デモア王宮
久しぶりに見る王宮は、懐かしく思う。
横を歩くキャスリン、ライアの思いはどうであろうか。エミリーローズは二人を窺い見るが、表情からはわからない。
瞳の色がバレないように、こっそり登城した前回と違い、デモア王宮警備の騎士に案内されて廊下を歩く。
王宮内に同行を許されたのは、侍女2人と護衛2人のみであるが、扱いは国賓並である。
王太子に面会を求めたはずが、王の謁見室に連れて行かれた。
「ハヴェイ王国第一王女エミリーローズ・ハヴェイでございます。
陛下に拝謁賜り、光栄でございます」
ユレイア公爵家で教育をうけたカーテシーで挨拶する。
ローゼル王太子は頻繁に公爵家に来ていたが、王には初めての対面である。
「よくいらっしゃいました姫君。
これがユレイア公爵家の訃報を受けての事でなければ、もっと良かったのだが」
豪華な椅子に座り、横には王太子、後ろには護衛兵。
同じシチュエーションでも、父であるハヴェイ王とずいぶん違うと思ってしまう。
何が・・・
王と王太子に信頼関係があるから、雰囲気が違うのだ、とエミリーローズは察した。
挨拶のみで謁見は終わり、エミリーローズは王太子と共に別室に移動した。
「どうぞ、侍女殿もこちらに」
王太子に声をかけられたが、キャスリンとライアは固辞してエミリーローズの後ろに立つ。
ハヴェイの護衛騎士は室内であるが、扉の所に控えている。
「ジルディークと君がね、思いもしなかったよ。
あいつは何も言わなかったから。
ただ、君がハヴェイに行った後に、君に婚姻を申し込む為に王家に申し入れがあって初めて知った」
ローゼルの言葉を受けて、兄はユレイア公爵家からの縁談を言わなかった、とエミリーローズは帰ったら兄を問い詰めようと思う。
「殿下は落ち着いていられますね?」
ユレイア公爵家が襲撃されて、王家にとっても痛手のはずだ。
特にジルディークは王太子の側近として仕事をしていたのだから。
「そう睨まないで。
ジルディークがいないのは、執務が滞るかな」
「そういう事ではありません。
行方不明なんですよ!」
エミリーローズがローゼルに対して声を大きくする。
「行方不明だからだ。
死体ならば持ってはいくまい」
ふー、と息を吐き、ローゼルが低い声で言う。
「何故、王宮ではなくユレイア公爵家が狙われたか?
王宮とユレイア公爵家の警備の違いではないだろう。
王ではなく、ジルディークが狙われたのだ。
それを分かって、あいつは身を隠した、と僕は思っている」
「どうしてジルディーク様が狙われるのですか!?」
「さぁ、そこまでは分からないな。
ただ、あいつは生きているはずだ」
デモアにとってユレイア公爵家襲撃は許されざる事だが、今はそれよりミュゼア帝国の動向が気になる。
襲撃にミュゼア帝国が絡んでいる可能性は高い。
「私が」
言葉の続かないエミリーローズを疑わし気に、ローゼルが見つめる。
「私が、ジルディーク様を探し出します」
膝の上に置かれた拳は握りしめられている。
「待つなんてとんでもない!
ジルディーク様が私を迎えに来られないなら、私が迎えに行きます!」
「レネ?」
王太子がユレイア公爵家に来ていたのは、レネの朝食を食べるためだ。
レネの顔は知っているが、詳しくは知らない、というぐらいだろう。
「待つしかなかったレネではもうない。
エミリーローズには王女という権力があるのよ。
王太子殿下は待っていればいいわ。
私が、好きな男ぐらい助けて見せる」
王太子殿下がびっくりしている。レネはおとなしいと思っていたからなおさらだ。
姫様かっこいい!
と思ったのは、侍女達だけではないようだ。




