貴族
デモア語の会話を「」。
ハヴェイ語の会話を『』、としております。
混在しており、読み分けてくださると嬉しいです。
王太子の先導で、ハヴェイ王国の一行は王宮内部に内密に案内された。
和平交渉はともかく、拉致された慈恵は基礎的令嬢の為に公には出来ないことだからだ。
だが、ハヴェイからの一団を隠し通せるはずはないので、和平交渉は確定した時点で早急に公表される。
家族が来るという事を知らされた女性達は、別々の部屋に移動されたが、女性の一人、ライアは頑なに家族と会うのを拒んだ。
ライアの実家が、王家に届け出ず内密に探していた家である。
何よりも格式を重んじる家であることを、ライア自身がよく分かっているのだ。
コンコン。
扉をノックする音に、ライアが震え上がる。
その姿を見て、介護をしてきた侍女が寄り添う。
言葉は分からないが、この1週間でお互いが信頼を寄せるようになっていた。
通訳と護衛を兼ねて、事務官の男性も部屋の片隅に控えて、家族が激昂した時の為に備えている。
侍女が開けた扉から、入ってきたのはライアの両親である伯爵夫妻。
ライアが侍女の腕に手をかけ、隠れるようにする。
その姿を見て、伯爵夫人が目をつり上げる。
『デモアの人間に頼るなんて!』
今まで親に逆らった事のないライアだが、絶望を経験したライアにはもう無くすものなどない。
『どの国にも悪い人も好い人もいます!
ルイジアナさんは、私が荒れていた時も優しく接してくれました!
お母様の言う敵国の人間の私に。
この人を信じれなくて、誰を信じるのですか!』
ライアは、侍女の名を呼びながらすがり付いた。
ルイジアナも言葉は分からないが、名を呼びながらすがり付いてくると親子関係が難しい事がわかる。
ルイジアナも貴族の娘である、事情は想像がつく。
嫁入り前に男に拉致されて、貴族の娘としての価値が大きく落ちた。
つまりは、家名に泥を塗ったということだ。
「ありがとう」
ライアと同じ紫の瞳の父親がデモア語で、ルイジアナに話しかけた。
「デモア語は、あまり出来なくて申し訳ない。娘を助けてくれて、ありがとう」
『お父様?』
ライアが恐る恐る父親を見ると、涙を耐えているかの様に見える。
『レイチェルを許してやってくれ。
お前を探して街中を歩いていた、とても心配していたのだ。
家名に相応しい娘に育てねばならないと、私が追い詰めてしまったのだ』
ライアも分かっている。
母の落胆も、父の真意も。
敵国であるデモアに迎えに来てくれたのだ、心配してくれていたのだ。
ルイジアナがライアをそっと母親のレイチェルの前に押し出した。
『お母様?』
レイチェルがライアに抱きついて、声も出さずに泣き出した。
震える背中を、ライアが撫でる。
『頼もしくなった。
国に戻ったら、伯爵領の事を教えよう。
一人娘だからといって、無理して婿を取らずともよい。』
女は領地経営など知らなくともよい、父の眼鏡に叶う婿に尽くせと教えられてきた。
『直ぐにお前が見つかると思って、王家には届けなかった。
お前の醜聞になるし、我が家の恥になると思っていたからだ。
だがお前は見つからず、お前を無くすという事を初めて考えた。
お前やレイチェルを守る為に、私がいるのだということを。
お前が見つかって嬉しい』
伯爵は、部屋の角に居る事務官に礼を言う。
デモア語を練習してきたらしい。
「娘を助けてくれて、ありがとう」
ハヴェイ語を使える事務官は、ハヴェイ語で説明する、
『軍が突入してお助けしました。
こちらに医師の書簡があります。今後の治療の参考になるでしょう』
ライアにとって地獄のような拉致された日々であったが、たくさんの事を考えた。
生きる意味も、辛さも。
なかった事には出来ない。
だから、進んで行くしかない。
生きていこう、と思う。




