侍女から王女へ
ジルディークは会議の途中に、メイナードから声をかけられた。
「君とユレイア公爵に話がある。早急に時間と場所を決めて欲しい」
「わかりました、直ぐに手配いたします。
殿下は、今夜のご都合はいかがでしょうか?」
「それで、かまわない」
メイナードはジルディークを観察するように見ながら答えた。
メイナード、オーウェン公爵は、ユレイア公爵、ジルディークと王宮の客間に集まったが、そこにはデモア王国王太子ローゼルの姿もあった。
「なんだか、会議のメンバーと変わらないな。」
大臣達がいないが、主要メンバーが集まっている感がある。
「全くです」
ローゼルが緊張を解すように相討ちを打つ。
ただし、事務官も侍従もいない。秘密遵守ということだろう。
席に着いたメイナードがユレイア公爵に向かう。
「妹を保護してくださった事に礼を言います。
王女という生まれ故に妹は拐われ、この地に運ばれた。
乳母が犯人の仲間とは考えられない、助けて逃げおうせたが力尽きたのであろう」
「レネは王女で間違いないのか?」
ユレイア公爵の確認に、メイナードは答える。
「妹も僕も、王家直系の唯一の証を身に持ってます。
例え王の子であっても、それが無ければ直系とは認められません。
最も直系は必ず生まれ持ちます。無い者は王の子ではないという事です」
ジルディークは、直ぐにでもレネとの婚約を正式に発表するのだったと思う。
王女というのは、外交の切り札となり得るのだ。
いや、やはりあの時点では無理であったろう。 ただ立場が逆転した今、レネは遠くになりつつある。
それで、諦められる想いではないと自覚はしている。
「失礼だが、レネをそちらにお返しして、危険な目に合うと言うことはないのですか?」
ローゼルが犯人はどうなった、と暗に聞いてくる。
「主犯は既に亡く、実行犯も処分されております」
答えたのはオーウェン公爵だ。
オーウェン公爵の実母、エミリーローズの祖母である当時の王妃が犯人だったのだ。
長い間、王子しか生まれていないハヴェイ王家。
王家に生まれる王女は国に災いをもたらす、という迷信を信じこんで犯行を指示したのだ。
乳母は指示に逆らえなかったが、王女の命を守ろうとしたのかもしれない。
犯行が明らかになると王は引退し、王太子であったメイナードの父が王となり、今に至っている。
王妃は貴族牢に隔離され、数年の後に他界した。
公に出来ない事件故に、エミリーローズ王女は身体が弱く王家の領地で静養が必要と王宮から離すと、忘れられた存在となっていった。
王太子妃であった現王妃は、身体と心を壊し公務もままならない状態が続いている。
「彼女は、僕の妹エミリーローズに間違いありません。
確証もありますし、母によく似ているのです」
メイナードがニッコリの笑顔を見せる。
王太子が見せる笑顔ほど裏のあるものはない。 それは同じ王太子であるローゼルがよく分かっている。
そして、まるでライバルかのようにジルディークを見るメイナードに気付いてもいた。
妹のいないジルディーク、妹のいるローゼルも、もし行方不明だった妹が突然現れたらと思うと複雑であった。 メイナードの気持ちが理解できるからだ。
そして、それは自分達に都合が悪いことも。
どんなにレネが拒否したとしても、こうなった以上、レネをハヴェイ王国に返さねばならない。
和平条約締結までいって、破綻するわけにはいかない。
休戦中とはいえ、国境では緊張が続き、終戦は両国民が切に願っている。
国境警備の負担が軽減することは、国にとっても大きい。
王女となったレネは、もう自分の気持ちだけで動くことは出来ない。




