王女
メイナードはオーウェン公爵と打ち合わせをしていた。
人払いをし、念入りに盗聴の有無を確認しての談話だ。
「来るのが早かったな。
兄上はなんと言われている?」
オーウェン公爵は連日の会議で疲労が出ているようだ。
「父上は喜んでおられるが、何といっても母上が早く会いたいと切望されている」
「お前は?」
お前は、と聞かれてメイナードは眉をあげる。
ソファーの肘掛けに片肘をつき、手の甲に頬を乗せてメイナードは背もたれに凭れ掛かる。
「嬉しいですよ。たった一人の妹ですからね。
だが、うまく出来すぎている」
拉致された自国の令嬢を迎えに来たら、行方不明だった王女がいたなんて。
「ユレイア公爵家の嫡男と恋仲らしい」
オーウェン公爵は、初めて会った時の事を説明する。
「孤児の娘ですよ。本気であろうか?
紫の瞳ということで、間諜に育てるつもりで引き取ったのだろう。
そんな家の男が本気であるはずがない。
エミリーローズは騙されている。」
自分だったらそうする、と前提の上でメイナードが話をする。
「可哀そうに、家族の愛情から離され、優しくしてくれる男にいいように扱われているのか。
今回も囮になったと聞いて、面会を申し出たのだから」
オーウェン公爵が、まさかエミリーローズを発見できるとは思わなかったと言う。
「囮だって!?
王女と知らなかったとしても、恋人ならそんな事させない。
しかもエミリーローズはまだ15歳だ」
メイナードは頬から手を離し、身体を起こす。
「叔父上から早馬が来た時は、デモア王国で緊急事態発生かと、焦りました。
まさか、エミリーローズが見つかるとは思いもしませんでした。母上以外は、とうの昔に生きてはいないと諦め、忘れられた存在でしたから」
メイナードもオーウェン公爵もレネが王女であることを疑いもしない。
赤に色変わりする薄紫の瞳は、絶対的な証なのだ。
ハヴェイ国王、王弟オーウェン公爵、メイナード王太子、エミリーローズ王女のみが有する瞳。
「我が国では、100年以上エミリーローズ以外の王女は生まれていない。
あの子が生まれた時は皆が大騒ぎしたものだ。
だからこそ、あの子の嫁入り先は慎重にせねばならない」
オーウェン公爵が昔を振り返り、言葉を選ぶ。
レネが誘拐されたのもそれが原因であるからだ。
「やはり、運命の王女というのでしょうね。
こうやって、長い戦争が終わりを告げようとしているのだから」
メイナードが、だからこそ大事にせねばならないと暗黙の裡に伝える。
「間違っても、エミリーローズをもて遊ぶような男にやるわけにはいかない」
孤児院で育ったと聞いた。苦労してきたに違いないのだ。
これからは、大切にしてやりたい、兄として当然だとメイナードは思う。
母に似ていた。
幼い妹は可愛かっただろう。 自分は知らない妹をあの男は知っているのだ。
そして、利用している。
いつかは妹もわかるだろう、家族の愛と王女の責務を。
そこにあの男はいない。
「メイナード、あの子はまだ15歳だ。
国に帰ったら、盛大に御披露目をせねばなるまい。
王家直系だけでなく、王族に久しぶりの姫だ」
オーウェン公爵が目を細めて言うのを、メイナードも納得する。
「叔父上のところは息子3人ですからね。
王家は、僕とエミリーローズだけだ。
当分、嫁にはやりませんよ」
結局は、そういう事だ。
どんな男でも許さないのだろう。
小舅メイナード、現れる。
強敵をジルディークは乗り越えられるのでしょうか・・・




