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紅く燃えて瞳は夢をみる  作者: violet
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新月

ジルディークは国境近くの宿で指示を出していた。

王都でも、不穏な動きがあると情報が入っている。


ユレイア公爵家の襲撃は、明らかにジルディークと元公爵を狙っていた。

ゲイルが不在だったとはいえ、ジルディークも元公爵も公爵家男子として、人並み以上の剣技を身に付けている。

襲撃してきたのは、僅か数人だったが、軍の特殊部隊であろう精鋭達であった。

アマディの拷問の報復、それとしか考えられなかった。


それで、王都を外れた地で治療をすることになり、ゲイルが護衛と連絡係をしている。


ミュゼア帝国は、侵略を重ねて大国になった国であるが、ここ数ヶ月で2国を制圧している。

通常ならば考えられないことだが、戦争という異常な心理戦と、侵略国を準備されていたような統制と戦力増加が可能にしていた。

その、手際に隣国が準備出来ないうちに侵攻されたといってもいいぐらいである。


ローゼルは、ミュゼア帝国の攻撃は、王都と国境同時になると予想していた。


アマディを拷問したのも、国内の不穏分子との接触を受けての事だった。

アマディがミュゼア帝国に繋がっていたとしても、国内不穏分子とも関係あるはずなのだ。

ミュゼア正規軍が国境線突破すると、王都では不穏分子が襲撃してくると考えられる。


だから、王太子が王都を守り、王太子の全権を持ったジルディークが国境にいたのだ。



オレンバルとの国境といっても、広く山岳地帯もある。

ジルディークが、その何処にいるかなど探すのは無謀と言える。ましてや、本人が潜伏しているなら、尚更である。


それでも、エミリーローズは諦めない。

戦争が始まれば2度と会えなくなる可能性もあるからだ。


飛び出してきた手前すごすご帰れない、という変なプライドもある。

絶対に見つけて結婚の約束を取り付ける、と意気込みは荒い。


オスロ達騎士は、警護の数人を残して、ジルディーク捜索を兼ねた情報収集に出掛けている。


「姫様、お菓子を買ってまいりました」

そう言ってライアがお茶の用意をしている。


町に出ると紫の瞳は、人々の注目を集めた。

エミリーローズ、ライア、キャスリンだけでなく、騎士達も紫の瞳の者が多い。

長年の敵対国と敵意を出す者。

和平をして新しい関係に希望を持つ者。


国境近くの町は、いつもと同じ風景で、人々は戦争が近いなどと知らないのだろう。

通りを人が行き交い、店先には商品が溢れている。

在り来たりの日常を守りたい、そう思う。

それを守るのが、王族という自分の役目なのだ。


ローゼルもジルディークも同じ事を思っているだろう。

メイナードもだ。

ただし、メイナードはデモア王国を戦場として、ハヴェイを守ろうとしている。



「姫様、オレンバル側に動きがあります」

「どこ?」

「3キロ程先に隊列を見かけました」

まるで、見つけてくれとばかりだ。


眉を寄せるエミリーローズに、報告をしているオスロが同意する。

「陽動の兵かもしれません」


出ていた騎士達も戻ってきて、町を夜の帳が包む。

今夜は新月。



暗闇に動くのは、ミュゼア軍だけではない。

ジルディークも馬に乗り、国境を望む高台にいた。


「アマディは来る」

ジルディークの呟きを聞く者はいない。


雲が多い空は、新月の光さえ届かない。

星も隠れて、灯りのない夜が始まる。



エミリーローズのいる宿にも、黒い影が集まっていた。


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