新しい道
メイナードとオーウェン公爵は、拉致され暴行された令嬢に面会した。
家族とは、すでにハヴェイを出る前に面会してあったが、帰国する前に確認する必要があったのだ。
トウゴ伯爵は、デモア王国で処刑が決まっており、オーウェン公爵と令嬢の家族が立ち会いを許されていた。
メイナードが来た事で、メイナードも立ち会う事になった。
令嬢の事は公にはせず、トウゴ伯爵は王家への反逆罪という事で処刑される。
これはオーウェン公爵来訪で会議された事であったが、メイナードの参加により、デモア王国、ハヴェイ王国の和平交渉から、条約締結まで加速した。
調印されると長い戦争の終結である。
ハヴェイから師団が来ている事には様々な憶測をされているが、調印を公表する事で、事件の事はその影で処理する予定である。
未だに男性に恐怖心がある令嬢達の為に、家族同伴で僅かな時間の面会である。
「ハヴェイ王国王太子メイナードである。
立たなくともよい、まだケガが完治していないと聞く。」
メイナードは挨拶をしようとする令嬢に座ったままでと言って、距離を取った。
「数日後には、ハヴェイに向け出立する。
そこで、ご令嬢方に僕からのお願いがある。
もちろん、拒否してくれてもかまわないが、機密だけは守って欲しい」
この国で起こった事は、令嬢と家族にとっても生涯の秘密である。 さらに何があるというのか、不安な様相になる。
令嬢達の不安を無くすように、メイナードは優しく語り掛ける。
「ご令嬢方も知っておられるレネの事だ」
事件の事ではないと分かり、令嬢達が安堵する。
この国で助け出されたとはいえ、絶望的な状態であった令嬢達に心を開かせたのはレネだ。
「彼女は、長らく行方不明であった我が妹と判明した」
メイナードの言葉に、やはりあの瞳の色は、と思うのはアウロラ。
「この国でレネと呼ばれているが、正しい名前はエミリーローズ」
15年も前に誘拐され隠匿されてきた王女の名前は、貴族とはいえ初めて聞く者ばかりだ。
「貴女方にエミリーローズの侍女として王宮に入って欲しい。
エミリーローズは、王女として何も身に付いていないだろう。 それを助けてやって欲しい」
最初に声を出したのはキャスリンだ。
「お父様、殿下のお話をお受けしたいです」
今までとは違う生活で、事件を忘れたい。
ましてや、もう結婚は無理かと思っているキャスリンには、王女の侍女というのは願ってもない事だ。
「王宮に出仕などお前に務まるのか?」
父親だからこそ、キャスリンがワガママに育ったのは分かっているし許してきた。
「王宮勤めは不安ですが、王女に誠心誠意仕えます」
こんな事が言えるようになったかと、父親の伯爵は感慨深く受け取った。
ライアも両親に向き合った。
「お父様、領地経営の勉強は侍女の仕事をしながらでも大丈夫でしょうか?
この国でレネが私達を助けてくれました。
今度は私がレネ、いえ、エミリーローズ王女を助けたいのです」
レネは孤児だと言っていた、王女として立つのは慣れない事ばかりだろうと思う。
アウロラも同じ気持ちだが、ケガがひどく結婚も迫っている。
簡単に返答が出来る立場でないのを、キャスリンもライアも分かっていた。
3人は、トウゴ伯爵に拉致されてから支え合ってきた深い絆がある。
「殿下、アウロラも同じ気持ちだと思うのですが、もうすぐ侯爵夫人になる身です」
キャスリンがアウロラの代わりに答える。
「そうか、結婚されるのかおめでとう。
王宮の内に入ってエミリーローズを助ける事はできないが、外から助けてやってくれまいか?」
「もちろんです、殿下」
アウロラが笑顔を浮かべ答えるのを、母親が泣きながら見ていた。
アウロラの婚約者のトルストは、後でメイナードの部屋に呼ばれる。
全てを知った上でアウロラと結婚する、という事でメイナードに認識されたのだ。
愛情深く、冷静に判断できる人間という事でメイナードに重用される事になる。




