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紅く燃えて瞳は夢をみる  作者: violet
28/76

貴族

デモア語の会話を「」。

ハヴェイ語の会話を『』、としております。


混在しており、読み分けてくださると嬉しいです。


王太子の先導で、ハヴェイ王国の一行は王宮内部に内密に案内された。

和平交渉はともかく、拉致された慈恵は基礎的令嬢の為に公には出来ないことだからだ。

だが、ハヴェイからの一団を隠し通せるはずはないので、和平交渉は確定した時点で早急に公表される。


家族が来るという事を知らされた女性達は、別々の部屋に移動されたが、女性の一人、ライアは頑なに家族と会うのを拒んだ。

ライアの実家が、王家に届け出ず内密に探していた家である。

何よりも格式を重んじる家であることを、ライア自身がよく分かっているのだ。




コンコン。

扉をノックする音に、ライアが震え上がる。

その姿を見て、介護をしてきた侍女が寄り添う。

言葉は分からないが、この1週間でお互いが信頼を寄せるようになっていた。

通訳と護衛を兼ねて、事務官の男性も部屋の片隅に控えて、家族が激昂した時の為に備えている。


侍女が開けた扉から、入ってきたのはライアの両親である伯爵夫妻。

ライアが侍女の腕に手をかけ、隠れるようにする。

その姿を見て、伯爵夫人が目をつり上げる。

『デモアの人間に頼るなんて!』

今まで親に逆らった事のないライアだが、絶望を経験したライアにはもう無くすものなどない。

『どの国にも悪い人も好い人もいます!

ルイジアナさんは、私が荒れていた時も優しく接してくれました!

お母様の言う敵国の人間の私に。

この人を信じれなくて、誰を信じるのですか!』

ライアは、侍女の名を呼びながらすがり付いた。

ルイジアナも言葉は分からないが、名を呼びながらすがり付いてくると親子関係が難しい事がわかる。

ルイジアナも貴族の娘である、事情は想像がつく。


嫁入り前に男に拉致されて、貴族の娘としての価値が大きく落ちた。

つまりは、家名に泥を塗ったということだ。


「ありがとう」

ライアと同じ紫の瞳の父親がデモア語で、ルイジアナに話しかけた。

「デモア語は、あまり出来なくて申し訳ない。娘を助けてくれて、ありがとう」

『お父様?』

ライアが恐る恐る父親を見ると、涙を耐えているかの様に見える。


『レイチェルを許してやってくれ。

お前を探して街中を歩いていた、とても心配していたのだ。

家名に相応しい娘に育てねばならないと、私が追い詰めてしまったのだ』

ライアも分かっている。

母の落胆も、父の真意も。

敵国であるデモアに迎えに来てくれたのだ、心配してくれていたのだ。


ルイジアナがライアをそっと母親のレイチェルの前に押し出した。

『お母様?』

レイチェルがライアに抱きついて、声も出さずに泣き出した。

震える背中を、ライアが撫でる。


『頼もしくなった。

国に戻ったら、伯爵領の事を教えよう。

一人娘だからといって、無理して婿を取らずともよい。』

女は領地経営など知らなくともよい、父の眼鏡に叶う婿に尽くせと教えられてきた。

『直ぐにお前が見つかると思って、王家には届けなかった。

お前の醜聞になるし、我が家の恥になると思っていたからだ。

だがお前は見つからず、お前を無くすという事を初めて考えた。

お前やレイチェルを守る為に、私がいるのだということを。

お前が見つかって嬉しい』


伯爵は、部屋の角に居る事務官に礼を言う。

デモア語を練習してきたらしい。

「娘を助けてくれて、ありがとう」

ハヴェイ語を使える事務官は、ハヴェイ語で説明する、

『軍が突入してお助けしました。

こちらに医師の書簡があります。今後の治療の参考になるでしょう』


ライアにとって地獄のような拉致された日々であったが、たくさんの事を考えた。

生きる意味も、辛さも。

なかった事には出来ない。

だから、進んで行くしかない。

生きていこう、と思う。



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