エミリーローズの迷い
エミリーローズは、寝静まって静かな森の中で、そっと動いていた。
音を立てず、振動をせず、木立の中に逃亡したい。
野宿は覚悟していた。
侍女達も野宿することにはびっくりしたが。
貴族のご令嬢には出来ないと思っていたが、抵抗なく受け入れることに驚いた。
問題は、兄が軍隊を付けてきたことだ。
おかしい、自分は家出のはずなのに、兄から応援されているようにさえ思える。
こんな大軍で、デモアに入れるはずがない。
妹可愛さで、あの兄は判断を間違えたか。
そっと地を這うエミリーローズの前に足がある。
あらら、と顔をあげると隊長がいた。
「姫様、我々はプロです。ごまかして逃げれると思っているのですか?」
騒ぎで起きたキャスリンに泣きつかれて、エミリローズは天を仰ぐ。
「姫様、私達まで置いていこうとするなんて」
「姫様はどこに行こうが、ハヴェイ王国の姫君です。
姫様が拉致されれば、犯人は何を要求するかわかりません」
オスロの小言に、エミリーローズは小さくなって聞いている。
「わかったわ」
「姫君?」
「もう堂々と皆を引き連れて行くわ」
開き直ったようにエミリーローズは立ち上がった。
ある日突然王女になっても、何も出来ない罪悪感があった。
ジルディークに会いたかった。
押しかけても追い出されないだろうと思っていた。
それが喜ばれることだろうか?
今の私は扱いの困る王女という身分。
私はバカだ。
ジルディーク様を信じないでどうする。
「隊長、お兄様からの指示は私の護衛だけではないでしょう?」
兄も王太子という地位だ、妹可愛いだけではないだろうと思いつく。
「殿下は、今回の婚約には何か約定があると考えておいでです。
それを調べる任務を得てます」
言うべきか、少し躊躇してオスロが言う。
では行くのは、ハヴェイではなくミュゼア帝国なのか?
それは、無謀すぎると自分でも思う。
そして、気がついた。
私は、王女らしくなんて出来ない。
でも、私を大事にしてくれる、母や兄の為に手伝うことは出来る。
既に母も兄も大事な人になっている。
母も兄もジルディークも得たいのだ。このままデモアに行くのは逃げると同じ。
「隊長はどうやって情報を収集するつもりだったの?」
「王女殿下が王宮を飛び出したというのは、もう既にどこの国も情報を入手しているはずです。
どこが、どう動くか、動かないかです」
どこの国も入手は分かった、動くか動かないかってどういうこと?
エミリーローズは想像もつかない。
ははは、と笑うオスロ。
「帝国からの縁談に逃げ出す王女なんて、どこの国も初めてだということですよ」
それは、注目されているということか。
「私が軍に護衛されていると、知られているということよね?」
つまり、軍で動いても武力行使と思われないということだ。
「そうです。どこの国も諜報活動に力を入れてます」
「私、この国から出ることばかり考えていた。
でも、この国のこと何も知らないの。
もっと見てみたい」
とりあえず、王の手元から逃げれたから、デモアに行くのは急がなくともいいと思える。
「デモア王国に行く前に、国境とかちゃんと見たい」
国を守るってどういうことか知りたい。
「姫様、提案です。
明日は、野宿ではなく、宿に泊まりましょう。
我々が用意しますから」
オスロがいう事はもっともである。
「国境近くの宿でお願いね。
毛布をもらったけど、野宿って辛いわね」
エミリーローズ達が宿にいる間に、情報収集したいのだろう、というのが分かる。
その国境近くの町で聞いたのは、デモア王国では襲撃があり、襲撃されたのはユレイア公爵家だという話だった。




