癒えていく王妃
エミリーローズは、2日で10歳大きくなった。
王妃の中では、10歳の娘だ。
カタカタ、ワゴンを押してレネが王妃の部屋の扉をノックする。
もうすぐ昼頃という時間だ。
ロザリーナ様で慣れているレネは、貴族の夫人はこんなものだと思っている。
扉を開けた侍女に、王妃が起きているかと聞くが、まだ寝ているらしい。
「王妃様は、お疲れでもうしばらく眠られると思われます」
侍女が言うまでもなく、レネにも分かっている。
王妃は、レネと一緒に過ごすために無理をしていたのだった。
細い体力のない身体で、散歩をしたりお茶をしたが顔色が良くなかった。
食事を一緒にしたが、食が細い、あれでは体力が戻らないだろうとレネは思っていた。
「分かってます、入っていいかしら?」
疑問形で聞いているが、ダメとは言わせない。
侍女が返事する前にレネが押し入る。
「姫様、王妃様はお休みです」
侍女がレネの進行を止めようとするが、レネの足は止まらず、隣室にある王妃のベッドサイドまでワゴンを押して進む。
「お母さま、エミリーローズです」
そっと声をかける、侍女が慌てているが気にしない。
王妃の瞼が動いたのを確認して、もう一度声をかける。
「お母さま、エミリーローズです。お起きになって」
昨夜は早くに寝たはずだ、睡眠時間が足りない、とレネは思っていない。
体力がないのが問題なんだろう。
「エミリーローズ」
王妃は目を開けると、うっすらと微笑んだ。
「お母さま、お食事をお持ちしました。
一緒に食べましょう」
レネがベッドボードにクッションを重ね、半身を起こした王妃の身体を凭れさす。
侍女だったレネにはお手のものだ。
王妃付きの侍女が、びっくりして見ている。
ワゴンから食器を取り出し、サイドテーブルに置く。
「私が作りましたのよ。
お母さまに食べてもらいたくて」
朝早くからレネは厨房に入り、王妃の食事を用意した。
当然、プライドの高い料理人や、安全面から警備の反感を買ったが、王女という権力を使った。
薄味に仕上げた肉と野菜のスープ。
ほんのり甘みのある焼き立てのパン。
朝から作ったフレッシュバターを添えてある。
「エミリーローズが?」
レネにスープカップを渡された王妃が確認するように聞く。
「はい、薄味にしてあります。どうぞ召し上がれ」
王妃がそっとカップに口づける。一口飲むと、もう一口と飲み進める。
「薄味だけど、しっかり味が付いていて美味しいわ」
はい、疲れた身体には好評でした。とは、レネは言わないでニッコリ笑う。
舞踏会の翌日には、ロザリーナはこのスープを好んだ。
お酒とダンスで疲労した身体に嬉しいと言っていた。
レネが栄養豊富で消化しやすいように考え、飽きないようにアレンジをした。
貯蔵庫に保管してあるバターではなく、レネが作ったバターは柔らかい。
口に入れると、フワッと溶ける。
バターを乗せたパンをレネから受け取り、王妃は口に含んだ。
あ、と小さく言葉を発すると、ほころぶように笑顔を浮かべた。
「エミリーローズ、とっても美味しいわ」
「よかった。
気に入ってくれるかドキドキしてました」
側にいる侍女が驚くほど、王妃の食が進む。
「エミリーローズは、まだ10歳なのに凄いわ」
「お母さま、一晩寝たので15歳になりました。
見てくださいな。大きくなりましたでしょう?」
レネが空になった食器を受け取りながら、手を見せる。
「そうね、大きくなった気がするわ。
お料理が出来る程、大きくなったのね」
「はい、でもこれ以上大きくなれないみたいです。
お母さまのエミリーローズは15歳です」
レネは、王妃には栄養をとって、軽い運動と規則正しい生活が体調改善にいいのでは、と思っている。
「明日も明後日も、私が朝食を作って持ってきます。それから一緒に散歩がしたいです」
レネの言葉に王妃も微笑む。
「散歩用のドレスを作りましょうね。
エミリーローズが大きくなったから、ドレスがいるわ」
楽しそうに王妃が、侍女に仕立て屋を呼ぶように指示を出す。




