オーランドの告白
「オーランド様、仔犬はすっかり元気になりましたので、引き取りたいのです」
ライアは、その夜オーランドに告げた。
仔犬を見つけてから、1週間目の夜だった。
オーランドが仔犬をなでているライアを見ている姿も、当たり前になっていた。
ライアとオーランドを守るように、警備兵たちが立っている。
その騎士達にも届くぐらいに、ライアは大きな声で告げた。
「ロンには僕も会いたい。これからもライアに会いたい」
オーランドの言葉に、ライアは首を横に振る。
この時間を楽しみにしだした自分が怖いのだ。
「王女の侍女といっても、私は何も知りません。希望されるような情報は持ってません」
オーランドがそういう人であって欲しい、そうならば嫌いになれるのに、と思いながら言葉を選ぶ。
「僕はそんなつもりはない」
オーランドは、騎士達に少し離れるように目配せする。
オーランドは騎士達が、視覚には入るが、小さな声が聴きにくい位置まで下がったのを確信して言葉を続けた。
「王太子ならともかく、王女に情報を期待していない」
オーランドがライアの前に片膝をつく。
「オーランド様、お立ちください。私などの為に膝をつくなんて」
ライアが慌ててオーランドに近寄る、今にも触れそうなぐらい近い距離になる。
慌てて、下がろうとするライアの手をオーランドが掴む。
「君がいいんだ。気になって仕方ないだ。好きだ」
言わせてしまった、とライアが息を飲む。
「私は、オーランド様にふさわしくありません。離してください」
離すと逃げると分かっているオーランドは、力はいれないが手を離さない。
「僕にふさわしくないって、何が?
僕は王の息子とはいえ、王族とは認められない瞳の色だ」
自嘲気味にオーランドが言う。
「君に僕がふさわしくないぐらいだ。伯爵令嬢のライア」
「違うのです」
ライアの唇は震えている。
「ライア?」
ライアの様子がおかしいことにオーランドも気が付いた。
ゆるんだオーランドの手から、ライアの手がすり抜ける。
オーランドに掴まれていた手首を、反対の手で掴みながらライアがオーランドを見る。
「私は、結婚もできないのです」
やっと声を出したのだろう、声が震えている。
「街のカフェに行っただけだったのに。
どうして私なの?
洗面所に男達がいて、気が付いた時には、ベッドに手を縛られていた」
何を、とオーランドは目を見開いている。ライアの言おうとしていることが想像できてしまう。
「叫んでも、もがいても、助けは来なくて」
「もう言わなくていい!」
オーランドがもう一度ライアの手を取る。
「抵抗するから、何度も殴られて。死んだら、裸の死体を街にさらすと脅されて」
「ライア」
「汚れているの、私、汚れているの」
涙も出ないぐらい苦しんでいる、僕に知られたくなかったろうに、とオーランドは分かってライアを抱きしめた。
ひっ、とライアがオーランドの腕の中で息を止める。
オーランドとライアが揉めているので、騎士達が二人を引き離しにかかる。
「お前たちは下がってくれ!
お願いだ、ライアを守らせてくれ」
「オーランド様、それは無理です。侍女殿が嫌がってます」
感情の激高のままに、オーランドは騎士達を睨む。
「今のライアを離しちゃいけないんだ、お願いだ。僕に王の息子という権力をつかわせないでくれ。
決してライアを傷つけないと約束するから」
「少しの間だけです、侍女殿を守るのが我々の仕事です」
騎士が、二人を引き離そうとする力を緩める。
「ライア、結婚してほしい」
そっと腕の中のライアに語り掛けるオーランド。
「オーランド様、無理です」
ライアが拒否しても、オーランドは引き下がらない。
「僕に話すのは辛かったろう、どれほどの勇気をだしたのだ。
汚れてなんていない、綺麗で眩しくて」
ああ、とライアが声をあげて泣き出した。
「その男を殺してやる、君は何も心配しなくていい」
「王太子殿下が処刑に立ち会ったと、お聞きしました」
小さくかすれた声で呟くと、ライアはオーランドに身体を預けて泣き続けた。
「そうか」
翌日、オーランドはメイナードの執務室を訪れた。




