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紅く燃えて瞳は夢をみる  作者: violet
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王の謁見

レネは、デモアからハヴェイに向かう馬車の中で、ハヴェイ王家の事情は聞いていた。

そして、側室が野望を持っていることも。

薄紫の瞳が王直系の証というのは、王族には知られたことだが、側室には通じない。

王の子供である息子が、王族に認められないのはおかしいと、王に吹き込んでいるのだ。


王族と認められていないので、ハヴェイの名は語れない。

オーランド・メッシュ17歳。

フーゴ・メッシュ14歳。

王は、エミリーローズが誘拐され正妃が体調を崩し離宮に入ってから側室を迎えたが、それ以前からの関係であったということである。

エミリーローズより年上の息子なのだから。


20歳のメイナード王太子はエミリーローズより5歳年上だ。

つまり、5歳の時に妹は攫われ、母は正気を失くし、父王は愛人を側室に迎えたということだ。

聞いていて、レネは思ったのだ。

この兄は、王宮で一人であったのではないかと。

「母上の国が後見になってくれたし、僕のこの瞳がハヴェイでは何より強い。

父から僕への代替わりを、早めるために大臣や家臣が力を入れてくれたよ。

ただ何より、僕の暗殺を恐れたんだ。

この瞳を持つのは、王と僕とオーウェン公爵だけだからね。

今は君もいる」

ちょっとまって、暗殺って何?!



その話を思い出しながら、レネは王に謁見していた。

思い出した原因は、王の横に座る側室の存在だ。

王妃が帰城の挨拶をするのに、壇上で王の隣の椅子に側室が座っているのを見た時はびっくりした。


「下がりなさい」

母親の声が聞こえて、レネは驚き隣に立つ王妃を見る。

昨日まで、離宮で弱々しく暮らしていた人物と同一人物に見えない。

側室に向かい(おご)ることも、(さげす)むこともなく、凛と立つ姿勢は、生まれながらの気品。


きっと母上は、父上の愛人の事をご存じだったのだろう。

だから、君がいなくなって心を壊されたのかもしれない。

君を誘拐する指示を出したのは、祖母の元王妃だが、あの女も絡んでいたに違いないんだ。

ただ、僕と君はじゃまだが、他の人間はそうではないらしい。

慈悲深い側室と名を馳せているようだ。


兄メイナードの言葉がよみがえる。


「正妃がいるのです。お前のいる場所ではありません。

下がりなさい」

レネは王妃の指先が震えているのを、見て取った。

この人は私を守る為に、側室を部屋から出そうとしている。

そっと、レネが王妃の指を握る。


「陛下、王妃陛下のおっしゃる通りです。

陛下が側室とおっしゃって入城させましたが、元々王家に側室の制度はない」

メイナードが、近衛兵に新しい椅子の用意と、側室を居室に案内するように指示する。


「私が王だ」

「だからこそです。王は皆に信頼されねばなりません」

メイナードが一歩進み、王の前に立つ。


側室アリアは、手で口元を押さえ、王の横の椅子から立ち上がろうとする。

「陛下、王妃様がお戻りになられたのに、私がここにいては不自然ですわ。

下がっておりますので、どうかお治めくださいませ」

簡単にわかることを今更である、と誰もが不信に思うが、王はそうではないらしい。

「今まで、長い間こうやって来たのだ。気にする事もあるまい」

王にとっては、王妃との結婚生活は6年でしかないが、アリアとの生活は19年、側室になってからも15年になる。


アリアを側室として迎えた時に、王太子メイナードは5歳。 抵抗のできる知識も権力もなかった。

だが、20歳になった今は違う、それに王は気が付いていない。

大臣も武官もすでにメイナードが掌握しているということを。


パンパン、と手が叩かれ、険悪な空気が和らぐ。

「王妃陛下、よく戻られた。

義弟のヘラルドです。 今はオーウェン公爵と名乗っております」

オーウェン公爵は、メイナードの横に立つと王妃の手をとり、新しく用意した椅子に腰かけさせた。

そこは、王の隣で、側室とは反対側である。


王に引き留められていた側室が、椅子から立ち上がり壇上から降りると、振り返りもせず謁見室を出て行く。

「あれは、長い間不在の王妃の代わりに尽くしてくれたのだ」

王が庇うように言うが、溜息をつきながら答えたのはオーウェン公爵だ。

「陛下、王妃の責務ではなく、陛下の隣で夜会に出ることぐらいだったでしょう。

王妃教育も外国語の教育も受けておられず、受けようともしなかったではありませんか」

それよりも、とオーウェン公爵が続ける。

「戻って来られた王妃陛下と王女殿下に、(ねぎら)いの言葉はないのですか」


レネは改めて、血のつながった父親を見た。

今まで、叔父のオーウェン公爵や兄のメイナード王太子、母親のセレステア王妃が手放しで喜ぶから思いもしなかったが、レネの存在を疎ましく思う者もいるのだ。


おかしい。

自分は王女としてこの国に来たのに、今が一番危険な気がする。

レネは過去を思い出す。

ユレイア公爵家では可愛がってもらったが、トウゴ伯爵の事件とか危険がないわけではなかった。

孤児院では、質素な生活ではあったが、友達もいたし、シスターは優しかった。

孤児院が一番安全な場所だった気がする。

王族って、命狙われるんですか? 聞きたいぐらいだが、赤ん坊の時に拐われた、それが答えだ。


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