ハヴェイからの使者
国境にある街で起こった数十年前の事件が戦争の発端であった。
表敬訪問の帰路に、デモア王国王太子夫妻の乗った馬車が襲撃され、王太子妃と警護の多くの騎士が犠牲になり、王太子が大ケガを負い、随行員も多大な被害を負った。
ハヴェイ国内であった為に、ハヴェイ側でも被害が出ていたが、デモア王国はハヴェイ王国の策略と決定し、すぐに進軍した。
その戦争は国境線を巡り、何十年も続く事になり両国に不信と憎悪を植え付けた。
12年前に休戦条約が締結されたが、それはお互いの国力回復の為であり、規約違反のない不安定な条約でもあった。
ハヴェイ側からオーウェン公爵の来訪の書簡を受け、王太子を筆頭に国境に向け軍馬の一群が駆け出た。
そこにはジルディーク、ゲイルを含め、王太子の側近が揃っていた。
ハヴェイ王国からの使者を出迎え、安全に王宮まで警護するデモア王国側の強い意思表示でもあった。
国境で出迎えたオーウェン公爵の馬車列は、緊急の為のにわか仕立てと思えぬ立派な隊列であった。
オーウェン公爵も、出迎えがデモア王国王太子であるとわかり、信頼したようだった。
『ご令嬢達には、ご家族が来られる事を伝えておりません。
とても傷付いておられるので、様々な事に強迫観念を持たれるのです』
王太子の説明に、オーウェン公爵も納得する。
貴族の令嬢として、家名を汚したと言われるのではと不安なのだろう。
王宮でも歓迎式典などなく、和平交渉と、令嬢と家族の対面のみの予定だと伝えると、オーウェン公爵の方から話が出た。
「我が国の令嬢を助ける為に、尽力した女性がいると聞いてます。
女性には危険な任務だ。会って一言礼を言いたい。」
オーウェン公爵がデモア語で、ローゼルがハヴェイ語というおかしな会話がすすむ。
時間が惜しいので、オーウェン公爵の馬車で移動しながらである。
『彼女は、そのような任務の者ではありません。
我が国の公爵家で侍女をしております』
「侍女に危険な事をさせたのか!」
『お恥ずかしい話ですが、彼女の代わりにハヴェイ王国の令嬢を拉致したのではと考えられる程の固執があり、屋敷を探索するために仕方なかったのです。
もちろん、安全には最大の配慮をしました。
私にとっても大事な女性ですので』
ローゼルは、未だにレネを寵妃にと考えているらしい。
もしくは、王宮に引き抜いて、朝食担当にさせるか。
大事な女性と聞いて、普通は恋愛関係と考える、オーウェン公爵も同じだった。
『公爵に初めてお会いしましたが、彼女と瞳の色が同じなので、親近感があります。
保護している令嬢達の紫色とは、同じ紫でも違いますね』
オーウェン公爵は、その言葉に衝撃を受けたが、口には出さずにいた。
ましてや、15歳の少女とは想像もしていない。妙齢の女性と思い込んで話がすすむ。
「是非とも、その女性にお会いしたいです。
必ず機会を設けてください」
自分と同じ色の紫の瞳、何故デモアに?
ハヴェイ王国では、紫の瞳に大きな意味を持つ。それは血統を表す印でもあるからだ。
ハヴェイ王国の貴族、しかも紫の瞳の令嬢は由緒正しい家系である証。
その令嬢が行方不明と報告されたのは、各家からであった為に、別々に受理されていた。
王家には届けず、内密に探している家もあった。
拉致されたとは思わず、令嬢が逃走したのではと思っている家もあった。
デモアからの使者が来て、3人も行方不明とわかったぐらいだ。
後手になっているのは、隠しようもない。
デモア王国の外務大臣が特使となって来たから信じたが、にわかには信じられない話であった。
デモアの書簡の通り、3人の令嬢が行方不明とわかり、王宮では大変な騒動になった。
デモアが、ハヴェイから隠匿する道もあったのに、自国の非を認め報告があった事に、王を始め、重鎮が和平に乗り出した。




