父の決断
ミズーリ侯爵は王に呼び出され、親戚のトウゴ伯爵の罪を伝えられていた。
トウゴ伯爵の罪状は、一族処分もありえる程の重罪だ。
影響の大きさに驚愕するが、トウゴ伯爵家を切り捨てるだけでは済まされない、というのは分かる。
ハヴェイ王国に内密に処分する、令嬢たちの存在を隠蔽する、頭によぎるが、隠しきれるものではないだろう。
トウゴ伯爵家での捜査は、軍の投入で近隣に隠してできることではなかった。
「申し訳ありません。
一族の長として、管理不行き届きであります。
捜査に協力して、被害に会われたご令嬢には誠意をもって尽くそうと存じます」
ミズーリ侯爵は、王に頭を下げる。
豪奢な王の執務室に居並ぶ重鎮達、重い空気に包まれた部屋で対策を練られる。
そこに届いたのが、ユレイア公爵夫人からの伝令だ。
「ミズーリ侯爵、困ったことをしてくれた」
公爵から事情を聞いたミズーリ侯爵は、目の前が真っ暗になるようだった。
トウゴ伯爵の事件で、親戚として責任の一端を負わされるというのに、ユレイア公爵の協力を得られなくなるのだ。
婚約を続けることは難しいだろう。
「公爵、娘がとんでもないことを。申し訳ありません、夫人のおケガはどうでしょうか」
「妻は大丈夫なようだが、妻を庇った侍女がケガした」
トウゴ伯爵の事で憤怒の状態なのが、娘まで家名に泥を塗る行いで、ミズーリ侯爵は言葉も出なかった。
ユレイア公爵と共にミズーリ侯爵は、公爵邸に向かったが、王太子執務室にいたジルディークとゲイルも報告を聞いて公爵邸に向かっていた。
「お前はなんて事をしでかしたんだ!」
ミズーリ侯爵は、ユレイア公爵邸のサロンで侍従に監視されて泣きじゃくっている娘を見るなり、怒鳴りつけた。
公爵が、ロザリーナはどうした? とサロンにいない公爵夫人の様子を侍従に尋ねる。
「奥様は医者が到着したので、レネの治療に付き添っています」
ガタン!
サロンの扉が大きく開き、ジルディークとゲイルが到着した。
「父上、レネがケガしたと聞きました。母上は?」
「ロザリーナは大丈夫だが、レネが治療中だ」
治療中では部屋に入れまいと、ジルディークが息を吐く。
「ジルディーク様」
震える声が聞こえて、ジルディークはそこにカミラがいることに気が付く。
ジルディークは、カミラを無視してミズーリ侯爵に対峙する。
「侯爵、残念です。
母に暴力を奮うような女性と結婚はできません。
婚約は解消となります」
ジルディークの言葉はカミラへの断罪だ。
「違うの!
あの女なの! まだ子供のくせにジルディーク様を誘惑するような女のせいよ!」
カミラを止めたのはジルディークではなく、ミズーリ侯爵だ。
「黙れ!
まだ恥を上塗りするか!」
ミズーリ侯爵は、ユレイア公爵とジルディークに非礼を謝ると、改めて詫びに来ると伝えてカミラを連れ帰った。
「ミズーリ侯爵は、分を弁え、信頼できる人物で婚約を決めたが、娘があれではダメだ」
公爵は、ジルディークに告げた。
「レネを養女にとってくれる男爵家、伯爵家を決めよう」
「ありがとうございます、父上」
ジルディークと公爵が、レネをジルディークの婚約者と決めた瞬間だった。




