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紅く燃えて瞳は夢をみる  作者: violet
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王妃セレステアと側室アリア

王妃は体調の回復と共に、精神も健康になり、現状を把握した。


頼る人のいない異国で、頼るべき夫には別の女性がいる。

政略結婚でも、愛情をもって暮らそうと嫁いできたはずだったのに。

王子を産み、自分の居場所が出来たように思えた。

だが、二人目に王女が産まれた時は、王妃から不吉だと罵られた。

そして、その王女が拐われ、毎日、捜しに行こうとして止められた。


15年も経っていると、気がついた。

娘も大事だが、大事な息子を5歳で王宮に一人にしたと自覚した。

王の顔は分からないが、息子の顔はわかる。

私が心を失くしている間も、息子は会いに来てくれていたと、記憶を思い出す。


母国の兄王に手紙を出すと、息子の後見人になっていた事、15年の間の事を返信で教えてくれた。

後は、王宮に戻って大臣達から聞いた。


王に期待したから、心が壊れたのだ。

もう、そんなことはしない。

冷めた目で王を見れば、年取ったと思う。

王女として生まれ、この国に嫁ぎ、形だけは王妃でいる。

自慢の息子がいる。

守るべき娘がいる、生きる意味がある。

何より、自分自身に恥じることのないように生きていきたい。


セレステア王妃が椅子から立ち上がり、壇上から人々を見渡す。

何も言わない、ただ微笑んで周りを見た後、ゆっくりと席に座る。

ただ、それだけの動作が美しい。

体調が戻ったとはいえ、まだまだ細い身体は影を映し、見ている人々を魅了する。


お母さま、カッコいいです!

レネが貫録ある~、と変な感動をしている。



王も、王妃に見とれていた。

それを、離れた所から見ている側室アリアは察し、握りしめている拳に力が入る。

オーランドは、母親の様子に気が付いていたが、様子見に徹したようだ。


鳥の羽で飾られた扇子を口元にあて、表情を隠すアリア。

醜い、とオーランドは思っている。

顔の美醜で言えば美しいとは思う。

弱々しい振り、善人の振り、自分では動かず、他人を(あお)り、落ちてくるのを待つ女。

だが、母の破滅は我が身の破滅と知っているからこそ、準備が出来るまでは動くことが出来ない。


「アリア様、お顔の色がすぐれません。戻られますか?」

側付きの護衛が声をかけてくる。

「いいえ、デモア王国との和平条約締結の祝賀会ですもの。戻るわけにいきません。

ましてや、王妃様と王女殿下の帰城のお披露目を兼ねておりますもの。

王妃様がお美しくて、眩しいほどですわ」

お優しい側室様と、人々の耳に届くだろう。

「母上に椅子を用意してくれ。

立っていらしたので、疲れたようだ」

オーランドの言葉に、護衛がすぐにと返事する。

「ありがとう、オーランド」

ニッコリ微笑む母親の美しい顔。


汚い女、その言葉はどこにも届かない。オーランドの中に積まれていく。

王太子と踊っていたのが王女だろう。

遠目で分からなかったが、彼女も薄紫の瞳をしているのは間違いない。

女など、どれも変わらないだろう。

オーランドは瞳を閉じ、誰にも悟られぬように溜息をつく。


「母上、挨拶に行かねばならないでしょう」

「ええ、そうね」

アリアをエスコートして、オーランドが広間の正面に向かう。


広間にいる貴族たちは興味津々である。

ダンスの音楽は演奏されているが、踊る者などいない。


オーランドが膝を折り、アリアが王に向かいカーテシーをする。

「この度は、デモア王国との和敬条約締結を成された王太子殿下、オーウェン公爵にお祝い申し上げます。

ハヴェイ王国に永遠の幸あれ。

そして、王妃殿下、王女殿下の無事のご帰城とデビューをお喜び申し上げます」

ハヴェイでもデモアでも成人は15歳。

エミリーローズ王女の社交デビューをオーランドは言っているのだ。

オーランドは祝辞を述べ、一歩下がる。


「よい、そなたも我が息子、祝いの席で堅苦しいことはなしだ」

王が、侍従に席を用意するように指示を出そうとするのを、誰も止めることは出来ない。

この場では、王が一番の権力者だ。

「陛下、私どもはご一緒できる身分ではありません。

どうか、そっとお近くで見る事だけ、お許しください」

アリアが、潤んだ瞳で王に顔をあげる。


「私が認めているのだ。

よい、隣に席を用意しろ」

王妃が横目で睨むが、王にはきかない。

妃でない側室に、公の場で正妃と並ぶことを許すなど、正妃の地位を愚弄することだとわからないのか、と思うのはメイナードだけではない。

ましてや、正妃は隣国の王女。


王は壇上から降りるとアリアの手を取り、用意した椅子に座らせた。

オーランドはその後ろをついていったが、席に座ることなく、警護のようにアリアの席の後ろに立った。

アリアは席に座ると、王妃に向かい、

「申し訳ありません」

小さな声で囁いたが、王には聞こえたようだ。

方眉をあげて、王妃の方を見たが、何もなかったように手を挙げ、立ち上がった。


「此度の和平条約締結によって、デモア王国との戦争は終わった。

大きな一歩だ。

我がハヴェイ王国に祝福を!」

王の言葉に大きな歓声があがる。


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