るかもしれないと思い、しばらく外を見ていた。しかし、その晩は三度通る事はなかった。








次の晩。

アビゲイル──アビィは目を覚ました。夜明けの2時間程前。昨日の()()が何だったのか、確かめるためだ。毎日同じ時間に通るのであれば、今日ももうすぐ通るはずだ。そう思い窓の方を見た次の瞬間。


ヒュッ!


予想が当たった。彼女は急いで動きやすい服に着替え、窓を開けると屋根に上がった。外は肌寒く、毛布を持って来れば良かったと少し後悔した。

辺りを見渡す。いつも活気のある大通りが、こんなにも静まり返っているのがとても信じられなかった。遠くに見える貴族の屋敷が少し不気味に見えた。よく買い出しに行く市場が閉まっているのを初めて見た。今まで住んでいた街が自分の知らない場所であるかのように見えた。


「綺麗……」


そう零すと、


「昼の街もなかなかだけど、夜の眺めも良いだろ?」

「うん……。え?」


不意にかけられた声に、思わず振り向く。そこに黒いフードを被った少年が立っていた。


「あ、あなたは……?」

「うん? 俺が気になって見に来たんだろう?」

「いや、あなたがあの影だというのは何となく察しがつくんだけど……そうじゃなくて……」

「ああ、ごめん」


そう言って少年はフードを取る。

歳はアビィと同じくらい。顔つきは全体的に整っており、短く切られた金髪とよく澄んだ蒼い瞳が特徴的だった。


「俺はウィリアム。ウィルでいいよ。お前は?」

「アビゲイル=ノースよ。よろしく。アビィで良いわよ。で……」

「?」

「なんであなたはこんな時間に屋根の上を走ってるの? それになんであなたはあんな速く走れるの?」

「なんでって……トレーニングのため?」

「何だろう、言葉の裏に『常識だろ?』っていう意味が含まれてる気がする……」

「? 常識だろ?」

「……。まあ、それはさておき、もう一つの方は?」

「魔術だよ」

「魔術? あなた、魔術を使えるの?」

「使えないの?」

「何だろう、またもや言葉の裏に『常「常識だろ?」……人の台詞を奪わないでくれる?」

「それじゃあ、俺はトレーニングの途中だから」

「え、もう行、…………いつの間にあんな所に」


ウィルが遠くで手を振っているのが見えた。そしてそのまま、貴族の屋敷のある方角へ消えていった。気がつくと日が昇り始めていて、後にはアビィと朝日だけが残された。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「魔物狩りに行くぞ!」


部屋に戻るとスティーブが仁王立ちしていた。


「……分かりました。持ち物は?」

「昨日渡した剣と着替え。他は俺が用意してる」

「着替えは何日分ですか?」

「1日分でいい」


スティーブが部屋を出る。時々、スティーブはこうしてよく唐突に俺を魔物狩りに連れて行く。馬の乗り方や野営のやり方を俺に教えるためだ。それは良いのだが、いつも唐突に来るのはやめて欲しいと思う今日この頃。すぐに着替えを済ませ、荷物をまとめ、昨日誕生日プレゼントとして貰った剣と共に持ち、部屋を出る。

1階に降りるとレナさんが朝食を作って待っていた。今朝のタイムを聞き、朝食を摂る。


丁度食べ終わった頃、スティーブがダイニングに入ってきた。


「準備が終わった。行くぞ」

「はい」


屋敷を出ると、既に目前に馬車が停まっていた。2人で御者台に座り、俺が手綱を握る。


「お気をつけて」

「行ってきます」


レナさんの見送りにそう返し、俺は手綱をピシリと鳴らした。




---




向かうは東。レイガルド王国とイルルガ帝国の境にあるラグナリア樹海だ。


ラグナリア樹海はどこの国の領土でもない。

600年ほど前、とても広大で肥沃な土地であるため、近隣諸国がこぞって手に入れようとしたことがあった。しかし、手を出した国々が森の主の怒りに触れてしまい、魔物の大群を差し向けられ悉く滅んでしまったため、現在はどこの国も手を出していない。ただ、よほどのことでない限り森の主の怒りに触れることはないため、今は多くの冒険者が樹海に入り、周辺の町に魔物の被害が及ばないよう定期的に魔物を狩っている。


