修復改善への道
医師の治療を受け、女性達は順調に回復していき、顔色も良くなってきた。
泣く事すら出来ない状態だった女性達は、やっと心の底から泣けた事で現実を見始めた。
『レネは何歳? どうして、この国にいるの?
その瞳の色は、この国にはないでしょ?』
アウロアと名乗ったハヴェイの伯爵令嬢は、包帯を替えているレネに問いかけた。
『私は15歳です。
この国の孤児院の前に、私を抱いた母親が倒れていたそうなの。そのまま亡くなって、孤児院で育てられました。
今はユレイア公爵家で公爵夫人の侍女をしています』
『苦労したのね、レネ。
私達と一緒にハヴェイに行きましょう。貴女の瞳は、ここに居てはいけないわ』
レネはもう1週間も王宮に通い、3人の女性のお世話をしていた。
この1週間で打ち解け、アウロア達は身の上話もした。
3人はバラバラにだが、ハヴェイの街で拉致され連れて来られたらしい。
『カフェの洗面所に行ったら、男性がいて、驚きすぎてしまったの。
粗相をしてしまい、大声を出して人を呼ぶのを躊躇してしまったの。
次に気が付いたら、手足は縛られ馬車の中に閉じ込められて・・馬車が着いたのが・・』
その先は言葉が続かない。
言葉が無くとも、レネも女官達も分かる、トウゴ伯爵邸に連れて来られたのだ。
事情聴取していた事務官達も、卑劣な犯行に怒りが湧いてくる。
伯爵家での事は、誰も聞かない。
何をされていたかなど分かっているからだ。
「無理して話さなくていいのよ。
辛かったわね。よく頑張ったわ」
そっと手を握る年配の女官の言葉をレネが通訳する。
事務官が席を立ち、部屋を出て行った。
これ以上は負担になると判断したのだろう。
やっと男性の同席ができるようになったのだ。
『う、う・・』
戻れない時間。
あの時声を出していれば、洗面所の外にいた同行の侍女に気づいてもらえたろう。
街に買い物などに行かなければ。
ベッドで身体を丸め、後悔の涙が止まらない。
トウゴ伯爵に協力者がいたというよりは、街の破落戸共を雇って行動をしたと考えられる。
そこまでして、紫の瞳にこだわったのは、ユレイア公爵家に引き取られたレネの身代わりだったのか。
その頃、王の執務室にハヴェイに向かった急使の騎士が戻って来た。
手には、ハヴェイ国王からの書状を大事に持っている。
「ハヴェイ国王との謁見が叶い、外務大臣が誠意をもって陳謝と説明をいたしました。
ここに書状を預り、先に戻って参りました」
デモア国王は、書状を受けとると集めた重鎮達と内容の確認に入る。
「外務大臣はどうした?」
「既にハヴェイ国王弟、オーウェン公爵に同行してハヴェイ王国を出発してデモア王国に向かってます。
2日程で到着予定です」
「では、ここに書いてある和平案は間違いないのだな!」
ハヴェイ国王からの書状には、和平交渉内容が書かれていた。
「同時に、ご令嬢方のご家族も来られます。
私は急ぎ戻って参りましたので、これ以上の詳細は分かりません。」
王に報告する騎士は、ずっと駆けてきてのだろう。息を切らしたままである。
「よくやった。
不眠で駆けてきたのだろう。別室で少し休むがいい」
王の労いに、騎士は礼を取り執務室を出て行った。
執務室は、書状の確認と共に和平に向けて進みだした。
誰もが、和平など考えてもいなかった。
戦争を避ける、ただその思いだったのだ。
「警備態勢の確認をしろ。
特使で来られるオーウェン公爵の警備態勢を強化するのだ」
王太子が、筆頭になってハヴェイ王国外交団の受け入れを進める。




