メイナードからの任務
オスロが、王太子から受けた極秘任務はいくつかある。
ミュゼア帝国と王が、エミリーローズの婚姻による密約があるというのなら、ミュゼアはハヴェイを狙っていた、ということだろう。
密約の内容もわからないが、出来るならデモア王国との交戦で進軍が止まって欲しい。
どこの国にも、不満分子はいる。
ミュゼア帝国の軍師はそれを上手く使って侵略を有利にしている。
もしも、エミリーローズとユレイア公爵が婚姻に至れば、堂々と援軍を出し、ミュゼア帝国の進軍を止めることが出来る。
「婚約といわず、婚姻させろ」
それが、王太子の指示だ。
それは、理解できる。
だが、理解出来ない極秘指令がある。
王女の動向、特に興奮した時に注意することだ。
瞳の色が変わると教えられた。
その時の王女の雰囲気、姿形、音声を報告をあげるように指令されている。
何より信じられないのは、王女が手に負えないようなら、我が身を守って帰国しろというものだった。
王女の警護で他国まで来たからには、一命を投げ打って王女を守るのが騎士だ。
警護に付いた騎士全てが、見たものを一生他言しないよう宣誓をさせられている。
宣誓なくとも近衛騎士にそのような者はいない。
「陛下はご存知ない。
陛下にも内密にだ。」
メイナード殿下の瞳は赤色だった。
初めて見る瞳の色。
切れるような空気というべきか、王太子の言葉に身動きが取れない。
ユレイア公爵邸を出る前、王女が庭の木々の根元に埋められた箱を取りだした時、前に立つ王女の後ろ姿に違和感を感じた。
あれが、そうかもしれない。オスロは近隣の地図に書き込んでいる王女を見る。
来月には16歳になる。
「本当の誕生日は初めて」
と顔を綻ばせていた少女の美しい顔。
どこから見ても守るべき王女だ。
「オスロ隊長」
エミリーローズの呼び掛けに、思考を止めて近寄る。
「デモア王国が準備していないはずない。
どうすると思う?」
「そうですね」
オスロは、地図の1ヶ所を指差す。
「我々は休戦中とはいえ、長年戦争の準備をしてきました。
それは、デモア王国も同じ。」
例えばここ、とオスロは続ける。
「情報があったとしても、デモア側から仕掛けることはないでしょう。
迎え撃つ軍隊を隠しておける山がある」
ここは、王都へ向かうのを止める事ができる。
ここは、罠を仕掛けられるでしょう。
オスロが、次々印を付ける。
「よく分かるわね」
驚くエミリーローズに、オスロは当然とばかりに言う。
「もう何十年と敵国だったのです。
相手の情報は熟知しています」
では、ジルディークはどうだろう?
ハヴェイを熟知していたから、エミリーローズを行かせた?
いや、今は考えても仕方ない。
ジルディークの潜伏場所を探さねばならない。
もし戦争が始まったら?
このまま会えなくなる。
ハヴェイの王宮を飛び出した時は、そこまで考えてなかった。
ただ、ジルディークに会いたい。
「王女殿下、ミュゼア帝国の軍師がユレイア公爵家の3男としたら、もっとわかっているでしょう」
オスロの言うことはもっともだ。
「アマディ様は、ふざける事も多かったけど、明るくて、公爵夫人から大事にされていました」
ロザリーヌが無傷なのを思うと、公爵家の襲撃はアマディの仕業にしか思えない。
きっとジルディークは、全てに責任を感じているに違いない。