俺達は樹海の手前にあるリュカの村に馬車を預け、そこから徒歩で樹海へ向かうつもりだ。

リュカの村までは街から4時間程度で着く。現在は丁度中間地点あたりにある関所を通るために列に並んでいるところだ。

村まではあと2時間と少しと言ったところか。朝早くに出たので、遅くとも昼前には着くだろう。


「止まれ」


自分達の番が来たようだ。衛兵が近づいて来る。


「いつもお疲れ様です」


顔見知りだったので声を掛ける。


「ああ、あんた達か。目的はいつも通りか?」

「ええ、樹海まで」

「そうか。一応、荷台を検めさせてもらうぞ」

「どうぞ」


衛兵が荷台の中をざっと見渡す。そして戻って来ると木の札を差し出した。


「……行っていいぞ」

「では、失礼します」


先に進むと別の兵士が立っていたので、木の札と大銅貨1枚を渡す。兵士はそれを確認すると「通れ」と言い、馬車から離れた。




---




関所から2時間程。俺達は村に入り、馬車を預ける手続きを済ませた。


「俺は一旦ギルドに寄って依頼を見て来るが、お前はどうする?」


スティーブがそう聞いてきた。


「適当に村を見て回ります」

「それじゃあ、1時間後にここに集合だ」


そう言うと、俺達は別の方向へと歩き出した。








スティーブと別れ、俺は魔道具を扱っている店を見て回る事にした。


魔道具には大きく分けて2種類ある。職人が魔法を付与したものと、魔力を吸収して自然に魔道具化したものだ。前者は品質が安定していて値段もそれなり。対して後者は当たり外れが大きく、希少性が高い。値段も人工のものよりも総じて高い。


魔道具を扱っている店だと大体両方とも置いてあり、店を回っていると掘り出し物があったりしてなかなか面白い。実際、店を回り始めてからすぐにいくつか面白い魔道具を見つけた。


例えば、今見ているのは定番の火が出る剣。通常は刃の部分から火が出るのだが、これは柄から火が噴き出すという何の用途も無さそうな物だ。他にも、硬いものは面白いほど良く切れるのに柔らかいものは面白いほど全く切れないナイフ、人が履くと重量オーバーで飛べない空飛ぶ靴、デザインは良いのだが着ると透けてしまう服(男物)、 etc……が置いてあった。こんな欠陥品にしか見えない物でも、実は意外と需要があったりする。ネタ的な意味で。


次の店に入った所で、「ほう、これは」と思わせる物があった。見た目はただの茶色い革製の肩掛けカバン。しかし、中にほぼ無限に収納出来るといった物だ。ここまでならまだいいが、問題は不完全な魔法のせいで重さについては普通のカバンと同様、入れたらその分だけ重たくなるという点だ。

人工の物でも同じようなカバンが存在する。しかし、そちらは今手に取っているカバンに比べ容量が少なく、代わりに重さはいくら入れても変わらないという物だ。


そこで、ふと思った。このカバンを人工の物に入れたらどうだろうか? 幸い(?)この店には両方とも置いてあり、金額も両方合わせても十分払える程度に収まっている。


「これ下さい」

「毎度あり」


そして、俺はカバンを2つとも買った。








集合時間より少し早めに戻ってきた。持ってきた荷物は既にカバンに入れてある。カバンインカバンインカバンだ。

少し遅れてスティーブが戻ってきた。彼は俺が買ったカバンを見ると「そのカバンは?」と聞いてきた。俺が事情を説明すると、「じゃあ俺のも頼む」と、荷物を預けてきた。その荷物をしまい、俺達はリュカの村を出発した。








樹海までは徒歩で15分程で着いた。

木が鬱蒼と茂り、行く手を阻まんとする。索敵魔法を使う。魔力を薄く広げるイメージだ。すると早速、魔物と思しき反応を捉えた。数は6匹。反応があった方向を見ると、腕力が発達した真っ赤な目のサル型の魔物が群れでこちらに向かっているのを捉えた。


「3匹ずつ倒すぞ」

「了解」


スティーブの声に短く応え、剣を抜く。


「【水槍(ウォーターランス)】」


宙に水の槍が3本生まれ、それを魔物に向けて発射する。敵の分断が目的なので、あえてギリギリで躱せる程度に調整する。


「グギャ!?」


そこへスティーブが突っ込み、剣を横に薙ぐことで、あっという間に2匹を屠る。残り1匹も次の剣で袈裟切りにした。


それを横目で見ながら俺も突撃する。純粋な剣の切れ味を確かめるため、【身体強化(フィジカルブースト)】は足だけに留める。軽く剣を振るだけで、敵は簡単に一刀両断にされた。残る2匹も魔法で逃亡を妨害しつつ、余裕で倒す。

剣に着いた血を払い鞘に納めると、スティーブが近づいてきた。


「どうだ、切れ味は?」

「最高です」

「そうか。それじゃあ、そいつの使い方について教えてやる」


俺が再び剣を抜こうとすると、


「いや、剣は抜かなくていい」


スティーブがそれを制止した。


「魔力を通してみろ」


言われた通りにすると、


「おお」


鞘がバチバチと帯電し始めた。


「見ての通り、この剣の鞘には雷の魔法が付与されている。

次だ。その状態でそれを前に突き出してみろ」


それだけで察した。言われた通りに剣を前に突き出し、近くの木を狙う。そのまま雷を前方に飛ばすことをイメージすると――


ズガン!


剣から光が飛び出し、木に当たる。そのまま木は倒れた。


「おお」


凄い便利だ。まさか遠距離攻撃も出来るとは……。


「次は剣を抜いてみろ」


剣を抜く。そして、


「魔力を通しながら〝劈開(へきかい)〟と言ってみろ」


魔力を通し、


「〝劈開〟」


剣が中心の線から縦に割れ、1本の両刃の剣が2本の片刃の剣となった。


「おお」


さっきからずっと同じリアクションな気がする。


「戻すときは2本を合わせて、魔力を通しながら〝結合〟と言え」

「〝結合〟」


すると元の1本の剣に戻った。

鞘にしまい、――不意に背後に向ける。


ズガン!


後ろから気配を消して迫ってきた魔物を撃つ。見事に黒焦げになった先程と同じサルの魔物が、ドサッと音を立てながら木から落ちて来た。


「この魔物多くないですか?」

「ああ。今が丁度繁殖期らしくてな。ギルドでも依頼が出てた」

「なるほど」


そして俺達は本格的に狩りを始めた。




---




日が完全に沈んだ。俺達は一旦樹海から出て、野営の準備を始めた。


本日の戦果は相当なものとなった。サルの魔物が172匹、トレントが47体、その他の魔物が114体。これが俺単独の討伐数。スティーブはそれより2、3体少ない程度だ。やはりサルの魔物が多い。

これらの死体を一箇所に集めると、ちょっとした山ができた。ゾンビ化しないように、火の上級魔法【獄炎(インフェルノ)】で一気に焼く。火がだんだん弱まってきたところで薪をくべる。薪に火が移ったのを確認すると魔法の制御をやめる。あっという間にたき火の完成だ。その火を使って簡単な料理を作り、2人で食べた。


水魔法で洗い物を済ませると、スティーブは夜の見張りに備えてさっさと寝てしまった。俺は寝ずに辺りを見張る。何処かで遠吠えを上げる狼の声を聞きながら、時折火に薪をくべ、近くに魔物の気配が無いか探る。


しばらくして、見張りの交代の時間になった。スティーブを起こし、俺は身を横たえる。火のはぜる音や樹海から響く動物の鳴き声を聞きながら、俺は眠りについた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




息子の寝顔を見る。

この時間が何よりも楽しみだ。そう言っていた兄を思い出す。当時は馬鹿にしていたが、今はよく理解できる。


ウィルは年の割にしっかりしている。そう教育してきたというのもあるが、それ以外にも何かがある気がする。まだ子供だからか、教えたことはすぐに吸収する。しかも、それを他の分野と絡めてより発展的な内容を考えたり、時には誰もした事がないような発想をしたりもする。


本当に天才なのでは? と思った回数は数え切れない。親という生き物は皆そうだろう。しかし、どこに()()()()を知った途端に言葉遣いを変える子供がいようか。やはり親バカという言葉では片付けられないのでは、と思う反面、それが親バカというものなのでは、と思う反面、でもやはり親バカという言葉では片付けられないのでは、と思う反面…………と、思考が堂々巡りの相を呈し始める。


バチッ、と火が爆ぜる。火に薪をくべながら、ウィルが将来どう成長するか想像してみる。


たとえば10年後。ウィルは既に成人を迎え、背丈は俺を越すだろう。嫁はいるだろうか。流石に子供はまだだろうが、いてもまあ、おかしくはない。俺は孫に『おじいちゃん』と呼ばれるのを心待ちにしていることだろう。


幸せな未来なんて、予想だにしていなかった。昔は、数々の偉人のように若くして偉業を成し遂げ、20代半ばで死ぬなんてことに憧れを抱いていた。それが、予定では死ぬはずの今になっては、家族のためにもっと長生きしなくてはと思うようになった。その事にひとり苦笑する。


樹海の方からガサガサと音がする。そちらを見れば、ウサギを咥えたキツネが出てくるところだった。俺と目が合うなり、すぐに駆けて行った。そちらには小さな気配が3つ。子供だろう。少しだけ親近感がわいた。


空には満月があったはずだが、もう見えない。代わりに、東の空がうっすらと白み始めている。

朝になるとこの辺りは霧に包まれる。その後しばらくは晴れないので、霧が出る前に村に向かうか迷う。


(残ってもう少し狩るか)


ウィルには体力作りも兼ねて、毎朝ランニングを課している。その代わりだと思えば良い。霧で視界が悪くなるが、それも良い訓練になるだろう。


そろそろウィルが起きる頃合いだ。火に薪をくべ、火力を強くする。バチッ、と火が爆ぜ、火の粉が飛ぶ。そのうちの幾らかがウィルの方へ向かった。


「……あぢっ!?」


ウィルが火の粉を頭から被り、飛び起きる。……少し笑ってしまった。


「……おはようございます」

「ああ、おはよう」


意図してやった訳では無いのだが、どうしても口元がニヤついてしまう。


「飯食ったら霧の中での戦闘訓練だ。霧が晴れたら村に戻るぞ」

「了解です」


返事をするなり、すぐに食事の準備を始める。その姿が、かつて自分に野営のしかたを教えてくれた兄と重なった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




朝食や荷物の片付けを終わらせたところで、だんだん視界が悪くなり始めた。霧だ。剣を左手に提げ、魔力を周囲に張り巡らせる。

あっという間に視界が真っ白になる。この時間から昼行性の動物や魔物が餌を求めて活動を始める。その多くは動物の持つ体温や魔力を感知する。


ヒュッ!


樹海に足を踏み入れるなり、すぐに何かが飛んで来た。最低限の動きで躱す。針を飛ばすハチの魔物の物だ。

剣を抜き、針が飛んできた方向へ振るう。通常なら届かない距離。だが、


「〝劈開〟」


剣が縦に割れ、片方が魔物に向かって飛んでいく。刃は狙い違わず魔物の体を両断した。


「飛び道具には飛び道具を、ってか」

「最も、飛び道具じゃないんですけどね」


昨日思いついた技だ。欠点は、自分で飛ばした刃を取りに行かねばならないということだ。そこは、剣自体に少し細工するつもりだ。


飛ばした剣を回収し、1本に戻した。その隙をついて、キツネの魔物が背後から襲いかかる。

……が、それは叶わない。スティーブがカウンター気味に飛び蹴りをかました。キツネの魔物はそのまま木に激突。そこに、俺が真後ろに向かって鞘の機能のひとつ、雷撃を発動。目視していないにも関わらず、ピンポイントで命中。敵は黒焦げになった。


「あー、しまったな」

「どうしたんですか?

「言ってなかったな。コイツの毛皮はギルドでそこそこの値段で売れるんだ」


そうなのか。知らなかった。


「気をつけます」

「まあ、別にいいさ」


少しずつ奥に進む。視界は5メートルも利かないが、魔力を使った反響定位モドキを使っているために、何かにぶつかることは決してない。


進むにつれてどんどん魔物の数が多くなっていく。ウサギ型、オオカミ型、シカ型など、その種類も様々だ。

さらに進むとオークやスライムが出てくる。


この世界におけるスライムは、結構強い部類に入る。

打撃系の攻撃は全て吸収され、斬撃を受けると分裂する。その上、分解の能力は王水並み。周囲に完全に擬態でき、目だけで見つけ出すのはほぼ不可能。自己修復能力もあるため、かなり厄介だ。一部溶かせない物質が存在するのと明確な弱点が存在するのが救いだが、それ以外においては最強格だ。


倒すには、単純に蒸発させてしまえばいい。あるいは、特殊な薬品を用いて化学反応を起こして死滅させるかだ。


だが、最も厄介なのはトレントだ。

総合的に見れば最弱。だが、ここは樹海。周囲の樹と全く見分けがつかない上、いつの間にか移動していたりする。そのため、一度自分の場所を見失ったが最後、戻れなくなる危険性がある。それに、あまり倒したくない相手でもある。


トレントは光合成を行う。そして、ラグナリア樹海の面積は、地図からの推定ではあるがアマゾンの3倍。樹海の植物におけるトレントの割合はおよそ4割とされている。この星の大きさを地球と同等と仮定すると、森林破壊を問題視していた元地球人としては、いかに個体数が多いとは言え、やはり倒すのに抵抗がある。


とはいえ、全く倒さないというわけにもいかない。増えすぎると、そのうち近くの町村が樹海に飲み込まれてしまう。なので、自分に襲いかかってきた奴だけ倒し、他は放置する。


「お、コイツは大物か?」


俺とスティーブの索敵に、他より大きな気配が引っかかる。そちらに向かうと、大きなクマの魔物がいた。

こちらからではよく見えないが、何かを食べているところだった。


(冒険者だな)

(みたいですね)


クマの魔物の周辺には壊れた鎧や業物と思しき抜き身の剣、こちらも業物と思われる杖、破れた衣類などがばら撒かれていた。血が滲んでおり、その色からついさっきまで戦闘していたことが分かる。そして、全くの無傷であるクマの魔物からも、奴が相当の強さであることが窺える。


こちらは風下であるため匂いで見つかることは無いが、代わりに錆びた鉄のような血の匂いが、さっきからずっと漂ってきている。


(助けはいるか?)

(いいえ、必要ありません)

(そうか)


短くやり取りし、移動する。少しずつ近付き、側面に回る。

敵の足許が露わになり、冒険者達の死体が視界に入る。転生する前なら吐いたであろう光景だが、今ではもう慣れてしまった。それは一体良い事なのか、悪い事なのか……。


一気に消していた気配を強める。魔力を放出し、敵の気を引く。

狙い通り敵が素早くこちらを向き、ギラギラとしたた赤い眼、それと同じ色に染まった口、手を見せる。



――が、時すでに遅し。その頃にはもう死角に入っている。抜剣しながら一気に斬り上げる。刃は敵の右の脇から入り、そのまま腕を切断して真上に抜けた。


「グァァアアア!?」


あまりの痛みに敵が声を上げる。だが、そんなのは知ったこっちゃない。振り上げた剣を斜めに振り下ろし、今度は袈裟斬りにする。

しかし、間一髪で避けられ、胴を浅く切るだけとなった。


「ガァアアア!」


敵が突進してくる。その線上に、


「【火球(ファイアボール)】」


火力と大きさ重視、速度0の火の玉を生み出す。


「ウグァアア!!」


結果は正に、火を見るよりも明らか。敵は止まること叶わず、頭から突っ込んでいった。

全身に火傷を負い地面を転がる敵に近づき、そして首を刎ねた。


「終わったか?」


スティーブが死亡フラグを口にしながら寄ってきた。


「ええ、見ての通りです」


当然のごとくフラグは回収されず、代わりに敵の死体と冒険者達の遺品を回収して、俺たちはその場を後にした。

※クライマックス=極相林




貨幣について


白金貨1枚=金貨10枚=銀貨100枚=銅貨1000枚=鉄貨10000枚=石貨100000枚

大〜貨1枚= 〜貨5枚


貿易をスムーズに行うという目的のため、一部を除きほとんどの国がこれを用いている。

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